神戸・大阪の百貨店売上高が2カ月連続プラス 「優勝セール」と万博効果で集客拡大

2025年10月、日本百貨店協会が発表した9月の売上高速報によると、全国の百貨店売上高は前年同月比1.4%増で、2カ月連続のプラス成長を記録しました。特に注目されるのが、大阪・神戸地区の活躍です。神戸地区では前年比2.9%増、大阪地区では9.1%増と、関西の百貨店が大きく売上を伸ばしています。その原動力となったのが、阪神タイガースのセ・リーグ優勝記念「優勝セール」と、大阪・関西万博の開催でした。

「優勝セール」が百貨店の集客を後押し

9月28日に阪神タイガースがセ・リーグ優勝を決めると、神戸や大阪地区の百貨店では即座に「優勝セール」が展開されました。このセールは、優勝記念ロゴ入りグッズや限定商品の販売、フェア、抽選会など工夫を凝らした企画が盛りだくさん。特に阪急百貨店や大丸など主要店舗では、連日多くのお客様が列を作り、グッズ売り場や食品売り場が大盛況となりました。

新型コロナ禍以降の経済再開に加え、この「優勝セール」はスポーツとショッピングを結びつける話題性ある企画として、地元ファンだけでなく、全国各地から多くのサポーターを呼び込みました。例えば、大阪地区の百貨店では菓子類が前年同月比23.9%増と大幅に伸び、タイガース関連の雑貨も人気を集めたことが売上増の一因です。

阪急百貨店の独自戦略 「優勝セールをしない」決断

この流れの中で、阪急百貨店大阪本店だけは「優勝セール」を行わないという方針を徹底しました。日本2位の売上を誇る老舗だけに、全国から「なぜやらないのか?」と注目が集まっています。

阪急の担当者によると、「百貨店が一時の盛り上がりに頼るのではなく、常日頃から『本物のお品物』と『接客サービス』にこだわることで、上質な顧客の支持を得ていきたい」という考えが根底にあるそうです。確かに阪急は、毎日のように旬の食材や伝統工芸など「本物志向」の企画展を開催し、富裕層やコアなファンを囲い込む独自の戦略を進めてきました。

「優勝セール」の誘惑をあえて断ることで、「短期的な売上」ではなく「長期的なブランド価値」を重視する経営姿勢は、競合との明確な差別化につながっています。実際、阪急百貨店の9月売上高は安定した伸びを維持しており、日本百貨店協会の地域別ランキングでも首位グループをキープしています。

万博効果でインバウンド・富裕層消費も堅調

百貨店売上高増加のもう一つの要因は、大阪・関西万博(2025年開催)の影響です。万博会場に国内外から多くの来訪者が集まり、神戸や大阪の百貨店にも足を延ばすケースが増加しました。特に免税売上高は前年並みまで回復し、中国や韓国などアジア圏からの訪日客が、高級化粧品や時計、バッグなどの購入を再開しています。

また、国内富裕層の消費も堅調です。大阪地区では、地場の老舗企業が主催する物産展や外国展などの大規模催事が集客に成功し、高額商品の売れ行きが好調。さらに、ヨーロピアンやアジアの有名ブランドによるポップアップショップが人気を集め、百貨店全体のグレードアップを印象づけています。

全国の主要10都市(東京、横浜、名古屋、大阪、神戸など)では、売上高が全体の79.4%を占め、前年比3.2%増と大きな伸びを見せています。これに対し、地方の7地区は5.2%減と、地域間格差が目立つ結果となりました。

商品別・来店動向 季節商材と集客施策の工夫

百貨店の商品別動向を見ると、「雑貨」と「食料品」の2品目が前年を上回っています。化粧品や宝飾・美術品などの雑貨は、インバウンド需要と国内富裕層の消費が重なり、10都市では二桁増の好調さ。菓子類は、旅行客の土産需要で大阪が23.9%増と大幅増を記録しました。生鮮食品は原料高の影響で低調でしたが、ブランド米や高級フルーツなど付加価値の高い商品は安定した売れ行きです。

一方、主力の「衣料品」は長引く残暑の影響で秋物商材の動きが鈍く、全体としてはやや苦戦しました。ただし、9月中旬以降は気温低下に伴い、羽織物やアウターなどの売上も回復傾向です。

来店客数に関しては、9月は休日が1日減少した影響もあり、全国平均で微減となりました。しかし、各百貨店では、外商顧客向けイベントやオンラインとの連動企画など、集客施策の多様化も奏功しています。また、店舗改装やリニューアルが一巡した東京地区の百貨店も、8カ月ぶりに前年実績を上回る2.5%増を記録しました。

今後の展望 「優勝セール」成功の背景と課題

9月の百貨店売上高2カ月連続増は、阪神タイガースのセ・リーグ優勝と「優勝セール」、大阪・関西万博の開催という2つのビッグイベントが重なったことが大きな要因です。どちらも「一時的な盛り上がり」ではありますが、百貨店各社が企画力を発揮し、実売や集客につなげたことが高く評価できます。

ただし、今後の課題も明確です。まず、地方と都市部の差が拡大していること。今後は地方店舗でも独自の集客施策が必要です。また、インバウンド需要は緩やかに回復しているものの、世界経済や為替レートの影響を受けやすいため、今後の動向は注視が必要です。さらに、主力の衣料品の動きが停滞しているため、冬物商材の販売促進と新たな商品提案が求められます。

百貨店業界全体としては、「優勝セール」のような時節ネタに加え、自社ならではのブランド力やサービスで差別化するための努力がますます重要になっています。その意味で、阪急百貨店の「セールをしない」姿勢も、今後の百貨店経営の参考となる一つのモデルと言えるでしょう。

繰り返しになりますが、2025年9月の神戸・大阪地区百貨店売上高は、阪神タイガースの「優勝セール」と万博効果による集客が大きく寄与し、2カ月連続で前年を上回りました。地元ファンや観光客、富裕層など多様な顧客を呼び込む企画力と、ブームに流されない本物志向のサービス展開が、今後の百貨店業界の成長を支える力になるでしょう。

まとめ

  • 全国百貨店売上高は前年比1.4%増で2カ月連続プラス
  • 神戸地区は2.9%増、大阪地区は9.1%増と大きく成長
  • 「優勝セール」と万博の集客効果が際立つ
  • インバウンド・富裕層消費も底堅く、高額商品が好調
  • 阪急百貨店は「優勝セールをしない」独自戦略でブランド価値を強化
  • 地方と都市部の差、衣料品低迷など今後の課題も明らかに
  • 百貨店業界は「話題性」と「本物志向」の両立がカギ

今後も、地域のイベントや全国的なスポーツ盛り上がりを活用しつつ、百貨店ならではの品揃えとサービスで差別化を図る姿勢が、業界全体の発展につながると期待されています。

参考:主要地区・商品別の動向(2025年9月)

地区 前年比 主な要因
全国 +1.4% 主要10都市の好調、地方の低迷
大阪 +9.1% 万博・タイガース優勝セール・菓子類23.9%増
神戸 +2.9% 優勝セール・インバウンド増加
東京 +2.5% 改装効果・国内売上回復
商品カテゴリー 前年比 主な特徴
雑貨(化粧品・宝飾・美術品等) +(二桁増の店舗も) インバウンド・富裕層需要で好調
食料品(特に菓子類) +0.8% 大阪は23.9%増、旅行客土産需要が牽引
衣料品 残暑影響で秋物動き鈍るも下旬回復傾向

参考元