スルメイカ漁に降りかかる異例の休漁―北海道・函館から見る現場の今

はじめに:日本の食卓とスルメイカ

スルメイカは、日本の食卓に欠かせない「庶民の味」として長年親しまれてきました。刺身や寿司、煮物、天ぷらなど、多様な料理に利用され、特に北海道・函館エリアでは豊かな漁場として全国に知られています。しかし、2025年10月、北海道を中心とした各地でスルメイカ漁が突如休漁となり、水産業界や関連事業者、消費者に深刻な波紋を投げかけています。

スルメイカ休漁の経緯

2025年10月22日より、北海道函館を中心とする小型イカ釣り漁船によるスルメイカ漁が当面の間、全面的に休漁になりました。この背景には、水産庁が定める漁獲枠(TAC:Total Allowable Catch・漁獲可能量)を全国的に超過してしまった現実がありました。2025年度の小型イカ釣り漁船の漁獲枠は4,900トンでしたが、10月中旬の時点で全国の漁獲量は5,800トンを超えてしまい、規定に従い緊急的な休漁措置が講じられることとなりました。

休漁の判断と責任の所在

この異例ともいえる休漁について、水産庁は「休漁の決断は北海道の自主判断によるものである」と発表していますが、根本には国全体で管理されている漁獲枠制度の存在があります。漁獲圧や過剰漁獲による資源管理の徹底が求められる一方、現場の漁業者からは「突然休めと言われても死活問題だ」との強い困惑や不満の声があがっています。特に函館市漁協では、「去年の6割程度しかまだ水揚げできていないのに休めと言われても納得できない」という声も聞かれます。

スルメイカ漁師や地元事業者の困惑と不安

  • 困惑する漁師たち:
    漁獲枠が既に全国的に超過したとの通知を受け、「誰がそんなに獲ったのか」という声や、「いつまで休漁が続くのか見通しが立たない」といった漁業者の不安が顕著に表れています。
  • 飲食業界への直撃:
    函館や札幌市内の寿司店・居酒屋からは、「イカが仕入れられないため営業の継続が困難」「看板メニューが用意できず、客足が遠のく」といった悲鳴が相次ぎます。人気の”活イカ”を売りにしてきた飲食店にも大きな打撃です。
  • 観光や地域経済への重い影響:
    北海道・函館などでは、イカ釣り体験や新鮮なスルメイカの提供が観光資源となっており、多方面へ波及しています。「イカが取れない」という事態は、地元経済全体にも暗い影を落としています。

なぜスルメイカ漁は休漁せざるを得なかったのか

  • 歴史的不漁と資源減少:
    スルメイカは2010年代後半より不漁が続いており、2025年度はついに漁獲枠が7割減という過去最少レベルに設定されていました。2024年度の漁獲枠は79,200トンだったのに対し、2025年度は19,200トンと激減し、資源保護の観点からも厳しい制限が課されています。
  • 科学的資源調査と予測:
    国立研究開発法人 水産研究・教育機構(FRA)は、日本海のスルメイカ資源を調査し、2025年8月~12月期の資源見通しも公表。資源管理や漁業経営安定のために、科学的な根拠に基づき漁獲努力を制限することが求められる状況となっています。
  • 補助的な漁法・他種へのシフト:
    休漁の影響で、飲食店や市場ではアオリイカやヤリイカなど他のイカ種で穴埋めを図る動きが見られますが、スルメイカ特有の美味しさを求める声に応えきれず、十分な対応ができないのが現状です。

現場の声―イカ漁師と地域住民たちの実情

取材などに応じたスルメイカ漁師や函館の仲卸業者は口々に「これからの生活や商売が成り立たなくなる」「国からは休めと言われ、行政からは働けと言われるが、現実はどうすればよいのか分からない」と現場の苦悩を語ります。消費者や飲食店も”いつスルメイカが食べられるようになるのか”見通しが立たない中、今後の対策や補償を望む声が高まっています。

休漁がもたらす社会的影響

  • 価格への影響:
    既にスルメイカは「かつての庶民の味」から「一部では高級品」へと変わりつつあり、今後さらなる値上がりや供給減も懸念されます。
  • 食文化への打撃:
    伝統的なイカ料理やイカの塩辛、珍味など、多様な食文化が脅かされる状況です。
  • 観光資源の損失:
    「活イカ釣り体験」や新鮮なイカ料理の提供が売りだった観光施設には大きな痛手となります。

今後の展望と課題

今後、漁業再開の目処や国や自治体による支援、漁獲枠管理の在り方について議論と検証が続く見込みです。北海道や函館では漁協や自治体、関係機関が連携し、資源回復に向けた対策や漁業者支援、地域経済を維持する方策の検討が急務となっています。また、資源管理の徹底と持続的利用、地域経済・食文化の両立を目指す幅広い社会的議論が求められています。

まとめ:スルメイカの未来を守るために

スルメイカ漁の休漁は、単なる水産業の問題にとどまらず、日本の食文化や地域社会にも深く関わっています。現場の漁師や事業者、市民の暮らしに直結する大きな課題であり、今後も動向に注視が必要です。資源回復のための努力と並行し、伝統的な食文化・地域経済の持続に向けて、多角的な支援・議論が強く求められています。

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