高市政権、非核三原則「持ち込ませず」の見直し検討 国内外で広がる波紋

日本の非核三原則とは

非核三原則とは、日本がこれまで長年にわたり掲げてきた「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」という核政策の基本方針です。この原則は、唯一の戦争被爆国である日本が「核兵器のない世界」実現を目指す姿勢を、国内外に示してきた重要な指針です。核兵器を持つことも、製造することも、他国に日本への持ち込みを認めることもしないという毅然とした姿勢は、国際社会における日本の平和国家としてのイメージを支えてきました。

高市政権で初めて本格的な見直し議論が浮上

2025年11月、高市早苗首相率いる現政権は、国家安全保障戦略など主要な安保関連3文書の改定に連動し、非核三原則のうち「持ち込ませず」の原則について見直し検討に着手したことが明らかになりました。これは日本の戦後安保政策における大きな転換点となりうる出来事です。

検討の背景には、特殊な安全保障環境の変化があります。アメリカの核抑止力が低下する中、「持ち込ませず」に固執することで、日本の安全保障が脅かされかねない、との懸念が政府内で高まってきました。特に、米軍の核搭載艦船が日本に寄港できない状況が、有事の際に致命的なリスクとなる可能性が指摘されています

政権のスタンスと歴代の対応

高市首相は、非核三原則のうち「持たず」「作らず」の姿勢は断固として堅持する方針を示しています。しかし「持ち込ませず」原則については、米国の抑止力と日本防衛の現実的なバランスの必要性から、柔軟に対応する可能性を模索しています。

ちなみに、2010年当時の岡田克也外相の国会答弁で、「核の一時的寄港を認めないと日本の安全が守れない事態が発生した場合、その時の政権が命運を懸けて決断し、国民に説明する」との見解が表明されており、高市政権はこのアプローチを事実上引き継いでいる形です

国内世論と国会の動き

  • 非核三原則維持を求める声

    日本国内では、非核三原則の遵守こそが平和国家としての倫理的責任であると訴える声が根強いです。原爆被爆地・広島や長崎からは強い懸念や批判も上がっています。被爆者団体は「唯一の被爆国としての使命を放棄することになりかねない」と訴え、改定への反対運動も活発化しています。
  • 一部で抑止力強化を支持する意見

    一方で、近年の国際情勢の不安定化や、隣国による軍事的脅威の高まりを背景に、「非核三原則の柔軟な再検討はやむを得ない」との現実的な論調が政界や一部世論にも見られます。特に「持ち込ませず」の例外措置として、米軍の核搭載施設や艦船の一時的な受け入れを認めるべき、との主張が浮上しています。

連立政権の動揺と公明党・斉藤鉄夫代表の姿勢

こうした政権方針の転換により、連立与党として長年政権に参画してきた公明党との関係にも緊張が生じています。公明党の斉藤鉄夫代表は、連立離脱から1か月余りが経過した国会トークの現場で、「大衆とともに語り、大衆とともに戦い、大衆の中に死んでいく」という草の根の理念を強調し、再び平和主義と大衆目線の政治の重要性を訴えました。

公明党は一貫して核兵器廃絶と非核三原則の堅持を重視する立場です。与党を離れた直後の今、政権の見直し姿勢に対し「これまで支えてきた連立は何だったのか」という自問自答も見られる状況です。支持母体である創価学会を中心に、平和への気運を再確認する動きが強まっています。

国際社会の反応:中国から「深刻な懸念」表明

日本が非核三原則の一部見直しを検討しているとの報道を受けて、中国政府は即座に「深刻な懸念」を表明しました。「非核三原則は日本の平和主義の象徴的言及であり、それを変更することは地域の安定を著しく損ねるものだ」と中国外交筋は厳しく指摘。中国のみならず、韓国や東南アジア諸国など近隣国では、日本の核政策転換に対する警戒感が高まっています。

一方、アメリカをはじめとする日米同盟国は、日本の安全保障政策見直しに一定の理解を示しつつも、日本が国際的な核拡散防止条約(NPT)体制維持を重視している点には引き続き注視しています。

世界と日本 非核政策の岐路

非核三原則は、長年にわたり日本外交と安保政策の根幹を支えてきました。しかしいま、「持ち込ませず」の厳格な運用が日本の安全保障上の脆弱性につながりかねない、という現実的課題に直面しています。多くの国民は平和憲法の理念と現実的なリスクの間で複雑な思いを抱いています。

専門家の間でも、「非核三原則の見直しは国際社会への誤ったメッセージとなる」という懸念と、「安全保障環境に応じて合理的な対応が必要だ」とする現実主義的な立場のせめぎ合いが続いています。

今後の展望:国民的議論が不可欠

この問題は、日本社会全体で活発な議論が求められています。政府は今後、国会での徹底した審議のみならず、国民への丁寧な説明責任が不可欠です。唯一の戦争被爆国として世界の核軍縮運動を主導してきたこれまでの歩みを踏まえ、安易な妥協ではなく、歴史的使命としての誠実な議論が必要でしょう。

現在も、国会やメディア、市民社会で多様な声が交錯しています。非核三原則の行方は、日本の安全保障と国際的信頼、そして未来の平和のあり方を大きく左右する岐路に立っているといえるでしょう。

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