衆院議員定数削減をめぐる与野党協議が本格化、中選挙区制導入も争点に
2025年11月18日、衆院選挙制度の在り方を検討する与野党の協議会が国会内で開催されました。自民党と日本維新の会が連立合意に盛り込んだ議員定数の1割削減をめぐって、与野党から慎重論が相次ぎ、選挙制度改革の議論が大きな転換点を迎えています。
定数削減案に対する与野党の反応
自民党と日本維新の会は、衆院議員の定数を現在の465議席から約50議席削減する1割削減を目指しています。しかし、今回の協議会では、この定数削減案に対して慎重な意見が複数の野党から上がっています。与野党の委員からは「結論は協議会の場で決めるべき」という声も聞かれ、拙速な判断を避けるべきだという主張が強まっています。
定数削減をめぐる議論では、削減の期限や幅をどのように規定するかが最初の焦点となっています。自民党と維新の会がどの程度の規模で、いつまでに削減を実施するのかについて、詳細な方針が協議されている段階です。
比例代表削減が持つ問題点
特に注視されているのは、削減の対象が比例代表制の議席に集中する可能性です。維新の藤田文武共同代表は「比例でバッサリいったらいい」と発言しており、465議席のうち289議席を占める小選挙区に対して、176議席の比例代表が大幅に削減される懸念があります。
もし吉村洋文大阪府知事の提案通り1割削減が実施されれば、比例代表は120台まで削減される可能性があります。小選挙区制は大政党に有利で、票が議席に結びつかない「死票」が多く発生する傾向があります。一方、比例代表は票数に応じて議席を配分するため、民意をより正確に反映する仕組みになっています。
2024年の総選挙結果では、289の小選挙区のうち163選挙区で「死票」の割合が50%以上に達し、全国で約2828万票が生かされていません。比例代表を削減することで、こうした小選挙区制の歪みがさらに拡大し、多様な民意が国政に反映されにくくなる懸念があります。
中選挙区制導入の議論も浮上
今回の協議会では、中選挙区制の導入についても意見交換される見通しとなっています。中選挙区制とは、1996年の衆院選から導入された「小選挙区比例代表並立制」に代わる選挙制度として注目されています。
中選挙区制は、1990年前後の政治改革の議論において廃止された制度です。当時、リクルート事件、佐川急便事件、ゼネコン汚職事件など政治とカネをめぐる事件が相次ぎ、選挙活動に多額の人員と資金が必要な中選挙区制の廃止が決定されました。その代わりに、イギリスやアメリカのような二大政党制を目指して小選挙区制が導入されたのです。
しかし、小選挙区制のみだと民意の反映が不十分になる懸念があります。理論的には、特定の政党が全選挙区で51%の得票率を獲得すれば、全議席を独占することも可能です。そこで、小選挙区制の弊害を補うために比例代表との並立制が採用されました。
経済効果に対する疑問
定数削減を推し進める側は、議員数を減らすことで財政支出を削減できると主張していますが、その効果は限定的です。吉村氏が提案する50人の削減でも、年間の財政支出削減は約35億円にとどまります。この金額は、政府の総予算規模から見れば、決して大きな削減ではありません。
議員定数削減は、本来の目的である「政治とカネ」の問題解決にはつながらないという指摘も強まっています。自民党の派閥裏金事件が政治改革論議のきっかけとなりましたが、議員数を減らしても、根本的な金権政治体質は変わらないという見方があります。
今後の協議の行方
与野党の協議会では、定数削減の期限と幅の規定、中選挙区制の導入可能性、そして民意の反映という根本的な問題を巡って議論が続きます。野党からは「結論は協議会の場で決めるべき」という慎重な意見が出ており、急速な制度改革を避けるべきという主張が力を持ち始めています。
衆院選挙制度は、民主主義の基盤をなす重要な制度です。定数削減による民意の切り捨てを避けながら、真の政治改革を実現するための制度設計が、これからの協議の中心課題となってくるでしょう。




