大気汚染と高齢者の健康リスク──健康を守るために私たちができること

大気汚染は、目に見えないものの私たちの健康や暮らしに大きな影響を与える深刻な環境問題です。最近では、特に65歳以上の高齢者における「心不全」の増加と、大気汚染との関連性が注目されています。循環器内科医師・小島淳先生の監修のもと、最新の大気汚染の現状、身体への影響、そして日常生活でできる健康対策について、わかりやすく解説します。

大気汚染とは何か──その現状について

大気汚染とは、工場の排煙や自動車の排気ガスなどに含まれる様々な有害物質が空気中に増加し、私たちが呼吸する空気の質を悪化させる現象です。代表的な大気汚染物質には微小粒子状物質(PM2.5)、二酸化窒素(NO2)、浮遊粒子状物質(SPM)、二酸化硫黄(SO2)、光化学オキシダント(Ox)などがあります。

  • 2024年度の東京都内のPM2.5年平均濃度は9.0マイクログラム/㎥であり、2015年度以降低下傾向を示していますが、長期的な注意が必要です。
  • 二酸化窒素や浮遊粒子状物質については、2014年度以降全ての測定局で環境基準をクリアしています。
  • 一方で光化学オキシダント(Ox)は近年、増加傾向がみられ、目標値の達成は困難な状況が続いています。

環境省等の発表によれば、日本の多くの地域では徹底した排出規制や技術革新の努力により、大気汚染物質の濃度は総じて低下しています。しかし、光化学オキシダントなど一部の成分は依然として注意報が発令される場合もあり、特に都市部や周辺地域での警戒が求められます。

大気汚染が健康に及ぼす影響

大気汚染は、長期的な健康被害を引き起こすことが明らかになってきています。特にPM2.5は体内に入りやすく、肺だけでなく血液にまで到達するため全身の臓器への影響が懸念されています。

  • 呼吸器系の疾患:ぜんそく、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺がんなど。
  • 循環器系への影響:心筋梗塞や心不全のリスク増加。
  • その他:免疫低下、糖尿病や脳梗塞などのリスク変動。

中でも近年の研究結果では、高齢者における心不全の増加に大気汚染が新たなリスク要因となっていることが報告されています。加齢による体力・免疫力の低下や、背景疾患を持つ方が多い高齢者は、大気汚染物質の影響をより強く受けやすいのです。

高齢者と心不全──増加する背景とその要因

日本では高齢化が進み、65歳以上の人口は全体の約30%を占めています。このような社会構造の中で、心不全の新規患者数が顕著に増加しています。

循環器内科医師・小島淳先生によれば、「心不全の発症や悪化の背景には、加齢や生活習慣病とともに近年では“大気汚染”が注目すべき新たなリスクとして浮上している」と指摘されます。微量でも長期間暴露され続けると、心臓の機能や血管へダメージを与え、心不全の発症や急性憎悪(症状の急激な悪化)へとつながるケースがあるためです。

心不全の主な症状と大気汚染による悪化リスク

心不全とは、心臓が全身に十分な血液を送り出せなくなった状態を指し、以下のような症状が現れるのが特徴です。

  • 息切れ・動悸
  • むくみ
  • 倦怠感
  • 体重増加(急なむくみを反映)

大気汚染が強い日に外出することで呼吸器系への負担が増し、心不全症状はさらに悪化する恐れがあります。また、PM2.5など有害物質が血管や心臓に直接ダメージを与えて病状の進行を促すことも報告されています。

大気汚染下での健康を守る工夫

大気汚染の影響を最小限にするために、私たち一人ひとりができる対策を紹介します。

1. リアルタイムで大気汚染情報をチェック

インターネットや自治体のホームページでリアルタイムの大気汚染状況を確認できます。PM2.5 や光化学オキシダントの注意報が出ている日は外出を控えたり、マスクの着用を心掛けましょう。

2. 換気のタイミングを工夫

大気汚染がひどいとされる日・時間帯(朝夕のラッシュ時など)を避けて窓を開けるようにしましょう。空気清浄機の使用も有効です。

3. 外出時のマスク着用と衣類の工夫

  • マスクはPM2.5対応のものを選ぶと、より安心です。
  • 長時間の外出や運動は、できるだけ空気の良い場所・時間帯を選びましょう。

4. 規則正しい生活習慣と予防医療

  • 栄養バランスのとれた食事、十分な睡眠、適切な運動を心がけ、基礎疾患(高血圧、糖尿病など)の管理をしっかり行いましょう。
  • かかりつけ医との連携を保ち、定期的な健康診断を受けて健康状態を常に把握しておくことが重要です。

日本の大気汚染対策と今後の展望

日本では、工場や自動車からの排出ガス規制、ディーゼル車規制、大気汚染物質の排出低減に向けた技術革新が続けられてきました。その結果、多くの大気汚染物質は環境基準を達成しています。

しかし、都市部や人口密集地では依然として注意報が発令されることがあり、光化学オキシダントやPM2.5への対策が課題となっています。さらに、大気汚染は地球温暖化や気候変動とも密接に関連しており、長期的な視点での取り組みが不可欠です。

大気汚染の情報をどのように活用すべきか

私たちは、自治体や気象機関が発信する大気汚染情報や注意報を活用し、日常生活のリスクマネジメントを行うことが大切です。

  • 高齢者や基礎疾患のある人は、特にリスクが高いため最新情報を把握しアクションをとりましょう。
  • 家族や地域での声かけも重要です。高齢の家族や一人暮らしのお年寄りに情報を伝えたり、必要な対策をサポートしましょう。

まとめ──見えない危険への備えを

大気汚染は、今この瞬間も私たちの健康に影響を及ぼしています。高齢者の心不全リスク増加という新たな問題も明らかになりつつある今、「見えない危険」を“知る”こと、そして“備える”ことが大切です。日々の生活の中でできる小さな工夫や意識の変化が、ご自身やご家族の健康を守ります。

参考情報:関連する公式発表やデータ

  • 環境省:「令和5年度 大気汚染状況について」では、主要な大気汚染物質の環境基準達成率や最新の濃度データが公表されています。
  • 東京都:「2024年度 大気汚染状況の測定結果」では、都内の詳細な測定値や今後の対策が明記されています。
  • 大気汚染のリアルタイム情報は、インターネットなどで随時確認することが可能です。

今後の課題と私たちにできること

国・自治体・企業は引き続き大気汚染対策を強化していますが、一人ひとりの行動も大きな意味を持ちます。「環境にも健康にもやさしい社会」を目指し、皆さんで情報共有と対策を進めていきましょう。

参考元