米国株の下落相場、VIX指数上昇で市場の警戒感が急速に高まる
2025年11月中旬から下旬にかけて、米国株式市場が大きく下落し、投資家心理を示す指標であるVIX指数が急速に上昇しています。11月17日のS&P500は前日比0.92%安の6672.41ポイントで取引を終え、3営業日の続落となりました。この相場環境の中で、市場関係者から様々な分析が出始めており、下落要因から反転の可能性まで、複雑な市場動向が浮かび上がっています。
VIX指数は11月18日時点で22.44まで上昇し、前日比で12.91%の上昇を記録しました。通常は10~20程度で推移するこの指数が20を超える水準に上昇することは、市場が本格的なリスク回避局面に入ったことを示しています。投資家の不安心理が急速に高まっている状況が数値からも明確に読み取れるのです。
流動性の問題が下落を加速させている
米国株が大きく下落している理由について、複数の金融機関から分析が出ています。JPモルガンのトレーダーらは、「流動性の圧力」が今月の米国株大型株の下落における主要な原因だと指摘しています。市場における売却圧力が高まる中で、流動性が不足すると相場の下落がさらに加速する傾向があります。
具体的には、米連邦準備制度理事会(FRB)の12月利下げ期待が後退したことが大きな要因として作用しています。FRB高官から相次ぐタカ派的な発言により、市場では「12月は利下げを見送るのではないか」との観測が強まり、利下げを期待していた投資家による売却が進みました。また、エヌビディア(NVDA)などハイテク関連企業の決算を控えて、AI関連株を中心に利益確定の売りが優勢となったことも、市場の下落要因となっています。
セクター別で見る下落の広がり
11月17日のセクター別パフォーマンスを見ると、11セクター中わずか2セクターのみが上昇し、9セクターが下落しました。下落のワースト3は金融が1.93%安、エネルギーが1.88%安、素材が1.53%安となっており、景気敏感株の売りが広がっていることが明らかです。一方、上昇したのはコミュニケーション・サービスが1.13%高、公益事業が0.84%高にとどまっています。この結果は、市場全体に広がる弱気なムードを象徴しており、決してハイテク株だけの問題ではないことを示しています。
NYダウは1.18%安の46,590.24ドル、ナスダックは0.85%安の22,708.08と、主要3指数すべてが下落する状況となっています。年末相場を前に、投資家の慎重な投資判断が求められる局面となっているのです。
ゴールドマン・サックスが警告する株式売却圧力
ゴールドマン・サックスは、来週の株式売却圧力が400億ドル規模に達すると予想しています。この大規模な売却の可能性は、市場に一段と警戒感をもたらしています。機関投資家の運用方針変更や、ポートフォリオの構成変更が一時に実行される場合、市場流動性がさらに圧迫される可能性があるでしょう。
大規模な売却が実行されると、VIX指数はさらに上昇し、市場の混乱が深まる可能性があります。年末にかけて、こうした流動性の制約は投資判断を一層難しくさせることになりそうです。
技術指標が示す過度な悲観論
一方で、異なる観点から市場を分析する声もあります。ジェフリーズ(Jefferies)は、複数の技術指標が投資家の過度な悲観を示していると指摘し、米国株が近い将来反発する可能性が高いと分析しています。相場が過度に売られ過ぎた状況では、その後の反動で株価が戻る傾向があるという考え方です。
技術指標にはRSI(相対力指数)やストキャスティクスなど、過買いや過売りの状況を示す指標があります。これらが過売り圏に入っている場合、そこからの反発が期待できるというのが投資分析の基本原則です。ジェフリーズの分析は、短期的な下落の後に市場が落ち着きを取り戻す可能性を示唆しています。
日本株への影響と円相場の動向
米国株の下落は日本株にも影響を与えています。11月中旬から下旬にかけて、日経平均株価には若干の調整が見られました。特にソフトバンクグループやアドバンテストなど、米国市場の影響を大きく受ける大型株が売られています。ただし、影響度が大きい4銘柄を除いた日経平均株価は上昇しており、日本株全体が大きく下げているわけではないという見方もあります。
一方、外国為替市場ではドル円が155円台、ユーロ円が180円台と円安が大きく進行しています。ユーロ円は1999年のユーロ導入以来初めて180円台を突破しました。この円安進行は、日本の輸入企業のコスト増加につながる可能性があり、日銀の追加利上げ判断にも影響を与えそうです。
市場の今後の展開と投資判断
足元の米国株市場は、複数の不安要因を抱えています。FRBの政策方向が不透明であることに加え、AI関連企業による大型投資の継続可能性についての疑問も出始めています。S&P500は最高値から3.17%下落しており、テクニカル的には重要なサポートレベルとなっている6600ポイント台半ばを割るかどうかが注目されています。
年末相場を前に、市場は大きな岐路に立たされています。JPモルガンが指摘する流動性問題やゴールドマン・サックスが警告する売却圧力が実現する場合、さらなる下落が懸念されます。一方、ジェフリーズが指摘する技術指標の過売り状況が実現すれば、そこからの反発も期待できるでしょう。
投資家は今後発表される経済指標や企業決算の内容を見極めながら、神経質な相場環境に対応していく必要があります。特に11月19日に予定されていたエヌビディアの決算発表など、重要なマイルストーンを控え、市場は予断を許さない状況が続いています。VIX指数の動きを注視し、市場心理の変化を捉えることが、投資判断の重要なポイントとなるでしょう。
まとめ
米国株式市場は2025年11月中旬から下旬にかけて大きな調整局面に入っており、VIX指数の上昇がそれを象徴しています。流動性問題、FRBの政策方向の不透明さ、AI関連株の売却圧力が相互作用する中で、市場は不安定性を増しています。しかし同時に、技術指標が示す過度な悲観から反発の可能性も示唆されており、年末にかけて市場の動向を注視する必要があります。




