積水化学工業の2026年3月期決算――純利益下方修正の背景と今後の展望

積水化学工業(証券コード:4204)が2025年10月30日に発表した2026年3月期第2四半期決算では、純利益の大幅減少と通期の下方修正が明らかになりました。本記事では、最新決算内容、主な事業環境、株価の反応、今後の見通しについて、分かりやすく解説します。

2026年3月期第2四半期決算の概要

  • 2026年3月期第2四半期(中間期)の連結売上高は6,297億円(前年同期比+0.1%)と、僅かながらも過去最高を記録しました。
  • 営業利益は454億円(同-6.7%)経常利益は489億円(同+1.7%)親会社株主に帰属する中間純利益は317億円(同-26.1%)と、大幅な減益となりました。
  • 背景として、高付加価値品の拡販やコスト削減に努めたものの、EV市場低迷や一部事業の需要減、欧州での一時費用の計上が重しとなりました。
  • 通期の業績予想も純利益12%減に下方修正され、今後の成長軌道への転換が注目されています。

このような結果となった要因には、需要の減少に加えて世界経済や業界の構造変化、コスト増加、特に電気自動車(EV)市場の成長鈍化が大きく影響しています。積水化学工業は、住宅・非住宅、環境・ライフライン、高機能プラスチックス、メディカルといった多様なセグメントを展開し、それぞれの事業環境が直撃しました。

各事業セグメントごとの状況

  • 住宅事業: 新築住宅の棟単価上昇やリフォーム需要の増加が続き、一定の安定成長を維持しています。
  • 環境・ライフライン: 配管システムや建材事業で都市インフラの需要が下支えとなりましたが、建設市況自体は横ばい傾向にあります。
  • 高機能プラスチックス: 電子材料の分野や車載部品で航空機需要の回復が見られるなか、EV向け製品の受注が予想を下回る結果となっています。
  • メディカル: 欧州での一時的コスト、および検査薬需要の減少が業績を圧迫しています。

特に、EVシフトのスピードが期待を下回り、グループ全体の利益成長にストップが掛かる形となっています。また、一般消費財向け分野でもインフレや消費マインドの低迷が悩みの種です。

業績下方修正の詳細と要因

  • 通期の純利益予想は、従来の815億円から720億円前後へと下方修正されました。
  • 経常利益も3.9%減の1,120億円になる見通しです。
  • 下半期(10-3月期)の連結経常利益も前年同期比で0.4%増と、成長の鈍化が読み取れます。

このような下方修正は主に、EV市場の需要一巡と世界的な自動車生産の低調、加えて欧州事業のコスト圧迫、新興市場での景気後退などが重なったことによります。企業側では、高付加価値品の拡販やコスト徹底による効率化を強調していますが、グローバル競争の激化・原材料費の上昇にさらされています。

株価への影響と市場の反応

決算発表後、投資家心理にはやや厳しいムードが漂いました。2025年10月30日の発表翌日、株価は売り優勢となり、一時大幅安となっています。その要因は、決算数値の下方修正や純利益の大幅減、EV市場見通しの悪化に加え、成長ドライバーとなる新規事業や分野の不透明感からです。

  • ただし、同日に自己株式取得枠(最大1,000万株・300億円)が発表されており、株主還元策による下支えも期待されています。
  • 直近3ヵ月(7-9月)の連結経常利益は前年同期比33.1%増となり、売上営業利益率の改善には課題が残るものの、一部事業では着実な成長も見られました。

市場では、「EV依存の比率リスク」と「成長の持続可能性」がテーマとなっており、今後の経営計画進捗や来期以降の収益改善シナリオが注視されています。

今後の事業方針・リスクと期待

厳しい環境下でも、積水化学工業は「構造改革」と「高付加価値品へのシフト」「海外成長市場の開拓」を掲げ、積極的な営業と技術投資を続けています。

  • 住宅事業やリフォームなど国内需要の安定獲得が下支えとなっており、配管システムや建材、医療機器といった社会インフラ分野でも引き続き供給責任を果たします。
  • 高機能プラスチックス分野では、航空宇宙や環境負荷低減型部材など中長期の成長期待が根強いです。
  • 海外市場での新製品展開やコスト競争力強化、研究開発投資の加速化も明言されています。

一方で、EV市場に依存し過ぎるリスク、欧州事業の再成長シナリオ、メディカル市場の市況低迷からの脱却策など、課題も山積しています。グローバル経済や為替変動が業績に与える影響も無視できません。

株主還元と配当について

  • 2026年3月期の配当予想は年間80円(中間40円、期末40円)で据え置きとされました。
  • 加えて、自己株式取得策(最大1,000万株、300億円)発表により、株主還元姿勢の継続が評価されています。

持続的成長を願う株主にとって、収益力の回復とともに、安定的な配当政策と株主価値向上が今後も注目ポイントとなるでしょう。

まとめ――積水化学の経営環境を考える

2026年3月期第2四半期決算で明らかとなった大幅な減益・下方修正は、EV市況鈍化とグローバルなコスト負担など、世界経済と業界構造の変化が複雑に絡み合った結果です。しかし、住宅や環境分野など国内の安定セグメントの確保と、高付加価値分野や海外進出での新たな成長期待も残されています。

今後の株価は、事業ポートフォリオの最適化やイノベーションへの取り組み、利益体質の改善、配当・自己株取得などの積極的な株主還元策を評価しつつ、世界経済と主要市場の動向を冷静に見極めていく必要があります。

積水化学工業はこれまでも厳しい経営環境を乗り越えてきましたが、今回の下方修正を機に、より強靭でしなやかな企業体質への進化が期待されます。企業価値向上へのロードマップと、現状を冷静に受けとめて再成長へのシナリオ作りが、投資家・株主・業界関係者から強く注目されています。

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