クマ出没が相次ぐなか、緊急銃猟の現場と課題――山形・長野・群馬各地の最新動向
近年、全国各地でクマの出没件数が急増しています。この状況を受け、自治体は住民の安全確保を目的に「緊急銃猟」制度を活用するケースが増えています。「緊急銃猟」は市街地や住宅地など、クマによる人的被害が懸念される状況で、市町村の判断のもと特別に許可される駆除措置です。本記事では、山形県、群馬県、長野県における現場の戸惑いや制度運用の課題、そして関係者の思いについて、最新の具体的な事例を交えながら解説します。
緊急銃猟とは何か――制度の要点と背景
緊急銃猟は、クマなどの野生動物が市街地へ侵入し、即時駆除の必要性が高まった際、通常の狩猟規制を一時的に緩和して、自治体が特定の猟友会員に限り「夜間発砲」等の許可を与えるものです。従来は山間部や里山で計画的に駆除が行われていましたが、近年は人里への出没が増えているため、緊急性が重視されたこの制度が拡充されています。背景には、捕獲件数の急増や住民の不安があり、山形県では2025年度4月から半年間で585件の捕獲・駆除が行われています。これは前年同期比で2.5倍ものペースです。
- 市町村の判断で、人間への直接的な危害の可能性が高い場合のみ適用
- 夜間や市街地でも発砲が認められるが、安全管理が非常に重要
- 発砲する猟友会員への報酬や手当の拡充要望が高まっている
現場の戸惑い――「撃ってもいいのか?」ハンターの不安
群馬県を含む各地では、「夜間発砲」の許可や交通規制を伴いながら緊急銃猟が実施される場面も出てきています。しかし、ハンターは現場で戸惑いを抱えています。発砲を決断するプレッシャーだけでなく、もし不慮の事故が起きた場合、「発砲者自身が刑事責任を問われる可能性」があるため、「本当に撃ってよいのか」という精神的な負担が重くのしかかります。
山形県猟友会の梅川信治会長は、「市町村が弁償してくれると言われても、自らが責任を取らなければならない事態になれば大変」「猟友会員の安全を守る立場にある」と述べ、制度運用の明確化と現場の心理的負担軽減を吉村知事に訴えています。
緊急銃猟の訓練――長野・大町市の実例
長野県大町市では、クマ出没が相次ぐ中で「緊急銃猟」の訓練が行われました。ホテルの一室から駆除する状況を模した訓練では、役割分担や安全確保、発砲手順が約1時間にわたり細かく確認されました。実際の駆除に備えた必要な知識・技術の向上だけでなく、本番を想定した心理的な準備も重視されています。
- 現場の動線・安全管理の手順を徹底
- 発砲時の周囲への警告やバックアップ体制も検討
この訓練は、単なる操作技術だけでなく、発砲による付近住民へのリスクや、自身が責任を問われる可能性への理解を深める場となっています。市街地や宿泊施設といった「非通常環境」での駆除はハンターにとって初めての経験となることが多く、組織としての対応力が今、問われています。
行政の対応――体制整備・安全対策・現場支援へ
山形県知事・吉村美栄子氏や各自治体の首長は、猟友会の精神的・物理的負担の増加を受けて、制度説明の講習会や研修、さらに報酬体系の拡充を検討しています。県民の不安解消が「最大の課題」であり、行政として「強い危機感」を持って対応していく意向が示されています。
今後は、下記のような取り組みがより必要とされるでしょう。
- 猟友会員への緊急銃猟制度の詳細な周知と研修
- 発砲時の責任や補償、心理的ケア体制の整備
- 交通規制や住民避難など、現場安全対策の徹底
- 有害駆除に関わる人材への報酬や福利厚生の向上
住民の声と今後の課題
クマの目撃情報の増加は、地域住民の「安心して暮らせる日常」を脅かす事態です。また、学校や交通機関が臨時休校となるなどの直接的影響も出ています。住民からは、行政による迅速な対応と、ハンターへの支援強化、そして制度運用の透明化を求める声が寄せられています。
一方で、緊急銃猟は「最終手段」であり、クマそのものの生息域を守り、人間と野生動物の境界をどのように管理するのかという、長期的な環境政策の議論も不可欠です。現場対応の実態と課題がしっかりと伝えられることで、住民と行政、猟友会の間に信頼関係が育まれることが期待されています。
まとめ――「緊急銃猟」の現場に必要な安心と支援
全国各地で相次ぐクマ出没と、それに伴う緊急銃猟の実施。その現場では、命がけで対応に臨む猟友会員の強い責任感と、制度運用への不安、そして行政の支援整備が交錯しています。ハンターが「安心して行動できる環境づくり」が急務であり、今後も制度の改善と現場支援が求められるでしょう。
地域社会が一丸となって人と野生動物の安全な共存を模索するために、現場の声に耳を傾け、適切な制度設計・運用を進めていくことが今、何よりも重要です。



