日産、本社ビルを970億円で売却へ ― 経営再建の大きな一手

日産自動車株式会社は2025年11月6日、横浜・西区に位置するグローバル本社ビルおよびその土地を総額970億円で売却することを正式に発表しました。この売却劇は、経営再建の流れの中で行われるもので、市場や関係者の間で大きな話題となっています。本稿では、今回の売却の背景や取引内容、その後の日産本社の運営体制、さらには日産の今後の展望について、分かりやすく解説します。

売却の概要 ― 売却額970億円・取得するのは台湾系企業出資のSPC

  • 売却総額は970億円と発表されており、近年の大規模オフィスビル取引の中でも極めて高額の部類に入ります。
  • 本社ビルを取得するのは台湾系自動車部品メーカーが出資する特別目的会社(SPC)で、国内外からの注目を集めました。
  • 日産は、この売却による収益のうち739億円を2026年3月期決算で特別利益として計上し、企業の経営改善に充てるとしています。

本社は移転せず「20年間のリースバック」― 本社機能は継続

売却後も、日産は同ビルを賃借し20年間本社として引き続き利用する契約を結びました。これによって、「本社を売却=本社機能の移転」と誤解されがちですが、実際には現在の立地や周辺環境、従業員の通勤などに変更はありません。このような「リースバック方式」での売却は、近年多くの大手企業にも見られる財務戦略の一つです。

なぜ”本社ビル売却”という決断を下したのか ― 売却の背景と狙い

  • 経営再建の一環:過去数年にわたる経営環境の悪化や競争激化、中国市場での販売低迷、新型コロナウイルスの影響などにより、日産は抜本的な構造改革を迫られていました。不要な資産を現金化し、財務体質の強化を図ることが今回の売却の最大の狙いです。
  • 新分野への投資資金調達:今後の自動車産業は「CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)」分野への対応が必須です。売却で得た資金は、デジタル化の推進次世代モビリティ関連の研究開発費等に投下される予定です。
  • 経営効率化の加速:所有資産の圧縮によるバランスシートの改善は、企業価値向上にも寄与します。

本社ビル売却による具体的な影響と今後の展望

  • 経営の柔軟性向上
    現在の本社機能はそのまま維持しつつ、売却によって得た多額の投資資金をスピーディに新事業や既存事業の強化へ回すことが可能となります。
  • 資産効率の向上
    本社ビルのような固定資産を保有し続けるよりも、リースバックによって固定費として管理しつつ、現金を手元に持つことで経営判断の自由度が増します。
  • 市場や投資家からの評価
    固定資産売却は時に「苦境の現れ」と受け取られることもありますが、今回は「将来に向けた積極策」と位置づけられており、投資家やマーケットからも一定の評価を得ている模様です。
  • 従業員や地域社会への影響
    働く場所や通勤経路は従来通り維持されますので、従業員の業務や日常には大きな変化はありません。また、横浜市中心部に本社が残ることで、地域経済や周辺ビジネスへの直接的な影響もありません。

取得企業「台湾系SPC」とは?

今回、日産の本社ビルを取得するのは台湾系の自動車部品メーカーが出資する特別目的会社(SPC=Special Purpose Company)です。特定の目的で設立されるSPCは、不動産の取得や運営を行うケースが多く、日産も同様の手法で資金を調達しました。近年、日本の大手不動産や企業所有地の取得には、アジア圏の投資家が増えており、グローバルな資産流動化の一端と言えるでしょう。

本社は引き続き横浜、今後の注目ポイントは?

  • 本社機能維持と、リース契約期間(20年間)が満了した後の動向に注目が集まります。
  • デジタル化や電動化などへの積極投資により、将来の日産の競争力向上が期待されています。
  • 外部投資家による大型不動産取得として、他企業の類似的な資産活用への動きが波及する可能性があります。

まとめ ― 資産売却は危機のサインか、それともチャンスか

日産自動車の本社ビル売却は、企業の財務健全性向上に加え、将来に向けての新たな成長への布石と言える内容です。現時点で日産は本社機能を横浜に維持しつつも、「新たな一歩」を踏み出しました。今後、本社ビルのリース満了時にどう判断するのか、新規投資による新事業がどのように展開されるのか、引き続き注視が必要です。

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