鬼の副長・土方歳三――新選組のブラック社則と現代上司論、そして令和に蘇る歴史カステラ
はじめに:なぜ今、土方歳三なのか
2025年の秋、土方歳三の名が再び大きな注目を集めています。「やめたら切腹?」とまで揶揄される新選組の厳しい内部規律は、かつてないほど現代社会との共通点をもって語られています。さらに、戊辰戦争や明治維新という激動の時代を仲間たちと生き抜いた彼の生涯が、時代を超えて人々の心に響き続けていることから、当時の歴史や精神が令和の世にも新たなかたちで蘇り始めています。今回は、土方歳三をキーワードに、話題となっている「新選組のブラック社則」、現代の組織論との比較、さらには歴史と現代をつなぐカステラ復刻の物語を、分かりやすくやさしい口調で紐解きます。
土方歳三と新選組:多様な人材集団を束ねた「鬼の副長」
新選組は、一見、最初から精鋭で構成されていた軍団と思われがちですが、実際には近藤勇や土方歳三ら、農民出身者や浪人が集まった異色の集団でした。そんな新選組をわずか数年で「泣く子も黙る」最強部隊へと押し上げたのが、土方歳三の徹底した統率力でした。その中心にあったのが、現代でいう「就業規則」や「行動指針」にあたる明文化されたルール=「局中法度(きょくちゅうはっと)」の制定です。このルールは、シンプルかつ明確で、「士道に背くまじきこと」「局を脱するを許さず」といった基本原則を、誰にでも分かる形で示しました。この“ルールの明文化”によって、身分や立場を越えた公平な規律を徹底し、組織の結束と信頼を築いたのです。
「やめたら切腹?」――新選組におけるブラック社則
- 局中法度には、「局を脱するを許さず」「勝手に金策いたすべからず」「勝手に訴訟扱うべからず」「士道に背くまじきこと」「私の闘争を許さず」という五箇条が定められていました。
- その違反者には「即切腹」という極めて厳しい処罰が科されていました。実際、6年間で違反により39人もの隊士が切腹を命じられるなど、組織内の排除が徹底していたのです。
- こうしたエピソードは、現代の労働環境やブラック企業的体質の強みにも通じており、「やめたら切腹」すなわち「辞める=自己責任での粛清」を連想させるとして、SNS上でも大きな話題となりました。
新選組では業務だけでなく、私生活上の不始末なども即厳罰となり、「親友相手でもルール違反は許されなかった」という厳格な公平性が貫かれていました。現代の価値観から見ると「ブラック企業も真っ青な規律」と言われることもしばしばです。
現代上司と土方歳三――共通点・違い・学べること
- 公平性・一貫性の徹底:土方は誰に対しても平等に規則を適用し、例外を作らなかった点が現代の理想の管理職像にも重なります。特定の社員だけを優遇したり、ルールを曖昧にした場合、現代企業でも組織の信頼は失われます。
- ルールと信念をもって最後まで戦う姿勢:徳川幕府崩壊という時代の大転換期でも、新選組幹部として信念を貫き、剣を手放さず戦い抜いた姿は「変化の時代、信念を持つリーダー」の象徴とされています。
- 一方で、違反者に容赦ない切腹や粛清を命じるなど、現代では絶対に受け入れられない非人道的側面も「鬼の副長」と畏怖される理由でした。「こんな上司は嫌」と言いたくなる一面もあり、現代とのズレも指摘されます。
なお、池田屋事件での果断な指揮や、厳しい戦いの中で部下を本気で守ろうとした逸話など、土方のリーダー像は“ブラック”と“信頼される上司”の紙一重であったともいえるでしょう。
内部抗争と現代の組織論からみる新選組の光と影
新選組の歴史は、粛清や内部抗争の歴史ともいわれます。初期の芹沢鴨一派の粛清や、山南敬助、伊東甲子太郎ら主要幹部の死は、「組織のルール」が血で守られた証でもありました。
- 失敗すれば切腹の厳罰主義、分派・離脱にも命がけの代償。
- 治安維持の特殊な任務ゆえ、強烈な結束と緊張感が必要だった。
- その一方で、刀や槍の時代から大砲・鉄砲の時代への移行を敏感に察知し、仲間に進言する“リアリスト”としての顔もありました。
これらの要素は、現代の組織論やマネジメントに置き換えても、「規律の力」と「過剰な管理」という両刃の剣となりうる、学ぶべき教訓を多く残しています。
「ブラック社則」への現代の反応――SNSとネット世論
- Twitterでは「上司が土方さんだったら真っ先に粛清されそう」「ミスったら即切腹、絶対死ぬ自信ある」という声や、「ブラック上司に就職したい願望ってすごい……社畜魂を感じる」といった皮肉も飛び交いました。
- 一方で、「何を信じていいか分からない現代だからこそ、筋の通ったルールと決断する上司にロマンを感じる」といった肯定的な意見もあります。
このような両極端の意見が出るのは、土方歳三という人物が時代を超えて「圧倒的な規律」と「変化を乗り切る強さ」を象徴しているからこそでしょう。
戊辰戦争を共にした元幕臣が作ったカステラ、令和での復刻
近年、土方歳三や新選組ゆかりの地で、戊辰戦争を生き抜いた元幕臣が明治時代に創業したカステラの復刻が注目されています。当時の甘味は、戦乱からの復興や新しい時代を担う希望の味でもありました。
- 明治時代の元幕臣が、カステラ作りを始めた背景には、「武士から市民、新しい社会の一員として生きる」という決意が込められていました。
- 復刻版のカステラは、創業当時の製法や素材を可能な限り再現しつつ、現代らしいアレンジも施されています。令和の人々にも「歴史と味の橋渡し」として支持されています。
- 土方たちが命を賭して守り抜いた信念や、時代を超えて受け継がれた意志が、形を変えて現代に息づいている証といえるでしょう。
今やそのカステラは、単なる「お菓子」ではなく、「歴史を味わい、語る」体験そのものとなりつつあります。
おわりに――土方歳三の教えから学ぶ現代的価値
土方歳三と新選組の「ブラック社則」は、時に過剰で非人間的とも受け取られますが、そこには多様な人々を本気でまとめ上げ、時代の波にのみ込まれずに生き抜く知恵も詰まっていました。公平な規律、強い信念、そしてリーダーの孤独と責任。これらは多くの現代人、ことに組織を率いる管理職やリーダーにとって、今なお学ぶべき遺産といえます。
また、血と汗の歴史から生まれ、時代を超えて復刻されたカステラもまた、「生きるための新たな挑戦」と「希望」という土方達の精神を象徴しています。
厳しさのなかに優しさを見出し、不寛容の裏に信念を宿す――土方歳三の物語は、今なお、社会と人の在り方を問い続けています。


