南鳥島レアアース開発が注目される背景
日本最東端の南鳥島周辺の海底で発見されたレアアース泥が、今大きな注目を集めています。この動きの背景には、中国によるレアアース輸出規制の強化と、米中対立の激化という国際情勢があります。2025年10月28日現在、レアアース関連銘柄への投資家の関心が高まっており、日本の外相も中国のレアアース輸出管理に対して懸念を伝達する事態となっています。
中国のレアアース支配がもたらすリスク
レアアースは、電気自動車のモーターやスマートフォン、風力発電機など、現代の先端技術に欠かせない戦略物資です。しかし、現在の供給構造には大きな偏りがあります。中国は世界のレアアース生産の約70%、精錬に至っては実に約90%を握っています。埋蔵量も4,400万トンと推定され、世界総量の34%に相当する規模を有しているのです。
この極端な供給集中は、国家安全保障上の重大なリスクとなっています。実際、2010年には尖閣諸島の領有権問題を背景に、中国が日本向けのレアアース輸出を停止する事態が発生しました。中国商務部は日本向けレアアースの量を前年の5万トンから3万トンに減らすと発表し、その直後に尖閣諸島沖で中国漁船と海上保安庁の巡視船が衝突する事故が起きました。中国人船長の逮捕に対する報復として、中国はレアアース輸出をさらに絞り込み、日本の産業界はパニックに陥りました。
そして2025年に入ってからも、中国によるレアアース輸出規制は継続しています。2025年4月には、中国が一部の中・重希土類関連品目に対する厳格な輸出管理を実施しました。この影響は産業界に直接的な打撃を与えており、2025年5月にはスズキが小型車「スイフト」の生産を一時停止したことも、中国によるレアアースの輸出規制が原因だったとされています。
南鳥島で発見された世界最高品位のレアアース泥
こうした中国依存のリスクに対抗する切り札として期待されているのが、南鳥島周辺の海底に眠るレアアース泥です。2013年、海洋研究開発機構(JAMSTEC)や東京大学などの共同調査により、水深6000メートルの深海にレアアースを高濃度で含む「レアアース泥」が発見されました。
この南鳥島レアアース泥の特徴は、その品位の高さにあります。中国の陸上鉱山の20倍もの品位を持つ、世界最高品位の「超高濃度レアアース泥」なのです。埋蔵量も驚異的で、世界3位規模となる約1600万トン超と推定されています。しかも、中国が輸出規制をかけるジスプロシウムなどの重希土類も豊富に含まれているとされています。
さらに注目すべきは、この海域が日本の排他的経済水域(EEZ)内に位置していることです。およそ100平方キロメートルの有望エリアだけでも、日本の年間需要の数十年から数百年分に達する莫大な資源ポテンシャルを持つことがわかっています。これは、日本がレアアース資源を独自に開発し、自給自足体制を構築できる可能性を示しています。
開発に向けた取り組みと課題
南鳥島レアアース泥の研究開発を主導してきたのは、内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)です。2025年6月には、SIPの委託を受けてJAMSTECが3週間にわたる現地調査を実施しました。また、2014年には東京大学に「レアアース泥開発推進コンソーシアム」が設立され、日本を代表する30以上の企業・機関が参加して、5つの部会に分かれて鋭意検討を進めています。
しかし、課題も少なくありません。レアアースは採掘だけでなく、精錬も非常に難しい資源です。この精錬分野でも、世界シェアの9割超を中国が握っているのが現状です。せっかく日本がレアアース泥を採掘できたとしても、精錬技術がなければ実用化は困難です。
とはいえ、希望の光も見えています。実はすでにオーストラリアやブラジルが、重希土類の分離・精錬に向けて動き出しています。こうした国々と連携して南鳥島のレアアースを精錬できれば、中国の覇権を崩すことも可能になるでしょう。今後の技術革新と国際協力が、この課題を解決する鍵となります。
米中対立とレアアース戦略
2025年10月現在、米中対立の構図の中でレアアース問題は新たな局面を迎えています。中国側はレアアースの輸出規制を1年間延期し、米国側も100%の対中関税の発動を見送る方向にあることが伝わっています。しかし、この一時的な緊張緩和は、根本的な問題解決には程遠い状況です。
中国によるレアアースの輸出規制は、単なる経済政策ではなく、西側諸国に対する明確な地政学的メッセージを含んでいます。資源の「外交カード化」が現実の脅威となっており、日本の外相が中国のレアアース輸出管理に懸念を伝達する事態にまで発展しています。
日本の経済安全保障における重要性
南鳥島レアアース泥の開発は、日本の経済安全保障にとって極めて重要な意味を持ちます。電気自動車やモバイル電子機器など、現代社会を支える製品の製造に不可欠なレアアースを、安定的に確保できる体制を構築することは、国家の存立基盤に関わる課題です。
2016年には、レアアース泥とともに、リチウムイオン電池に必須のバッテリーメタルも南鳥島周辺で発見されています。これらの資源を総合的に開発することで、日本は資源安全保障の確立に大きく前進できる可能性があります。
南鳥島のレアアース泥は「次世代型のクリーンな資源」としても注目されています。陸上鉱山と比べて環境負荷が少ないとされる海底資源の開発は、持続可能な社会の実現にも貢献できる可能性を秘めています。
今後の展望
現在、南鳥島レアアース泥の開発は、探査、環境影響調査、採泥・揚泥、選鉱・製錬、残泥処理、およびレアアースを用いた新素材に関する研究開発が進められています。研究の結果、南鳥島EEZ内およびその周辺の海域(公海)には、世界最高品位のレアアース泥が豊富に分布していることが確認されてきました。
一刻も早く南鳥島EEZ周辺の公海上の調査を行い、レアアース泥の国際鉱区申請を目指す動きも活発化しています。これが実現すれば、日本は中国依存から脱却し、レアアースの安定供給を確保できる体制を構築できるでしょう。
ただし、商業ベースでの活用には、まだ多くのハードルがあります。深海6000メートルからの採掘技術、効率的な精錬方法の確立、環境への配慮、そして経済的な採算性の確保など、解決すべき課題は山積しています。しかし、中国のレアアース支配がもたらすリスクを考えれば、これらの課題に正面から取り組む価値は十分にあると言えるでしょう。
南鳥島レアアース開発は、日本の産業競争力と経済安全保障の未来を左右する重要なプロジェクトとして、今後ますます注目が集まることが予想されます。


