新NISA時代に浮上する「オルカン」投資の本質――人気と落とし穴
2024年の新NISA(ニーサ)制度スタート以来、多くの個人投資家が「オルカン」(正式名称:eMAXIS Slim 全世界株式インデックス・ファンド)や「S&P500」連動型商品など、低コストなインデックスファンドへの積立を始めています。その一方で、こうした主力商品だけでは思わぬリスクや失敗も潜んでいることが、投資プロや専門家たちの間で指摘されています。本記事では、なぜ「オルカン」や「S&P500」だけの投資が一見安全に見えて落とし穴があるのか、新NISA制度の現状とあわせて、やさしく分かりやすく解説します。
新NISA2年目を迎えた2025年、多くの投資家が本格参戦
新NISA制度は2025年で2年目に突入し、非課税制度を活かした資産運用が全国的に広がっています。つみたて投資枠(年120万円)と成長投資枠(年240万円)の併用ができ、合計最大年間360万円まで非課税で投資できる点が最大の特徴です。さらに生涯投資枠は計1,800万円と大幅に拡充され、新たに資産形成に取り組む方々にとっては、これ以上ない環境と言えるでしょう。
- 2024年から非課税期間が無期限となり、期限を気にせず長期運用が可能。
- 投資信託の選び方次第で、効率的な資産形成も非効率な損失拡大も。戦略と商品選択が問われる時代に。
なぜ「オルカン」や「S&P500」が大人気なのか?
「オルカン」や「S&P500」といったインデックスファンドが、なぜここまで広く支持を集めるのでしょうか?その理由の中心は「分散投資」と「低コスト」にあります。
- オルカン…世界中の先進国・新興国株式の代表的な企業に幅広く投資。世界の成長をまるごと取り込める。
- S&P500…米国の代表的企業500社に投資。過去数十年にわたり世界市場を牽引してきた実績を持つ。
こうした商品は「長期・積立・分散」の王道をいく投資として、特別な知識がなくても着実に資産形成が狙える手法として認識されています。
錯覚されがちな“安全神話”――なぜ失敗者が出てしまうのか
「新NISA時代は誰でも簡単に資産が増やせる」という印象も広まっています。一方で実際には「オルカン」や「S&P500」を選んだのに儲からないケースや、暴落時の大きな損失に直面した個人も少なくありません。その代表的な失敗パターンには次のようなものがあります。
よくある「新NISA失敗」の共通点
- 投資=安心・確実と誤信する心情
オルカンやS&P500なら絶対安心、失敗しないと考えている人が非常に多いですが、実際には世界情勢や経済危機で大きく値を下げるリスクも受け持つことになります。 - 短期的な価格変動に動揺して売却
せっかく長期積立を宣言していたのに、相場の下落時に狼狽して売却してしまうことで、損失が確定してしまう。 - 分散の「つもり」になっている
「オルカン」一本で全世界分散と考えがちだが、実際は米国株の組み入れ比率が高く、米国市場の影響をかなり強く受けている。 - 商品のコスト構造を見ていない
信託報酬(運用管理費用)が低いファンドを選ぶことは大切だが、それ以上に分散の中身や暴落時のリスクを十分理解していない。
「新NISAで失敗する人は、大多数が“ただ流行に乗っただけ”の投資スタイルに終始してしまう」と、複数の専門家が警鐘を鳴らしています。「投資のプロも呆れるほどの“勘違い”が広がっているのは、長期運用でも短期の値動きに一喜一憂し、本来の意図から逸脱してしまっていることが多いのです」。
「安全」の中身を冷静に点検――オルカン&S&P500だけでは本当に危ない?
長期・分散・積立をうたい文句に支持されるオルカンやS&P500投信。しかし、プロの視点では「この2本立てだけでは暴落リスクに極めて脆弱」だと指摘されます。現在のオルカンは組入比率の約6~7割が米国株ともいわれており、S&P500とリスク性が重複しやすい構造です。世界経済の分散という期待とは裏腹に、米国経済の一極集中リスクを内包しています。
インデックス投資のカリスマ・中野晴啓氏も「オルカンとS&P500なら安全、というのはウソです」「長期投資・分散投資には相場急変や経済危機のダメージも織り込む覚悟が必要」と述べており、ごく一部の限定的なリスクにしか備えられていない点を強調しています。
結局どうする?プロがすすめる“第3の選択肢”
であれば、オルカン投資家やS&P500志向の方はどんな点に目を向けるべきでしょうか。プロたちは口をそろえて「資産配分・分散の本質」を再考する必要性を説いています。
- 現金・国内債券・海外債券など、さらなる異なる資産への分散
株式インデックスだけでなく、「リスクの種類そのものが異なる商品」を組み合わせることで、暴落時のダメージを和らげる効果が期待できます。 -
自分のリスク許容度(損しても耐えられる割合)を冷静に確認
相場が荒れても売却に走らず続けられるか、本当に長期の下落局面に耐えられるのか、心の準備をし直すことが不可欠です。 -
積立額・投資枠の「活用し切る計画」を立てる
オルカンやS&P500に目移りして投資枠を無駄にせず、ご自身のライフプラン・将来設計に合わせた投資プランを再確認しましょう。
新NISAの枠組み、上手に使う仕組みも一緒に見直そう
新NISAでは「年間投資枠は360万円(つみたて120万円+成長240万円)」「生涯非課税枠は1,800万円」「非課税でいったん売却すると翌年その枠が復活する」など、従来と大きく変わった特徴があります。こうした制度設計にも注意を払いながら、オルカンやS&P500一本化ではない、より自分に合った「資産の分散と管理」をもう一度考えることが大切です。
- 家計資産とのバランスや他の資産運用方法も含めて、余裕をもって非課税メリットを最大活用する。
- 商品の乗り換えや金融機関の変更手続きにも制度のルールや必要条件があります。
今こそ「自分の投資」の見直しを
「オルカン信仰」「S&P500神話」といわれる一方通行の投資行動が注目されていますが、制度が有利になった今こそ、「本当にこれで自分たちの資産形成が達成できるのか?」「心から納得した投資プランになっているのか?」を見つめ直すことが、失敗や後悔を遠ざける最良の方法です。
新NISA制度の進化とともに始まった「投資ブーム」の熱気は続いていますが、最終的な資産の成果を左右するのは、他でもない自分自身の判断、そしてそれをより深く支える知識と準備であることを忘れずにいたいものです。




