東証「TDnet」のクラウド化が加速――JPX、AWSと共に未来の市場インフラを築く
はじめに――TDnetクラウド化の決断の背景
日本取引所グループ(JPX)総研は、2025年11月、東京証券取引所(東証)の適時開示情報伝達システム「TDnet」をAWS(アマゾン ウェブ サービス)上へ全面移行する方針を公式発表しました。これは単なるシステム刷新ではなく、日本の資本市場における根幹インフラの変革を意味します。
「TDnet」は証券市場の透明性と公正性を支える“準基幹システム”で、上場企業や市場参加者の適時開示を司り、その安定稼働と信頼性が強く求められています。今般のJPX総研とAWSの協業によるクラウド化は、金融分野でのクラウド利用がさらに深化する重要な一歩です。
TDnetとは何か――透明公正な市場を支える重要インフラ
「TDnet」(Timely Disclosure Network)とは、上場企業が投資家や市場関係者に向けて重要情報を適時かつ正確に電子開示できるシステムです。企業の業績予想、決算発表、重要な経営判断などを、一般公開と同時にWebサイト上で提供します。これはインサイダー取引規制の観点からも非常にクリティカルであり、止まることが許されない“ミッションクリティカル”なシステムです。
- 24時間365日稼働し、障害・災害時の堅牢性が必須
- 開示集中時にも耐えうる高い可用性・パフォーマンスが要求
- サイバーセキュリティ強化の観点からも運用の高度化が急務
なぜ今クラウド化なのか――AWS移行の狙いと期待
日本の金融インフラはこれまで、セキュリティや安定稼働の観点からオンプレミス(自社運用)が通例でした。しかし、AWSをはじめとするクラウドサービスの進化により、グローバルで次世代市場インフラへの移行が始まっています。例えば米Nasdaqやロンドン証券取引所もAWSを基幹プラットフォームに利用し始めており、JPXの今回の決断もこうした世界的潮流に沿うものです。
クラウド化実現までの道のり――AWSとの協業体制
JPX総研は社内の共通基盤「J-WS」をすでにAWS上で運用してきました。TDnetの移行ではこれまで以上にレジリエンス(災害耐性)や説明責任が求められ、AWSとタスクフォースを設置し、障害対応の透明性や報告体制の強化について集中的に議論。その成果のひとつとして、「AWS Incident Detection and Response(IDR)」の日本語サービス開始など、JPXの要件に即した機能強化も進みました。
- 広域災害対策として東京・大阪リージョンでデータを冗長化
- クラウドならではのリアルタイム全体最適と高速な障害復旧力
- インシデント発生時の報告や原因開示をスピーディーに実施可能
国内金融機関クラウド化への大きな一歩
「TDnetのクラウド移行」は、日本の金融インフラ管理においても過去にない挑戦です。JPXはクラウドの利用実績を積極的に公開し、市場関係者や規制当局からの信頼確保に努めています。これまでミッションクリティカルな領域はクラウド化が躊躇されていましたが、グローバルな先端事例を参照しつつ、社会インフラとしての安定性や可視性を確保して前進しています。
J-WSによる新たな市場基盤と今後の展望
J-WSとは、JPXの共通クラウド基盤であり、これまでもグループ内のデジタル事業の根幹を成してきました。J-WS上でTDnetを稼働させることで、JPXの既存BCP(事業継続計画)強化に加え、AIや生成AIを活用した高度な市場情報基盤の実現も視野に入っています。
- データ処理信頼性・サイバーセキュリティの大幅向上
- デジタルプラットフォームで多様な金融サービスの展開が容易に
- グローバルな金融IT環境との競争力強化
災害・障害時への対応強化――東京・大阪分散のメリット
今回の移行で特に注目されるのは、「東証TDnetシステムのAWS二重リージョン運用」です。これにより、東京と大阪の双方で同じシステムが冗長運用され、大規模地震や火災などのリスクが一拠点に集中しない構造を実現。「システムダウンが即『市場機能停止』につながる」という重大なリスクを、クラウド技術によって段違いに低減します。
JPX総研の取り組み――未来志向の金融情報プラットフォームへ
JPX総研は「グローバルな総合金融・情報プラットフォーム」の実現に向け、クラウドとAIを複合活用したサービス創出を加速させています。たとえば、将来的にはTDnet以上にクリティカルなシステムのクラウド活用もAWSと共同で検討されており、日本の金融市場がより開かれた国際市場へと進化し始めています。
まとめ――信頼される市場基盤と進化するJPXの姿
東証TDnetのクラウド化プロジェクトは、「止まらない・守られる・進化する」市場基盤を実現する着実な一歩です。単なるIT刷新ではなく、日本の金融インフラ全体に多層的な「安心・安全・強さ」を積み上げ、市場参加者そして社会全体の信頼をさらに高めていくでしょう。JPXとAWSの連携がもたらす新たな価値創造から、今後も目が離せません。




