吉田修一『国宝 上巻』が2週連続でビルボードHeisei Books首位を獲得――新時代の書籍ランキング「Billboard JAPAN Book Charts」始動の波紋

2025年11月13日、Billboard JAPANが提供する新たな総合書籍チャート「Billboard JAPAN Book Charts」が大きな話題となっています。この画期的なチャートは、紙書籍電子書籍図書館貸出という三つの異なる流通形態のデータを統合し、より多面的に“本の人気”を可視化しようという日本初の試みです。

特に注目を集めているのは、平成時代に初版が発売された書籍を対象とした「Heisei Books」部門で吉田修一著『国宝 上巻』が2週連続首位を獲得したこと。11月14日に劇場版が公開されたばかりの『平場の月』も2位につけており、吉田修一が今“時代の文学”として再評価されている様子が浮き彫りになりました。

「Billboard JAPAN Book Charts」とは――書籍流通の新たな可視化

これまで書籍の人気度を測る指標は、主に紙書籍の売上ランキングや電子書籍の販売数、図書館での貸出件数といった個別のデータで語られてきました。しかし、現代の読書環境は大きく変化し、人々の本との出会い方、楽しみ方も多様化しています。
こうした背景のもと、「Billboard JAPAN Book Charts」は紙・電子・図書館という三つのデータを合算。これにより、単に「売れた本」だけでなく「読まれている本」「話題となっている本」を広く捉えることが可能となりました。

  • 紙書籍は従来型の販売実績データを採用。
  • 電子書籍は各種電子ストアでの販売・ダウンロード数。
  • 図書館貸出は主要図書館のICタグ等を活用した貸出実績から集計。

これによりジャンルや年代、流通形態ごとにより多角的かつリアルタイムな「人気書籍」の動向が捉えられるとして、出版業界や読書文化に新たな波紋を呼んでいます。

吉田修一の存在感――『国宝』が再評価の中心に

「Billboard JAPAN Heisei Books」チャートで2連覇を成し遂げたのが吉田修一の『国宝 上巻』です。本作は2017年刊行、2018年には第69回芸術選奨文部科学大臣賞、2019年に第14回中央公論文芸賞に輝くなど、既に高い評価を受けていた作品ですが、2025年6月には吉沢亮主演で実写映画化されるなど、いま新たな熱狂を呼んでいます。

  • 1位『国宝 上巻』 吉田修一
  • 2位『BUTTER』 柚木麻子
  • 3位『国宝 下巻』 吉田修一
  • 4位『嫌われる勇気』 岸見一郎
  • 5位『BASTARD!! 4巻』 萩原一至

このチャートでも『国宝 下巻』が3位に入っており、シリーズ全体としての注目度の高さが窺えます。“平成文学”の代表作品としての評価が読み手・貸し手・売り手の三方向から新たに確かめられた形です。

劇場版『平場の月』公開――映画も話題を後押し

また、吉田修一関連では11月14日から、彼の別作品『平場の月』の劇場版も公開されました。これが話題を更に加速させており、書籍ランキングでも2位を獲得しています。映画化という“メディアミックス効果”により、新たな読者・観客層の流入が生まれ、吉田修一の作品群がより広く浸透しつつあると言えるでしょう。

書籍チャート“昭和”部門では『BASTARD!! 2巻』に熱視線

同じくスタートした「Billboard JAPAN Showa Books」部門でも注目の動きがあります。第2週目の1位は萩原一至の人気漫画『BASTARD!! 2巻』。旅エッセイの金字塔『深夜特急 3巻』(沢木耕太郎)なども上位にランクインしており、クラシック作品への再評価が顕著です。

出版業界・読書文化への新たな影響――多様な「読まれ方」が可視化

「Billboard JAPAN Book Charts」による指標多様化は、どのような影響をもたらすのでしょうか。従来は「売れ行き」という単一基準で語られがちだった書籍の人気が、今や「図書館での貸出」や「電子書籍での読書」も含めて語られる時代となりました。
これにより、

  • 出版社・書店は何が話題かをより精密に把握でき、仕入れや販促戦略へ生かすことが可能に。
  • 作家にもロングセラーや再評価のきっかけが増え、過去作も“今”の動きとして可視化。
  • 読者には「本がどこでどのように読まれているか」が明確になり、新しい発見・選書につながります。

吉田修一作品――世代を超えて生きる“文学の力”

近年の文学シーンにおいて、吉田修一は「人間の普遍性」「日本社会の情感」を繊細な筆致で描く作家として、多くの共感と議論を生み出してきました。『国宝』は能楽師家の一族を主軸とし、美と執念、時代と個人の交錯を壮大に描き上げた作品。今、電子書籍・紙書籍・図書館という多様な場で読まれることで、「平成を代表する文学」の再定義に拍車がかかっています。

今後の展望――“著者・読者・出版”三者の新時代

書籍チャートの新体制によって、吉田修一のような現代文学の旗手がより多くの人々に受け入れられる契機が生まれたとも言えます。作品がどのような経路で読まれ広がっていくかを可視化することは、今後の出版戦略、図書館サービス、そして読者自身の読書スタイルにまで影響を与えるはずです。

出版文化の新たな夜明けともいえるこのタイミングで、吉田修一作品の動向から私たちは“本と人”の新しい関係性の一端を垣間見ることができました。今後もBillboard JAPAN Book Chartsの動向、そして日本文学界の潮流から目が離せません。

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