三菱商事の洋上風力撤退で揺れる日本の再生可能エネルギー戦略

2025年11月、日本のエネルギー業界に大きな衝撃が走りました。大手総合商社の三菱商事が、秋田県と千葉県の3つの海域で進めていた大型洋上風力発電事業から撤退すると発表したのです。このニュースは、再生可能エネルギーの将来に不安を抱える声を大きくし、経済産業省をはじめとする政府関係者にも大きな影響を与えています。

三菱商事の撤退の背景

三菱商事は2021年、政府が公募した洋上風力発電事業の第1ラウンドで、秋田県能代市・三種町・男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖、千葉県銚子市沖の3海域を「総取り」しました。当時、三菱商事グループは1キロワット時あたり12~16.5円という破格の低価格で落札し、業界内外から注目を集めました。

しかし、その後の事業環境は大きく変化しました。世界的なインフレや為替・金利の激変、資材価格や建設費の高騰により、当初の事業計画では採算が取れなくなってしまいました。特に風車メーカー3社の値上げが大きく影響し、建設費は当初の2倍以上に膨らんだといわれています。

三菱商事の中西勝也社長は「風車メーカー3社の値上げが大きく影響した」と説明。また、「2021年5月の入札時点で見通せる事業環境、その時の資材価格、インフレ、金利なども含めて十分な採算を確保したうえで、当社の社内投資基準に従って提案しました。今回の意思決定は、安値ということとは論点が違って、事業環境の激変によるものです」と語っています。

経産省と政府の対応

三菱商事の撤退は、政府の再生可能エネルギー戦略に大きな打撃を与えました。経済産業省は「非常に遺憾」とコメントし、洋上風力発電事業の見直しを迫られています。経産省がまとめた「第7次エネルギー基本計画」では、洋上風力は「切り札」と位置づけられていましたが、今回の撤退でその見直しが必要になっています。

政府は、過去の案件支援に向けて動き出しています。洋上風力発電のコストは公募時から24%上昇しており、事業者の負担軽減が急務となっています。今年6月には改正「再エネ海域利用法」が成立し、従来は一般海域に限られていた洋上風力の開発を排他的経済水域に大きく広げ、浮体式洋上風力開発への道を開きました。また、一般海域では日本版セントラル方式の導入により、事業者の負担軽減が進むなど、制度は一歩ずつ整いつつあります。

業界の反応と今後の展望

三菱商事の撤退は、草創期にある日本の洋上風力産業に大きな影響を与えています。現在の入札制度のままでは、後続計画まで撤退ドミノに陥る危険性もあるとされています。業界関係者からは、「制度崩壊の危機に直面している」との声も上がっています。

一方で、洋上風力発電のメリットは依然として大きいとされています。EEZ(排他的経済水域)の要所に洋上風力発電の風車を6万7000基建てれば、1000ギガワットの発電が可能で、日本が必要とする一次エネルギーの半分以上をまかなえるという試算もあります。

今後の取り組み

三菱商事は、洋上風力を含む再生可能エネルギーは日本にとって重要な電源であるとの認識に変わりはなく、事業環境を注視しながら、脱炭素社会の実現に向けて引き続き取り組んでいくと表明しています。また、11月27日には日揮(株)が「日本の洋上風力発電の最新動向とサプライチェーンの展望」をテーマにJPIセミナーを開催する予定です。今後の動向に注目が集まっています。

三菱商事の撤退は、日本の洋上風力発電事業に大きな課題を突きつけました。政府や業界がどのように対応し、再生可能エネルギーの将来をどう描いていくのか、今後の動きが注目されます。

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