『ぼくたちん家』が描く、ゲイの中年男性の人生と恋

日本テレビ系の日曜ドラマ『ぼくたちん家』が、現在放送中の2025年10月期ドラマとして注目を集めています。及川光博が主演を務め、手越祐也と白鳥玉季が共演するこのドラマは、10月12日から毎週日曜日の夜10時30分に放送されており、第6話が11月16日に放送予定となっています。

ドラマの物語は、50歳の心優しきゲイの動物飼育員・波多野玄一を及川光博が演じ、クールなゲイの中学校教師・作田索を手越祐也が演じます。そこに作田の教え子である中学生・楠ほたる(白鳥玉季)が同じアパートに住む玄一に、3000万円で父親のフリをしてもらえないかと願い出るという、ユニークな設定から物語が展開していくのです。

初回視聴率は控えめも、その後の反応に手応え

第1話の視聴率は5.1%で、今クールのドラマの初回世帯視聴率ではTOP10圏外となっています。その後も視聴率は5%前後を推移しており、TVerやNetflixのランキングで時折ランクインしてはいるものの、大ヒット作とも言いがたい状況が続いていました。手越祐也の7年ぶりの俳優復帰作という事前の話題性からすると、若干寂しい印象を持つ人も多かったようです。

しかし、このドラマに対する見方は、視聴率だけでは測り切れない深さを持っています。多くの視聴者が、単なるBLドラマとしての先入観を持って敬遠してしまう傾向がある中で、実際に視聴した人からは「思っていたのと違う」という声が上がるなど、ドラマの真の価値が徐々に理解され始めているのです。

「ただのBLドラマ」という先入観を超えた作品の魅力

『ぼくたちん家』が注目される理由の一つに、「またBL作品か…」という先入観で敬遠する視聴者層に対して、実はそうした枠を大きく超えた作品であることが挙げられます。ドラマを手がけるのは、日テレシナリオライターコンテストで2023年度審査員特別賞を受賞した松本優紀による完全オリジナルストーリーで、ホーム&ラブコメディとして企画されています。

このドラマの革新性は、ゲイの中年男性を主人公に据えたという点にあります。従来のドラマでは、ゲイのキャラクターは脇役や特殊な設定として扱われることが多かったのに対し、『ぼくたちん家』では50歳のゲイのおじさんが主人公として、彼の日常、恋愛、人間関係が真摯に描かれているのです。これは日本のドラマシーンにおいて、相当に意義のある試みと言えるでしょう。

及川光博の演技が引き出す「生きる経験」

及川光博が波多野玄一を演じることで、このドラマはさらに深みを増しています。玄一というキャラクターは、心優しき動物飼育員として、社会の片隅で静かに生きてきた人物です。50年という人生の中で、恋愛経験や人間関係において、様々な葛藤や喜びを経験してきたであろう彼の姿が、及川光博の味わい深い演技によって立体的に表現されているのです。

特に注目されるのは、玄一が新しい環境の中で、同じアパートに住む索やほたるとの関係を通じて、自分自身と向き合い、人生を再構築していくプロセスです。彼は決して完璧な人間ではなく、時には気持ちが空回りしたり、人間関係に戸惑ったりします。こうした不完全さこそが、視聴者に深い共感を呼び起こし、「生きる経験」としてのドラマの価値を高めているのです。

ドラマの構成の工夫と物語の広がり

『ぼくたちん家』の物語は、玄一と索の恋愛関係だけに留まりません。ほたるの母・ともえが残した3000万円という謎、ほたるの実父・仁のロクデナシな存在、そして索の元恋人・吉田の登場など、社会の様々な縁や葛藤が複雑に絡み合っていきます。

第5話では、索の元恋人・吉田が引っ越しを手伝うため突然アパートに現れるなど、予期せぬ状況が次々と生まれています。また、同じアパートで暮らすほたるの友人・なっちが急に高校受験に目覚め、支援団体の職員・鯉登に勉強を教わり始めるという展開も、単なる恋愛ドラマではなく、人間関係の複雑さと生きることの葛藤をリアルに描き出しているのです。

ジャンルの枠を超えた「人間ドラマ」としての価値

このドラマが持つ最大の魅力は、BLドラマやホーム&ラブコメディという従来のジャンル分けを超えて、「人間ドラマ」として機能しているという点にあります。玄一、索、ほたる、そしてアパートの大家・井の頭や不動産屋・岡部など、社会の隅っこでつながった人々の人生が、奇想天外な方向へと展開していく中で、普遍的な人間の営みが描かれているのです。

視聴率という数字には現れにくいかもしれませんが、このドラマを見ることで、視聴者は自分自身の人生、恋愛、人間関係について改めて考える機会を得られるのです。それは、松本優紀による完全オリジナルストーリーとしての価値、そして及川光博をはじめとするキャストの演技によってもたらされるものなのです。

今後の展開への期待

玄一と索の関係がいい感じになってきた矢先に、玄一が初恋の人・鯉登のことを思い出してしまうという第6話の展開は、恋愛ドラマとしての新たな局面を迎えようとしていることを示唆しています。社会の隅っこでつながった3人の運命がどのように動いていくのか、そして玄一というキャラクターが、人生という大きな物語の中でどのような決断を下していくのかが、今後のドラマの大きな見どころとなっていくでしょう。

『ぼくたちん家』は、BLドラマという先入観で敬遠するにはもったいない、人間らしい営みが静かに、そして力強く描かれた作品なのです。

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