シャープ、2027年度にEV事業へ本格参入 ~家電連携型「もう一つのリビング」コンセプトでEV市場に新風を~
シャープ株式会社は、2027年度にバッテリーEV(電気自動車)を日本市場に導入し、EV事業へ本格参入する方針を明らかにしました。これまでに「家電」「ディスプレイ」「AIoT(モノのインターネット)」など多岐にわたる革新をリードしてきた同社が、今度は自動車という新たな舞台でこれまでの技術を発揮しようとしています。
今回の発表は、同社の2027年度までの中期経営計画の中核施策であり、EVの新しい価値提案や将来性に注目が集まっています。
ディスプレイからEVへ シャープの挑戦
近年、シャープはディスプレイデバイス事業の構造改革を進め、「車載」ディスプレイへの展開を強化してきました。三重県亀山市にある亀山第1工場を車載パネル専用に転用し、これまで培ってきた高品質な液晶パネル技術などをEVにも活用する戦略です。
2024年9月には、EVコンセプトモデル「LDK+」が発表されました。「LDK」とは「Living・Dining・Kitchen」の頭文字で、従来の家の中のリビング空間を車内へと拡張する発想です。つまり、シャープのEVは単なる移動手段ではなく、“もう一つのリビング”として多用途空間になることを目指しています。
「もう一つのリビング」EV――家電連携で生まれる新しい価値
今回注目されるのは、「EVをホームシアターや生活空間として活用する」という先進的なコンセプトです。シャープが持つAV機器をはじめとする家電製品、生活支援AIoT技術、エネルギーソリューションとEV技術を融合させることで、自宅のリビングのような快適さと利便性を、移動空間としての車内にもたらします。
具体的には、以下のような活用シナリオが想定されています。
- 車内での大画面シアター体験:シャープの高精細ディスプレイと高音質AV機器を駆使し、映画館さながらの没入空間を車内で実現
- 家電の連携:自宅のエアコンや照明、炊飯器、冷蔵庫などシャープのスマート家電と車両がシームレスに連動。外出中のエネルギーマネジメントや、帰宅前の自動操作も可能に
- エネルギーソリューション:「クルマ=蓄電池」として太陽光エネルギーと連動したV2H(Vehicle-to-Home)活用。災害時の停電補助や、再生可能エネルギーの地域内循環など
- AIoTによる健康・見守りサポート:乗車時の健康管理や遠隔見守りサービスをAIoTで実現し、安心・安全なモビリティ体験を支援
グローバルパートナーとの連携、事業拡大の布石
EV事業推進に当たり、親会社である台湾・鴻海(ホンハイ)グループのEV設計や生産のノウハウ、各種部品調達力を活用。グローバル規模の研究開発体制と生産ネットワークを築くことで、EV事業の立ち上げ・拡大を加速しています。また、今回の中期計画では家庭用テレビ用液晶パネルなどを生産していた亀山第2工場の鴻海への売却も決定され、再編後の経営資源の有効活用や新産業領域への投資加速が図られています。
2027年度中期経営計画での位置付けと今後の展望
2027年度までの中期経営計画の中で、EVはAIデータセンターソリューション、インダストリーDX/ロボティクス、宇宙分野と並ぶ「新産業領域」と明記されています。シャープの沖津社長兼CEOは、EV事業を「新たな成長の柱にするかどうか、この中期計画期間中に見極める」旨を明言しています。
経営指標としては、2027年度に営業利益800億円・営業利益率7%を計画、売上高は2024年度比14%減の1兆8500億円を想定しています。これは伝統的な家電事業と新産業への投資とのバランスを取りながら、将来的な「飛躍」の足掛かりを築く方針です。
また、全社横断の「イノベーションアクセラレータープロジェクト(I-Pro)」によってEV事業を含む新規領域への重点開発を推進。これまでの「緊プロ」プロジェクトで生まれた300超の製品開発ノウハウを、EVのような新事業分野にも最大限活用しています。
ユーザーにとってのメリットと期待される影響
- 生活をより豊かにする選択肢:家電連携型EVは、移動中も自宅にいるような快適さをもたらし、仕事・余暇・健康管理など多様な生活シーンと車の垣根をなくします。
- 災害時の安心:強力な蓄電機能を活用した家庭への電力供給や、情報・通信インフラとの連動は災害時のライフラインとしても期待されます。
- サステナビリティの促進:再生可能エネルギーやカーボンニュートラル化の波に乗り、環境負荷低減とともに、新しい生活様式を提案します。
まとめ:シャープEVが提案する新時代の「モビリティ×リビング」
2027年度のEV本格参入は、シャープにとって新しい時代への大きなステップです。家電・IT・エネルギーの融合による全く新しい「リビング空間」の創造は、今後のモビリティ、ライフスタイル、そして日本の産業構造にも革新をもたらす可能性を秘めています。
今後、開発の進捗や具体的なEV商品化の詳細が明らかになるにつれ、シャープならではの独自価値の発揮がますます期待される状況です。




