NASAによる最新観測が話題に――恒星間天体「3I/ATLAS」とは?
2025年秋、天文ファンや科学者の間で大きな話題となっているのが、恒星間天体「3I/ATLAS」(C/2025 N1 ATLAS)の飛来です。ATLASは太陽系外からやって来たとみられる彗星で、2025年10月29日に太陽に最も接近(近日点通過)します。これは近年では3件目となる貴重な恒星間天体の発見であり、観測や解析が精力的に行われています。
3I/ATLASの概要――太陽系外からの「使者」
- 発見日:2025年7月1日、南米チリでATLASプロジェクトにより発見
- 分類:非周期彗星、かつ双曲線軌道を持つ恒星間天体
- 起源:銀河系の薄い円盤または厚い円盤とされ、太陽系天体よりも遥かに古い可能性
- 速度:太陽系内を時速約21万km(秒速約58km)で縦断中
- 観測史上3例目の恒星間天体:オウムアムア(1I/ʻOumuamua)、ボリソフ彗星(2I/Borisov)に次ぐ
ATLASの軌道と太陽接近――2025年最大の「宇宙ショー」
3I/ATLASが描く軌道は、ほぼ太陽系の惑星公転面と平行(黄道面に対して約5度の傾き)であり、太陽に最接近する2025年10月29日(近日点)には、太陽から約1.36天文単位(約2億300万km)の距離にまで迫ります。近日点の前後で地球から観測することは残念ながら困難ですが、11月下旬以降、日の出前の東の空に再び姿を現します。その際、12等級程度まで明るくなり、望遠鏡を使えば観測可能と予測されています。
今後の見え方と観測のポイント
- 10月中旬~下旬:太陽の方向に近すぎて観測は困難(太陽合)
- 10月29日:近日点通過、太陽の裏側に位置するため地球から姿を消す
- 11月下旬:おとめ座の方向、日の出前の東の低空に再登場(明るさは12等級前後)
- 12月:しし座区域に移動しつつ、徐々に暗くなり太陽系を離れる
なお、日本では赤道付近を除いて10月後半は観測が難しいですが、再び見え始める11月末~12月は望遠鏡での観察に絶好の時期となります。
NASA観測画像が示した「巨大なジェット現象」とは?
NASAの最新観測では、3I/ATLASが太陽方向に向かって巨大な“ジェット”を噴き出している様子が捉えられました。ジェットとは彗星の核からガスや塵が高速で放出される現象で、太陽熱により氷や揮発性物質が気化しながら宇宙空間に広がります。この現象は彗星に特有ですが、3I/ATLASのジェットはとくに大規模でダイナミックだと報告されています。
なぜこれほど⼤きなジェットが発生したのでしょうか?3I/ATLASは太陽系外由来と考えられており、太陽への接近は「まったく未知の環境変化」を彗星にもたらします。太陽からの熱や粒子の影響で「古い氷」が一気に昇華し、強烈なガス噴出=巨大ジェットを生み出したと言われています。この様子は高性能な望遠鏡や観測衛星によって克明に記録され、天文学者の大きな関心を集めています。
科学的意義――「恒星間天体」観測の希少なチャンス
- 恒星間天体というレアな存在:太陽系の外から飛来した彗星の直接観測は極めて稀。
- 太陽系形成史や銀河進化の手がかりに:3I/ATLASの物質構成や形成過程の解析は、私たちの太陽系や銀河形成の謎を解くカギにも。
- 生命起源のヒント:彗星に多く含まれる有機物や水は、太古の地球に供給された可能性もあり、今回の分析によって別の恒星系の物質情報が得られるかもしれません。
インターネットと世論を沸かすさまざまな憶測と警告
3I/ATLASの異例の軌道や活動の強さ、「太陽直行ルート」などから、SNSやインターネット上では様々な憶測や都市伝説が拡散しています。一部メディアでは「宇宙人の乗り物説」や「未知の危険性」などの扇情的な論評もみられます。
「10月29日までに休暇を取れ」? ハーバード大教授の真意
「10月29日までに休暇を取ろう!」と話題の警告は、ハーバード大学の著名な天文学者によるものです。この発言は一見センセーショナルに思えますが、核となるメッセージは「近日点通過は人類にとって一生に一度の現象だから観測の機会を逃すな」という趣旨でした。科学的根拠のない危機論ではなく、天文学の歴史的瞬間を共に目撃してほしいという願いが込められています。
科学的に見た3I/ATLAS――地球への脅威や不思議な点
- 地球直撃や災害リスクはゼロ:3I/ATLASは地球から約1.8天文単位(約2億7000万km)以上離れて通過、脅威とはなりません。
- 「異常」に見える動きは?:双曲線軌道を描くスピードやジェットの巨大さなど、「ただの彗星とは思えない」と話題ですが、物理法則の範囲内で説明可能とされています。
- UFO・宇宙船説の背景:未知への興味や、2017年のオウムアムア(恒星間天体1例目)の際に沸き起こった議論が尾を引いています。
3I/ATLASの今後――さらなる観測と科学的期待
今後は太陽から離れながら次第に暗くなる3I/ATLASですが、12月上旬までは望遠鏡での追跡観測のチャンスが続きます。NASAやESA(欧州宇宙機関)をはじめ、世界中の天文学者がスペクトル解析・ダストジェット計測・化学組成の研究などを進めていく予定です。
- 2025年11月~12月:明け方の星座(おとめ座~しし座)にて、中型以上の望遠鏡で観測チャンス。
- Nasa/世界の観測アプリ:位置特定や観測ガイドも充実し、興味のある方はぜひチャレンジを。
科学だけでなく、人々の想像力や宇宙観も刺激する「3I/ATLAS」。この壮大な宇宙の旅路を、ぜひそれぞれのスタイルで追いかけてみてください。天文学の最先端に触れつつ、夜空を見上げるひとときを過ごしてみませんか。
関連用語・トピック解説
- 恒星間天体:太陽系の外から飛来し、再び太陽系外へと進んでいく軌道を持つ物体。いわゆる「惑星間」や「彗星」とは区別される。
- 近日点(Perihelion):天体が太陽に最も近づく軌道上の点。
- 等級(Magnitude):天体の明るさの単位。数字が小さいほど明るい。肉眼観測限界は6等級前後。
- ジェット(Jet):彗星などの核から、高速で噴き出すガス・塵の流れ。恒星間天体では特徴的な大きさや様相になることも。
- 双曲線軌道:移動する天体が引力から解放され、再び閉じた円や楕円状の軌道を持たず直線的に太陽系を通過していく軌道。
今回の3I/ATLASのような恒星間天体観測は、宇宙の起源や私たちの存在についての根源的な問いへのヒントでもあります。「宇宙の使者」を追いかけたこの一大イベントは、今まさに最高潮を迎えています。



