帯状疱疹ワクチンが認知症リスク低減に寄与―最新研究と実社会での動き
はじめに
帯状疱疹は中高年や高齢者の間で増加しているウイルス感染症です。かつては単なる皮膚トラブルと考えられてきましたが、ここ最近、新たな観点から大きな注目を集めています。それが、「帯状疱疹ワクチン接種で認知症リスクが低下する」という最新研究の結果です。
この記事では、2025年現在の信頼できる医学的根拠や有識者の解説、さらに国や自治体、現場で進む啓発活動について、どなたにも分かりやすい言葉で詳しく解説していきます。
帯状疱疹とそのワクチンについて
帯状疱疹は、水ぼうそう(VZV:水痘・帯状疱疹ウイルス)が再活性化して起こる疾患で、主に50歳以上の方に多く発症します。痛みや発疹が特徴ですが、重症化や後遺症もあるため、高齢者にとっては大きな脅威です。
現在日本では、生ワクチン(ZOSTAVAX)と、より新しい組換えワクチン(シングリックス/Shingrix)の2種類が承認・推奨されています。
認知症リスク低下:世界規模の大規模研究が明らかにした効果
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英国ウェールズ:28万人超・7年追跡研究
2025年、英国ウェールズの大規模7年追跡研究(生ワクチン使用)により、帯状疱疹ワクチン接種で認知症新規診断が20%相対的に減少したことが発表されました。この効果は、特に女性でより顕著でした。研究では、生年月日に基づく「回帰不連続法」という分析が用いられ、健康意識の高い人がワクチンを選びやすいというバイアス(交絡)を排除する工夫がされています。
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国際的メタアナリシス:1400万人規模の調査
2025年に発表された複数のコホート研究(計約1,400万人)を含むメタアナリシス(統計的統合解析)でも、帯状疱疹ワクチンによる認知症リスク約29%減少(統合ハザード比0.71)が示されました。また、異なる研究グループでもほぼ同じ結果が報告され、リスク24%減少(統合オッズ比0.76)と認められています。
なぜ帯状疱疹ワクチンが認知症リスクに関係するのか?
専門家が挙げる主な仮説は下記のとおりです。
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帯状疱疹ウイルスによる慢性神経炎症の抑制
帯状疱疹のウイルス(VZV)は神経に潜み、再活性化すると脳内で「神経炎症」を起こします。この慢性的な炎症がアルツハイマー病などの認知症の発症に関与していると考えられており、帯状疱疹に罹患する人は認知症発症リスクが1.11~1.47倍に上昇することが示されています。
ワクチン接種によってウイルスの再活性化を抑えることで、炎症を未然に防ぎ、脳を「火事」から守っている可能性があります。 -
血管負荷や免疫反応の軽減
長期的なウイルス反応は血管系にも影響を与え、認知症の血管性病態の引き金となることも疑われています。ワクチンがこれらの炎症や負荷を減少させる好影響があるかもしれません。
今後の課題:得られた知見の限界と留意点
- これらの研究は観察研究(コホート、自然実験等)であり、すべての交絡因子が完全に除去されているとは言い切れません。無作為化比較試験ではないため「あくまで傾向」であり、絶対的な証明とまではいえません。
- 海外主体のデータが多く、日本にそのまま適用できるか完全に検証は進んでいません。しかし、ワクチン接種プログラムの導入期や、横浜市をはじめとする国内自治体での公的接種事業の成果も注目されています。
- 現段階では「認知症予防薬」としてワクチンを位置付けるのではなく、帯状疱疹自体の予防を主眼に置きながら、副次的な効果として認知症リスク低減の可能性を期待するというニュアンスが適切です。
「エムスリー総合研究所」松山亮介副所長の見解
エムスリー総合研究所副所長の松山亮介さんは、これらの一連の研究と社会動向について「リスク低減効果は興味深いが、現時点ではあくまでも観察研究であり、今後さらに日本における臨床データの蓄積が不可欠」と述べています。帯状疱疹ワクチンは、本来の感染症予防のための重要なツールであり、認知症予防を前面に押し出しすぎないバランスが大切であると語っています。
厚生労働省や自治体による啓発活動
2025年現在、厚生労働省をはじめ全国の自治体が帯状疱疹ワクチン接種の啓発活動を加速しています。たとえば東京・赤坂では、医療関係者や地域住民を対象とした「帯状疱疹ワクチン」セミナーが開かれ、正しい知識と最新エビデンスを広く共有する動きが見られます。
高齢化社会を迎える日本において、「帯状疱疹予防は自身の生活の質を守るきっかけ」となるだけでなく、「家族や社会の健康寿命延伸」にも大きく寄与できるとして、行政と医療現場が一体となり普及啓発を進めています。
帯状疱疹ワクチンは誰が対象でどう接種するの?
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接種対象者:
日本では50歳以上の方を主な対象としています。一部自治体では補助制度もスタート。 -
接種方法:
生ワクチンは1回接種、不活化ワクチン(シングリックス)は2回接種(2~6か月間隔)です。 -
副反応:
一時的な発熱、接種部位の痛み・腫れが見られますが、重篤な副反応は稀とされています。医師との相談を推奨します。
みなさんへのメッセージ
今や帯状疱疹ワクチンは、ご自身の健康維持のみならず社会的な課題にアプローチできる一つの手段になりつつあります。決して「認知症を完全に防げる魔法の薬」とは言えませんが、感染症の予防という本来の目的に加え、副次的メリットとして認知症リスク低減の可能性が高まっている最新の知見は有望です。
賢く正確な情報収集や、ご家族・かかりつけ医との対話を大切にしながら、一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。最新情報は厚労省や各医療機関の発信をぜひチェックしてみてください。
参考資料・主要研究論文
- Eyting et al., 2025(英国ウェールズ大規模コホート研究)
- Nature Medicine, 2025年10月号(国際コホート分析)
- メタアナリシス(Herpes Zoster Vaccination and Risk of Dementia: A Systematic Review and Meta-analysis, 2025)
- 厚生労働省ほか自治体による公開情報



