高知県「精神障害者医療費助成の方針」決定と家族会の声 ~1級のみ対象拡大を求める現場からの訴え~
高知県が精神障害者向け医療費助成制度見直しへ
2025年11月18日、高知県が「精神障害者」に対する新たな医療費助成の方針を固めたことが報じられました。2027年度から精神障害者保健福祉手帳「1級」を所持する方のみを助成の対象とする政策転換が予定されており、県内外で大きな反響が広がっています。
この方針に対し、精神障害当事者の家族でつくる会をはじめ多くの生活現場からは「対象拡大」の声が訴えられています。「1級だけでは人口の1割未満」であること、「2級・3級の方も日常生活で深刻な困難を抱えている」実情、そして助成制度の在り方について問題提起がされています。
高知県の精神障害者医療費助成制度~現在と変化の背景
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現行制度について
高知県では、これまで原則として自立支援医療制度や重度心身障害児者医療費助成制度を活用し、精神障害者に対して医療費の一部を助成してきました。
自立支援医療は通院医療費の自己負担を原則1割に軽減。さらに重度障害者を対象とした医療費助成や市町村による独自助成もあり、程度により制度を選択できる仕組みがありました。 -
見直しのきっかけ
県内の市町村の意向や財政的な背景を受けて、「より重度の障害に特化した効率的な支援策が必要」とする議論が活発化。約8割の市町村が県の補助制度導入に前向きであるものの、財政規模や助成範囲の調整が焦点となっています。
2027年度からの大きな変更点
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助成対象が「精神障害者保健福祉手帳1級」のみへ
新方針では、2027年度以降「1級」の障害者だけが医療費助成の対象となります。2級・3級、あるいは手帳未取得の精神障害当事者は原則として助成が受けられなくなります。 -
助成内容
助成内容は、健康保険適用の自己負担分への一部または全額補助が基本となります。なお、所得制限や自己負担率の見直しも併せて議論されています。 -
市町村ごとに異なる対応
県の方針制定後、実際の運用・申請窓口は各市町村が担うため、詳細な助成範囲や認定基準、申請手続きなどは市町村ごとに異なる場合があります。
家族会や現場からの拡充要望
県が「1級のみ」助成の方針を固める中で、現場からは切実な訴えが上がっています。
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「1級は1割未満」現実の声
県内で「1級」認定されている精神障害者は全体の約1割未満。精神障害者の大半は2級・3級の認定を受けていることから、多くの当事者やその家族が「生活や就労に重大な困難を抱えながら助成を受けられない状況」となります。 -
日常生活の厳しさを伝える声
2級・3級の精神障害者も、医療依存度が高く病院通院や服薬が欠かせません。同時に、生活の自立や社会参加が容易ではないという現実があります。家族会は「1級以外にも日常生活、就労、教育、地域参加の壁がある」「医療費負担が家計を圧迫し、早期治療中断を招く恐れもある」と訴えています。 -
対象拡大や柔軟な助成制度の要望
家族会や支援団体は「2級、3級を含めた多様な障害程度にきめ細かく対応する助成制度を整えてほしい」と求めています。一部市町村では、今も2級や3級にも一定の助成を行っており、その拡充や県への財政支援を要望する声が高まっています。
他自治体との比較事例 ~高浜市の制度より
高知県とは違う制度運用の例として、愛知県高浜市では精神障害者保健福祉手帳1級または2級取得者には、入通院にかかる保険診療の自己負担分を全額助成する制度が存在します。
また、3級の取得者や手帳未取得者についても一定の医療費助成(入院における保険診療の自己負担分の2分の1助成)が認められており、精神疾患による通院については自立支援医療受給者証のみでも助成対象となっています。
このように、地方自治体ごとに対象範囲や助成内容に違いがあり、県や市町村で柔軟な制度設計がなされている実態があります。
制度変更をめぐる「論点」と今後の展望
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医療費助成のあり方を問う
「医療費助成は、障害者の健康・福祉の維持と、社会参加を支える重要なセーフティネット」であるという認識は関係者の間で一致しています。
支援対象の線引きや財政措置、社会的合意や施策効果の検証など、多くの課題が残されています。 -
今後の課題
・助成対象の適正化
・財源の確保と効率的運営
・所得制限等による公平性の担保
・社会的合意形成に向けた説明責任
・障害当事者・家族との十分な対話
などが模索されています。 -
当事者・家族の関わり
現場の声を施策に反映させるため、今後も県と家族会、NPO・支援団体の対話が続く見通しです。適切な助成制度設計、支援対象の拡充にむけて、「誰もが安心して治療を受けられる社会」への歩みが強く求められています。
まとめ:高知県の選択と現場の訴え ~制度の「切れ目」をどう埋めるか~
高知県が精神障害者医療費助成の対象を「1級」のみに限定する方針は、財政的な制約や施策の効率化といった現場の事情を反映したものといえます。しかし一方で、2級・3級、さらにはそれ未満でも重い困難を抱える精神障害当事者・家族の切実な困難や支援の必要性は変わりません。
県、市町村、当事者・家族会、各支援団体が十分な議論を重ね、「公平で使いやすい医療費助成制度」を築いていくことが、これからの課題です。『障害の重さだけではなく、治療が不可欠な一人ひとりに寄り添う支援』――その実現にむけて、制度設計の工夫と社会的包摂に注目が集まっています。



