高市新政権の「給付付き税額控除」とは?仕組みと課題をわかりやすく解説

高市早苗新総理が掲げる経済政策の柱となる「給付付き税額控除」が注目を集めています。10月21日に首相に指名された高市総理は、記者会見で年内を目途にこの制度の設計を始める意向を示しました。物価高に苦しむ家計を支援するための新たな政策として期待される一方、その仕組みの複雑さや実現に向けた課題も浮上しています。今回は、この制度について詳しく解説します。

給付付き税額控除ってどんな制度?

給付付き税額控除とは、減税と現金給付を組み合わせた制度です。簡単に言うと、納めるべき所得税から控除額を差し引き、その控除額が納税額より大きい場合は、その差額を現金で給付するというものです。

具体的な仕組みを見てみましょう。仮に年間の控除額が10万円だったとします。その人の所得税が5万円の場合、まず5万円の税金をゼロにします。さらに残りの5万円(10万円-5万円)が現金として給付されます。もし所得税がそもそもゼロの非課税世帯であれば、控除額の全額が現金給付として受け取れる可能性があります。

この制度の大きな特徴は、所得が低い世帯ほど恩恵を受けやすい点です。高市総理の提案では、低所得者層や子育て世帯を中心に、物価高による生活の圧迫を緩和することが目的とされています。

なぜ今、給付付き税額控除なのか?

現在の日本経済は、円安に伴う輸入物価の上昇や、それに続く価格転嫁によって、消費者の生活が圧迫されています。これまでの物価対策では、一律給付や消費税減税といった「バラマキ政策」が検討されてきました。しかし、高市新政権はこうしたアプローチではなく、より選別的で持続可能な支援の仕組みを目指しています。

給付付き税額控除が注目される背景には、政治的な環境が整ったことがあります。野党第1党の立憲民主党は、長年この制度導入を選挙公約としており、連立を組む日本維新の会も研究を進めてきました。また、自民党と公明党、立憲民主党の間では、この制度についての協議体の設置も合意されています。つまり、与野党を超えて、この制度に対する一定の理解が存在するということです。

制度実現の鍵は何か?

給付付き税額控除を実現するためには、マイナンバー制度などを活用して、国民の所得や資産情報をいかに集約し、対象となる世帯への給付につなげるかが重要です。幸いなことに、高市総理は記者会見で「こうした情報インフラも、基本的なものはすでに整いつつある」と述べており、技術的な基盤はある程度整っているとの認識を示しています。

デジタル庁の統率力が問われる局面が到来したと言えます。マイナンバーを含む個人情報の適切な管理と活用、システムの構築、さらには個人情報保護とのバランスなど、デジタル庁を中心とした関係機関の役割は非常に大きくなります。

アメリカの事例から学ぶ

給付付き税額控除の仕組みは、米国の勤労所得税控除(EITC)を参考にしています。アメリカの制度では、勤労所得がある低所得世帯が対象となり、所得が増えるにつれて給付額も増加し、一定の水準に達すると徐々に減額されていく仕組みになっています。

例えば、子ども3人の世帯で勤労所得が18,000ドル(約270万円)の場合、最大で約120万円の給付を受けられます。これにより、働くインセンティブを損なわないようにしつつ、低所得世帯を支援するという工夫がされています。

今後の課題と展開

高市総理は年内を目途に制度設計を始めるとしており、対象世帯の範囲、控除額の水準、実施時期など、多くの詳細が今後決定される予定です。ただし、給付を受ける対象者をどう限定するかは、政治的に難しい判断を迫ることになります。

重要なポイントとしては、この制度が単なる「バラマキ」に終わらないようにすることです。長いデフレから脱却しようとしている今だからこそ、総合的で中長期的な政策議論が必要とされています。給付付き税額控除は、そうした政策の一環として、どのように位置づけられるのか、今後の動向が注視されます。

与野党の協力体制

この制度の実現に向けては、与野党を超えた協力が不可欠です。自民党と維新の連立政権が、野党第1党の立憲民主党の長年の主張を実現させるという形は、日本の政治にとって珍しいケースかもしれません。もっとも、結果を出すのは「政治が本気でやるかどうかだ」というのが、識者の指摘です。

年内の制度設計、その後の実装という限られた時間の中で、高市政権がこの政策をどこまで具体化できるかが、今後の焦点となります。デジタル基盤の整備、所得情報の適切な集約、給付のシステム構築など、解決すべき課題は少なくありません。しかし、物価高に苦しむ国民の期待は大きく、政権の本気度が試される政策として注目されています。

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