三谷幸喜脚本・フジテレビ系ドラマ『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』——その舞台裏と新たな挑戦

はじめに

『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』(以下:もしがく)は、2025年10月1日よりフジテレビ水曜10時枠で放送中の話題作です。脚本を手がけるのは、日本を代表する喜劇作家・三谷幸喜さん。民放ドラマの脚本担当は実に25年ぶりとなり、かつてない注目を浴びてスタートしました。主演は今もっとも勢いのある俳優・菅田将暉さん。共演には二階堂ふみさん、神木隆之介さん、浜辺美波さんなど、現代日本ドラマ界のトップランナーたちが顔を揃えます。
本作は青春群像劇でありながら、シェイクスピアへのオマージュという二重の意味を持ち、昭和の雰囲気が色濃く再現された独特の世界観を志向しています

ドラマ概要と製作背景

  • 時代設定は1984年、舞台は渋谷「八分坂」:
    架空の街「八分坂」を舞台に、劇場で働く若者たちの日常と夢、そして生きる苦悩を描きます。三谷幸喜さんが大学時代に渋谷で劇場アルバイトをした体験をベースにしており、強い自伝的要素も持っています。8分坂という地名からも、そのリアリティへのこだわりが感じられます
  • 三谷流「昭和」回帰:
    三谷幸喜さんは、令和の若者の台詞や空気が自分には書けない──という迷いを抱えつつ、1980年代ならば自分らしさが活きるのではと考えました。さらにシェイクスピアを現代の視点で読み直し、昭和のテレビドラマの空気感(『淋しいのはお前だけじゃない』『傷だらけの天使』など)を意識しています
  • タイトルの由来:
    シェイクスピア『お気に召すまま』の有名な台詞「全てこの世は舞台、人は皆役者に過ぎぬ」の本歌取りとなっており、登場人物や店の名前もシェイクスピア作品から拝借しています
  • 脚本と撮影のこだわり:
    2022年から脚本執筆開始、2025年の春に撮影開始した時点では後半部分まで仕上がっていました。撮影は、渋谷の現地ロケが難しかったため、千葉県茂原市に昭和の渋谷を再現した巨大オープンセットを建設。設定やキャラクターへの修正を加えながら撮影が進められました

主要キャストと役柄について

  • 久部三成(菅田将暉):
    主人公であり、劇場WSの舞台監督。萩原健一や西田敏行ら昭和ドラマのスターをモデルとしてキャラクターがブレンドされています。
  • 倖田リカ(二階堂ふみ):
    ステージの中心となる若手女性、桃井かおりやいしだあゆみをイメージした、強さと柔らかさが同居する人物。
  • 蓬莱省吾(神木隆之介):
    劇場スタッフとして周囲を支える。
  • 樹里(浜辺美波):
    劇場の看板女優で、第4話では声を荒げて「シェイクスピアへの冒涜です…!」と主張する印象的なシーンが話題に。
  • オーナー(シルビア・グラブ):
    岸田今日子らをイメージした劇場の女主人。
  • タブロイド紙記者(宮澤エマ):
    第5話にゲスト出演。80年代を象徴する報道の立場から、物語に新たな視点をもたらします

あらすじと話題のシーン(第4話、第5話)

第4話(10月22日放送)では、WS劇場の「夏の夜の夢」初日公演を控え、若者たちが熱気と緊張のなか準備を進めます。久部三成は「もちろんうまくいく」と自信をみせる一方、樹里(浜辺美波)は「シェイクスピアへの冒涜」と叫び、舞台芸術を巡る葛藤や若者たちの純粋な情熱がリアルに描かれました
第5話(10月29日予定)では、宮澤エマさん演じる80年代タブロイド紙記者が物語をかき回し、久部たちの舞台裏が世間の注目を集めはじめます。この回は、物語の世界と報道・現実との交錯を描く重要なエピソードとなることでしょう

「もしがく」の視聴率苦戦、その背景と課題

  • 同時間帯の日テレドラマに「全敗」:
    フジテレビ水10枠は過去の三谷幸喜作品でも屈指の人気を誇りましたが、今作は日テレドラマに視聴率で苦戦しており、いわゆる“全敗”状態が続いています。この原因には大きく二つが考えられます
  • 登場人物が多すぎて視聴者がついていけない:
    実際の渋谷の人間模様や劇場の空気を再現しようとした結果、主要人物が非常に多くなり、やや散漫な印象になっているとの指摘があります。三谷さん自身も『ムーミン谷のようだ』と例えており、独特のファンタジー感と現実感が混ざり合っています
  • 過去との違い
    同じ三谷脚本でも、『合い鍵』『古畑任三郎』『総理と呼ばないで』などが社会現象となったのに対し、今作は“昭和回帰”のノスタルジーが強すぎて若い視聴者の共感を得られていないという側面もあります。また、シェイクスピア要素が難解だという声も一部にあり、“超豪華キャスト”だけでは十分な支持を獲得できていません
  • V字回復なるか?:
    三谷幸喜さんならではの群像劇と遊び心、昭和文化への愛着がどれだけ現代の視聴者層に響くのか、今後の巻き返しが注目されます

シェイクスピア要素とドラマの独自性

このドラマの大きな魅力は「全員が人生の役者であり、その裏に必ず楽屋(本音や秘密)がある」という哲学的テーマです。タイトルにも表れているように、表舞台と裏舞台、青春の輝きと心の孤独、その両面を丁寧に描く三谷幸喜流のメタドラマとなっています。シェイクスピアの戯曲世界を、日本の昭和の劇場文化と合体させる挑戦は、コンセプト面で高く評価されています

撮影現場の工夫と俳優陣の熱演

  • 昭和渋谷の完全再現:
    オープンセットの徹底再現により、俳優陣が当時の空気を身体で感じながら演技を行えたと三谷幸喜さんも自ら語っています。背景美術や小道具、衣装の細部まで、「1984年」のリアリティが追求されています
  • 菅田将暉・浜辺美波らの演技への評価:
    菅田将暉さんは“熱血昭和男子”としての久部三成を緻密かつエネルギッシュに演じ、浜辺美波さんはシェイクスピア愛を主張する鋭い役柄で新境地を切り拓いています。登場人物は昭和スターたちを下敷きにしつつ、現代的な葛藤や人間関係も織り込まれています

話題のシーン・今後の見どころ

  • 「夏の夜の夢」初日・劇場WSの舞台裏:
    第4話では劇場スタッフや役者たちが舞台公演の直前で奔走する緊迫感、若者たちの成長や夢の揺れが繊細に描写されました。樹里(浜辺美波)の「冒涜」発言はSNSでも話題となり、芸術と日常、理想と現実の狭間が強調されています。
  • 宮澤エマがタブロイド紙記者役で登場:
    次回第5話では、外部からの好奇の目が劇場WSに差し込むことで、物語自体の“楽屋”が社会的に露わにされ、劇場人たちの秘めた想いや悩みがさらけだされていく新展開が期待されています

今なぜ「舞台裏」を描くのか——三谷幸喜の挑戦

本作は「人は皆、表と裏がある」「人生は舞台、必ず楽屋がある」というシェイクスピア哲学を、三谷幸喜流に昭和・日本という文脈で再解釈した挑戦作です。大人になりきれない若者と、見守る大人たち、失われた昭和文化への憧れと現代の孤独が、生き生きと交錯します。
豪華キャストや美術セットだけではなく、「楽屋」という人生の裏側そのものを可視化することで、視聴者自身への問いかけも生まれています。視聴率苦戦は続いていますが、その斬新さ、時代と世代への問いかけが今後どこまで評価されるのか——日本ドラマの新たな一歩となるかもしれません。

まとめ

『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』は、三谷幸喜さんの半自伝的な想いと、昭和・現代・シェイクスピアという三重のレイヤーが織りなす群像劇です。登場人物の多さや複雑な人間模様が評価される一方で、視聴者が置いてけぼりになりがちとの課題も指摘されています。名優たちの競演とともに、苦戦を乗り越えた新たな「V字回復」へ、今後の展開が注目されます。1984年渋谷八分坂、その“楽屋”で繰り広げられる人間模様を、ぜひ温かい目で見守っていきましょう。

参考元