宮島のごみ問題が深刻化―観光地としての持続可能性と地域の取り組み

はじめに:景観と環境を脅かす宮島のごみ問題

宮島は、世界遺産にも登録され、日本三景の一つとして国内外から多くの観光客が訪れる美しい島です。しかし近年、その美しさを脅かす「ごみ問題」が深刻化しています。特にコロナ禍明け以降、観光客の戻りと共に、ごみの量がコロナ禍以前を上回るまでに増加しています。目立つのは、ペットボトルや食べ物の容器などの 使い捨てプラスチックごみ の置き捨てです。

島内の自然や文化財、そして住民や観光事業者にとって、ごみ問題は避けて通れない課題となっています。「美しい宮島を守りたい」――こうした思いから、地域全体でさまざまなごみ対策が行われています。

観光復調の裏で加速するごみ増加

観光の回復は地域経済にとって歓迎すべきことですが、その一方で負の側面も浮き彫りになりました。島の各所には 観光客による置き去りごみ、とくにペットボトルやテイクアウト容器、ストローなどプラスチックごみが目立つようになりました。夏場にはビーチや海岸沿い、紅葉の季節には参道や神社周辺で大量のごみが排出され、見かける光景は以前よりも悪化しています。

  • コロナ禍前のレベルを超えるごみ量:観光客1人あたりのごみ量が増加傾向。使い捨てプラスチック製品の使用が依然として多い。
  • 地域住民への負担増大:島内の清掃ボランティアや自治体職員だけでは対応しきれず、ごみが景観や野生動物に悪影響を及ぼしている。
  • 海洋ごみとしての二次被害:風や雨で流されたプラスチックごみが瀬戸内海へ流出し、広域的な環境問題へ発展している。

「ACTION FOR ZERO Miyajima」――地域一体で挑むごみ削減プロジェクト

この状況に危機感を抱き、2025年秋から「ACTION FOR ZERO Miyajima」という地域一体型のごみ削減キャンペーンがスタートしました。主催は広島県、廿日市市、飲食・宿泊・小売など地元事業者が連携し、観光地としての持続性を高める試みです。

プロジェクトの主な目的は以下の2点です。

  • 使い捨てプラスチックごみの使用量削減:飲食店や宿泊施設において、テイクアウト容器やアメニティなどを自然素材や再生素材へ置き換える動きが進められています。
  • 事業者・消費者の課題解消:観光客や地元住民への啓発活動を強化。ごみを出さない行動の呼びかけ、マナー向上キャンペーン、情報共有による地域全体の意識改革を目指しています。

2025年9月13日には、キックオフイベントとして環境配慮型マルシェが開催され、子ども向けワークショップやエコ商品の展示販売が行われ、多くの人が「ごみ問題」を身近に感じるきっかけとなりました。

現場で役立つ最新のごみ対策施策

こうした啓発活動に加え、実際にごみの発生を減らすための工夫や新たな取り組みも増えています。

リサイクルゴミ袋の開発と配布

2025年11月、廿日市市の海岸および宮島島内で回収されたペットボトルから再生された原料を一部使用した「リサイクルゴミ袋」が開発され、島内のごみ対策イベント「宮島ごみ対策マナーアッププロジェクト」で参加者に配布されました。循環型社会の象徴ともいえるこの取り組みは、資源回収の大切さや分別の意識向上に役立っています。

  • ペットボトルの再資源化による地域循環型のごみ管理モデルの創出
  • 観光客向けガイドマップと合わせたマナー啓発の配布
  • イベントに協賛する地元企業や近隣学校の環境教育活動

スマートごみ箱やIoT活用の進展

宮島では、IoT技術を活用したスマートごみ箱「SmaGO」も導入されています。ごみの蓄積状況をリアルタイムで把握し、回収業務の効率化やごみあふれ防止につなげています。

新たな循環型プロジェクト「Precious Plastic Miyajima」

2025年秋、島内には「Precious Plastic Miyajima」という循環型ごみ再生プロジェクトも誕生しました。これは、島で回収されたプラスチックごみを小型の機械で砕き、再生製品(アクセサリーや雑貨など)へとアップサイクル(価値を高めて再生)する国際的なムーブメントの宮島版です。観光客も参加できる体験型ワークショップも開催され、ごみ問題の本質やリサイクルの重要性を五感で理解してもらう工夫がされています。

  • 島のプラスチックごみを自分たちの手で地域資源へ
  • 教育と社会参加を組み合わせた参加型の取り組み
  • ものづくりによる新たな観光体験やエコ商品の開発

住民と観光客、事業者が協力する持続可能な観光地づくり

一連の施策は、ごみの排出をゼロにすることがすぐに達成可能というわけではありません。しかし、地域に根ざした努力の積み重ねが宮島本来の美しい自然や文化を守る第一歩です。

特に重要なのは、「ごみを出さない」「持ち帰る」「分別する」という一人ひとりの基本的な心がけ。これを観光客にもわかりやすく伝えるため、飲食店や宿泊施設では「マイボトルやマイバッグの持参」を呼びかけ、島内のごみ箱設置場所の限定・適正配置などの工夫も行われています。

  • 住民・事業者の定期清掃、ボランティア活動への参加促進
  • 観光協会が啓発ポスターやSNSを活用した情報発信
  • 子どもや学生への環境教育の充実、島内小中学生のごみ拾い体験

宮島の未来へ:地域・観光客が共創する“ごみゼロ”の島へ

瀬戸内海の恵みと島の美しさを守り続けるため、宮島は今、多くの人々が知恵と力を合わせています。コロナ禍前を超える観光復調の中、課題も大きくなっていますが、最新技術とアイディア、そして島を愛する皆の情熱が大きな力となっています。将来的には、ごみにならない素材の普及、分別徹底、観光と環境教育が融合した「ごみゼロ観光地循環モデル」への発展が期待されています。

宮島を訪れるすべての人へ。美しい景色や歴史、そして島暮らしを未来へ残すために、観光マナーを守り、ごみを正しく扱うことが何より大切です。そのひとつひとつの小さな行動が、世界に誇る宮島の未来を形づくります。

参考元