日本におけるがん生存率の最新動向と肺がんの早期発見への取り組み
はじめに
がんは長きにわたり日本人の死亡原因として上位に位置し続けており、多くの方が不安を抱えています。しかし医療の進歩により、がんの生存率は着実に向上しています。本記事では、最新のがん5年生存率や、患者さんや家族が知っておきたいポイント、肺がんの早期発見に向けた分かりやすい医療現場の工夫について解説します。がんと診断された時の「その後」に希望を持てるよう、分かりやすくお伝えします。
最新がん5年生存率の発表背景
国立がん研究センターは2025年2月、2012~2015年に診断されたがん患者のうち、主要部位の5年「純生存率」(がん以外の原因による死亡を除外した、生存率)を公表しました。これは日本全国のがん治療の状況をつかみ、今後の医療改善や患者・家族への情報提供に役立てるために行われています。サバイバー5年生存率という新しい指標も導入され、がんと診断後に一定期間生存した患者さんの「次の5年間」の生存率も集計されています。
部位別 5年生存率の最新データ
2025年2月時点で発表された主要がん種ごとの5年純生存率(成人男女合計)は以下の通りです。
- 胃がん:63.5%
- 大腸がん(直腸・結腸):67.2%
- 肝がん・肝内胆管がん:33.7%
- 肺がん:35.5%
- 女性乳がん:88.7%
- 子宮がん:75.9%
- 前立腺がん:94.3%
生存率は発生部位によって大きく異なり、乳がんや前立腺がんは非常に高い値である一方、肝臓や肺といった臓器のがんは依然として低い水準となっています。特に肺がんの35.5%という数値は、早期発見と治療の重要性を物語っています。
がん進行度(ステージ)と生存率
がんの進行度(ステージ)は、生存率を決定づける大きな要素です。例えば、限局型(早期)で診断された場合は以下の高い生存率となります。
- 胃がん(限局型):92.4%
- 大腸がん(限局型):92.3%
- 肺がん(限局型):77.8%
- 乳がん(限局型):98.4%
しかし進行がん(ステージIII・IV)となると生存率は大きく低下します。例えば胃がんIV期では、診断後早期の5年生存率は約5.5%ですが、1年ごとに生存すると5年生存率が次第に改善し、5年後には61.2%となるなど「サバイバー5年生存率」の向上も報告されています。
がん生存率とは?数字の見方とその意味
がん生存率とは「ある期間(例:5年)後にがん患者が生存している可能性」を示します。5年生存率が高いほど、治療の効果や医療体制の充実、早期発見の普及が進んでいることが推察できます。
一方、部位・進行度、年齢、治療法の進化など多様な要因が絡み合うため、一概に「生存率が低い=治療できない」とは言えません。治療の進歩や新薬の登場により、生存率が今後もさらに伸びる可能性があります。また、年齢が高いほど、がん以外の疾病などで生存率の低下が見られる傾向も指摘されています。
肺がん~死亡率が高いがんと早期発見の重要性~
肺がんは、日本でも死亡率が非常に高い「最も危険ながん」の一つです。早期症状がほとんどないため、気づきにくく、診断された時には進行しているケースが少なくありません。
統計では、非小細胞肺がん(NSCLC)のIII期では診断から5年経過した患者の、その後の5年生存率は56.7%になる一方で、膵臓がんIV期では初期の5年生存率は1.3%にとどまり、とても厳しい状況です。このことからも、治療後も経過観察を続けることで「サバイバー5年生存率」が向上する現象が示されています。
上海の病院による肺がんの啓発活動:CT画像を「西瓜」に例える分かりやすい工夫
最近の中国・上海では、肺がんの早期診断や予防の啓発活動が積極的に行われています。特筆すべきは、CT検査の画像説明方法です。上海のある病院では、CT画像を「スイカを切って断面を見る」ように説明し、一般の方々が「見て納得し、信頼できる」形式で肺がんの理解を深めています。
- 切り方を工夫し、腫瘍の位置や形状を直感的に理解できる。
- 外来診療や啓発イベントで、実際の果物や模型を使いながら説明。
- 専門用語を避け、日常生活に例えて話すため、納得しやすい。
このような工夫は、患者さんの不安を和らげ、早期検診への関心を高めるだけでなく、病院と患者との信頼関係構築にも大きく貢献しています。日本でも、医療情報の伝え方にさらなる工夫が求められる時代になっています。
がん早期発見と検診の重要性
生存率の高さは、がんの「早期発見」と「早期治療」が大きく寄与しています。国立がん研究センターのデータでも、検診対象がん(胃・大腸・乳・子宮など)は10年生存率も高い傾向にあります。特に限局型(ステージI)で発見できれば、数値は飛躍的に向上します。
- がん検診を定期的に受けることで、無症状のうちに発見できる可能性が高い。
- 生活習慣の改善(禁煙、バランスの良い食事、適度な運動)が重要。
- 家族にがん歴がある場合は、特に注意して定期検診を受けましょう。
「自分はまだ若いから大丈夫」「症状がないから検診は要らない」と考える方も多いですが、がんは進行スピードが個人差で大きく変わります。少しでも気になる症状があれば、早めに医師に相談することが大切です。
患者さん・ご家族へのメッセージと今後の展望
最新の生存率データから、がん治療は確実に前進していることが分かります。とりわけ「サバイバー5年生存率」という考え方が定着し、「診断直後が最も厳しい」だけでなく、治療を重ねて生存するごとに次の5年の生存率が上がる現実が示されています。
これからは、医療者と患者が目線を合わせて情報を共有し、「分かりやすさ」「納得感」「安心感」を大切にした医療がますます求められます。早期検診や生活習慣の見直しを家庭や社会全体で促し、がんに負けない社会を築いていきましょう。
おわりに
がんは決して珍しい病気ではありませんが、適切な知識や行動で十分に向き合える時代です。最新データ、優しい説明、患者目線の医療づくり──この3つが、生存率向上と心の支えへと繋がっていきます。自分や身近な人のために、「今できること」を一歩ずつ進めていきましょう。




