ゲンキー、なぜ今「あえて小さな店舗」へ?
ゲンキー株式会社は、いま日本国内で注目を集めているドラッグストアチェーンです。福井県坂井市丸岡町に本社を構え、福井県内だけで88店舗、その他北陸や東海地方など全国で約500店舗ものネットワークを展開しています。2025年6月までの1年間(2024年7月~2025年6月)における売上高は2,007億円、売上・利益ともに過去最高を記録しました。その飛躍の背景には「小型店舗への建て替え」と「徹底的なコストカット」を軸とした独自の戦略が存在します。
小型店舗への大胆なシフトとその理由
かつては900坪級の大型店舗を中心に出店を進めていたゲンキーですが、最近では従来の約3分の1サイズに店舗を建て替える動きが加速しています。例えば、2025年4月に新たにオープンした森田店は、隣接する旧店舗に比べてかなりコンパクト。大型店だった旧店舗は、契約の満了などをきっかけに今後、別の商業施設へとリメイクし、ゲンキーの小型店舗に移行していく予定です。こうした流れは、2029年をひとつの目安に各エリアで進められています。
小型化の背景と人口減少時代の逆張り戦略
日本社会全体が直面している人口減少・高齢化の問題。この現実に対し、ゲンキーは「小型化・省コスト化」で立ち向かっています。従来、流通業界では人口の多いエリアや都市部への出店がセオリーでしたが、ゲンキーは“人口5,000~7,000人”というような一見不利な立地への“逆張り出店”を続けています。これは、競合他社が撤退するような過疎地でも「残存者利益」(地域内で唯一残ることで得られる利益)を狙う戦略です。そして最後の砦として地域に不可欠なインフラとなることで、人口減少に強いビジネスモデルを構築しています。
なぜ小型店舗が有利なのか?
- 建設コストやランニングコストを大幅に削減できる
- 少人数のスタッフで運営可能=人件費削減
- コンパクトな売り場で効率的なオペレーションが実現
- 無駄な在庫を持たず、商品回転率を高められる
- 狭小エリア・過疎地にも出店が容易
人口減少エリアにおける“最後の生活インフラ”として君臨できること、そして地域密着型サービスによる顧客の固定化が、ゲンキーの大きな武器となっています。
ゲンキーの店舗、その特徴と商品構成
ゲンキーの最大の特徴は、扱っている商品のうち生鮮食品や総菜などの食品が約7割を占めている点です。ドラッグストアでありながら、食品スーパーとしての機能も果たしています。
- 総菜コーナーには、おにぎり・弁当・サンドイッチだけでなく焼き魚や小鉢惣菜(青菜のお浸し、玉子焼き、合鴨のパストラミなど)など多彩な商品を用意。
- 野菜や果物も手頃な価格・高鮮度で提供。
- 精肉・加工肉も種類豊富。
- 一般雑貨・化粧品・医薬品もカバーし、生活のほぼすべてがワンストップで揃います。
例えば、小鉢惣菜はどれも1品149円(税込160円)で「三つ買ってもワンコイン」で済むなど、圧倒的な安さも魅力です。地域住民は、車を出して遠くのスーパーやドラッグストアまで行かずとも、近所のゲンキーで 日々の必要なものすべてを気軽に揃えることができるのです。
商品構成比(目安)
- 食品:約67~70%
- 雑貨:約12%
- 化粧品:約10%
- 医薬品:約8%
この商品構成は、従来の「ドラッグストア」のイメージを根本から覆すものです。日常使いのスーパーとしての役割と、コンビニエンスストア感覚の利便性を兼ね備えています。
徹底的なコストカット、現場主義の徹底
ゲンキーが過去最高益を叩き出せた背景には、もう一つ大きなポイントとして徹底的なコストカットの実践があります。店舗の小型化により、建設費・光熱費だけでなく、人件費や運送コストも最小限に抑えられる仕組みを徹底。加えて、現場のオペレーション効率化にも力を入れており、「省人化」「作業の標準化」「IT化」といったさまざまな手法を積極的に導入しています。
また、商品スペースや棚割りもシンプルさを追求し、売れ筋商品や日常使いの商品を中心に品揃えを絞り込むことで、無駄な在庫を持たない運用を徹底しています。これにより商品ロスを防ぎ、鮮度面や価格面でも競争力を高めているのです。
人口減少をチャンスに変える、唯一無二の出店戦略
一般的に、「小売業は立地産業」と言われます。多くのチェーンが人口増加エリアに出店を集中させる中、ゲンキーは一貫して「人口減少地域への逆張り出店」を続けています。人口5,000~7,000人規模のマイナー商圏でも、食品と生活雑貨を主力に事業を成立させており、ブルーオーシャン戦略とも呼べる独自性を発揮しているのです。
- 競合他社が撤退することで独占的な需要を獲得
- 店舗を減らさず、地域インフラとしての役割を最大化
- より生活に密着し、顧客との接点を大事にする「地元密着型経営」
この背景には、「地方の小さなエリアでも、暮らしをしっかり支える」という強い意志があります。こうした店が町の最後の砦となり、地域コミュニティや高齢者世帯の生活インフラとしての役割を果たすことで、ゲンキーのブランド価値も大きく向上しているのです。
安城市にも進出、新規オープンで広がるゲンキーの輪
2025年11月13日には、愛知県安城市初の店舗となる「ゲンキー安城東栄店」が新たにオープンします。これにより、ゲンキーのネットワークはさらに広がり、愛知県エリアにも新しい風を吹き込むことでしょう。スーパーマーケット機能とドラッグストアとしての利便性が融合したこの業態は、これからも多くの地域住民に求められ続けそうです。
まとめ:「ゲンキー=地域の最後の砦」となる店舗モデル
ゲンキーの「あえて小さな店舗に建て替え」「徹底したコストカット」というアグレッシブな出店戦略は、人口減少時代に向けた小売業の新しい答えのひとつです。食品・総菜など生活に必要なあらゆる商品を圧倒的な安さで提供し、小型店舗で無理なく継続できるモデルは、地元に暮らす人々の“生活必需店”となりつつあります。
今後もゲンキーは、地方や郊外といった「商圏が小さい、でも必要としている人が確かにいる」エリアに精力的に出店を続けながら、日本の新しい地方インフラ形成の一端を担っていくことでしょう。そして、その成長ストーリーは、今後の流通業界に大きな示唆と刺激を与え続けるはずです。




