レアアースをめぐる世界の緊張と日本——中国の独占体制、脱却への挑戦

はじめに

レアアース(希土類)は、スマートフォンや電気自動車、最新医療機器、さらには戦闘機に至るまで、あらゆる先端製品に不可欠な17種類の元素の総称です。近年、このレアアースを巡る国際的な動きが再び激化しています。その中心には、世界市場をほぼ独占する中国の存在があります。

2025年10月30日、韓国・釜山で開催された首脳会談、そして日本・アメリカによる新たな合意文書への署名は、複雑なレアアース地政学の新たな章の始まりと言えるでしょう。本記事では、中国のレアアース独占の歴史と手法、日本産業への影響、そして日本を含む諸外国の取り組みについて、優しく分かりやすく解説します。

なぜレアアースがこれほどまでに重要なのか

  • 高性能モーターやバッテリー、半導体の製造に不可欠
  • 携帯電話やパソコン、自動車(特にEV)に欠かせない
  • 防衛・航空宇宙・再生エネルギー分野での需要が急増

かつてはアメリカが主導権を持っていたものの、今や世界のレアアース供給量の最大90%を中国が握っているのが現実です。

中国がレアアースを独占できた歴史と手法

中国による独占は、偶然ではありません。30年以上にわたり、政府主導で技術移転価格競争積極的な環境規制の調整など、あらゆる手段を駆使してきた背景があります。

  • 1980年代後半、中国政府がレアアース産業育成に着手
  • 安価な価格設定により海外ライバル企業を次々と淘汰
  • 環境負荷を無視した大量生産と輸出政策の推進
  • 技術者や生産設備の積極的な誘致・買収

その結果、西側諸国が「安さ」と「供給の安定性」に依存してしまい、気づけば産業の空洞化が進行。サプライチェーンの全体が中国にとって「外交カード」となったのです。

中国の「レアアース蛇口外交」と世界へのインパクト

中国は近年、輸出規制や価格変動の「蛇口」を強力な交渉道具としています。2025年4月、中国は多種にわたるレアアースや希少な磁石の輸出を停止。これは世界の自動車産業などに具体的なダメージをもたらしました。

  • 日本の自動車大手であるスズキが「スイフト」生産を一時停止(2025年5月)
  • EV用モーター、航空・医療用機器など幅広い分野で部品調達が困難に
  • アメリカ、欧州、そして日本は深刻な危機感を覚えることに

このように、中国は世界経済の要ともいえるレアアース供給網を通じて、経済だけでなく外交・安全保障分野でも大きな影響力を保持しているのです。

アメリカと日本の対抗策——新たな合意と国際協調

2025年10月28日、日本の高市早苗首相とアメリカのドナルド・トランプ大統領が、レアアースの安定供給確保について合意文書に署名しました。この文書では、鉱山開発から加工・製造に至るまでのサプライチェーン強化情報共有・共同研究の推進など、広範囲にわたる協力が盛り込まれています。

アメリカはこの協定直前にも、オーストラリアと1兆3000億円規模のレアアース供給に関する協定を結んでいます。これは、中国依存の打破を目指す国際的な動きが具体化している証拠です。

日本企業への影響と対応策

レアアースは日本の基幹産業、特に自動車・電子・機械・IT分野に不可欠です。中国による供給減や価格高騰の影響で、各社は次のような危機対応を迫られています。

  • 代替素材やリサイクル技術の開発加速
  • 他国からの調達網拡大(オーストラリア、東南アジアなど)
  • 政府・業界による備蓄強化
  • サプライチェーンの多様化とリスク分散

例えば、双日は2025年10月に豪州産レアアースの輸入を開始。EV(電気自動車)事業にとって重要な原材料の安定調達へと踏み出しました。これは日本全体の中国依存からの脱却を象徴する動きです。

自動車産業とレアアース「規制」の脅威

特にハイブリッド車やEVのモーターには、レアアース(ネオジムやジスプロシウムなど)が不可欠です。中国による規制や供給不安は、「自動車産業に壊滅的打撃」をもたらしかねない大問題なのです。

  • 磁石や各種部品生産工程の停止リスク
  • 世界的な自動車生産台数の減少、価格高騰
  • 先進国・新興国の技術開発競争力低下

そのため、日本メーカーを始めとした各国企業は、調達戦略の見直しと新素材・新技術開発へとシフトせざるを得ません。国家の経済安全保障政策としても、レアアース供給網の分散化が喫緊の課題となっています。

日本・世界の今後の課題と展望

レアアース問題は「資源の争奪戦」だけでなく、技術・安全保障・外交が複雑に絡み合う現代的な課題です。日本はアメリカやオーストラリア、東南アジア諸国などと連携し、複数ルートによる安定調達体制を構築しつつあります。

  • 日本国内でのレアアース鉱床開発(環境やコスト問題も内包)
  • リサイクル率向上、廃棄物からのレアアース再生技術拡充
  • 国際共同研究、サプライチェーン情報の可視化・共有強化
  • 代替材料・次世代磁石の基礎研究推進

加えて、経済的な競争力とともに、環境への配慮や循環型社会の実現という観点も不可欠です。中国依存からの真の脱却は一朝一夕にはいきませんが、この分野での取り組みは、日本の産業構造や社会の未来を左右する重要な転機にあると言えるでしょう。

まとめ

中国によるレアアース独占体制は、世界経済の安定、安全保障、そして日本の産業基盤にまで直接的な脅威をもたらしています。この現実を前に、日本社会全体が「資源の多様化」「技術革新」「国際連携」の三本柱で課題解決に挑む必要があります。

経済や政治のニュースに関心を持ちつつ、自動車やスマホなど身近な暮らしの「モノ」が、世界情勢や地球環境とどう結びついているかを考えることも大切です。日本の技術者たちや研究者、企業の活動が、このグローバルな大問題にどう立ち向かっていくのか、これからも注目していきましょう。

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