岩屋外務大臣、国際海洋法裁判所所長を迎え「法の支配」の重要性を強調

2025年10月20日、岩屋毅外務大臣は外務省において、来日中のトマス・ヘイダー国際海洋法裁判所(ITLOS)所長による表敬訪問を受けました。この会談は約25分間にわたって行われ、海洋における「法の支配」の重要性や国際協力について意見が交わされました。

外務大臣として最後の海外要人との面会

この表敬訪問は、岩屋外務大臣にとって特別な意味を持つものとなりました。岩屋大臣自身が公式ブログで明らかにしたところによると、ヘイダー所長は外務大臣として迎える最後の海外要人となりました。外務大臣としての任期を締めくくる重要な機会に、海洋法という日本が重視する分野の第一人者との会談が実現したことは、象徴的な出来事と言えるでしょう。

国際海洋法裁判所(ITLOS)とは

国際海洋法裁判所は、国連海洋法条約(UNCLOS)に基づいて設立された国際司法機関です。海洋に関する紛争の解決や、海洋法に関する問題について助言的意見を提供する役割を担っています。今回の会談には、ITLOSから堀之内秀久裁判官も同席しており、日本が同裁判所において重要な役割を果たしていることが示されました。

会談の主な内容

日本の「法の支配」重視姿勢を表明

会談の冒頭で、岩屋大臣はヘイダー所長を日本に迎えることができた喜びを伝えました。そして、日本は一貫して海における「法の支配」を重視しているという日本政府の基本姿勢を明確に述べました。

この「法の支配」という概念は、国際関係において力による一方的な現状変更ではなく、確立された国際法や国際的なルールに基づいて問題を解決するという原則を意味します。特に海洋分野において、この原則は極めて重要な意味を持っています。

新たな課題への対応を強調

岩屋大臣は、海洋分野で新しい課題に直面している現状について言及しました。気候変動による海面上昇、海洋プラスチック問題、海洋資源をめぐる競争、領海や排他的経済水域に関する紛争など、海洋をめぐる課題は多様化し、複雑化しています。

こうした状況下で、国際社会は国連海洋法条約の普遍的かつ統一的な枠組みの中で「法の支配」に基づく海洋秩序の強化に取り組む必要があると岩屋大臣は強調しました。この発言は、個別の国家の利益だけでなく、国際社会全体の共通の枠組みを尊重することの重要性を示しています。

ITLOSへの期待を表明

岩屋大臣は、ヘイダー所長のリーダーシップのもと、ITLOSが海洋秩序の「番人」としての役割を高めていくことを期待すると述べました。この「番人」という表現は、ITLOSが単に紛争を解決するだけでなく、海洋における国際法の適用と解釈を通じて、公正な海洋秩序の維持に中心的な役割を果たすべきだという期待を込めたものです。

ヘイダー所長からの応答

日本への謝意と評価

岩屋大臣の発言に対して、ヘイダー所長からは温かい応答がありました。所長は、これまでの日本のITLOSに対する支持と貢献に対する謝意を示しました。日本は、ITLOSの活動を財政的にも人的にも支援しており、堀之内裁判官の存在はその象徴と言えます。

さらに、ヘイダー所長は法の支配に基づく国際秩序の維持に向けた日本の貢献を高く評価しました。日本は、海洋分野だけでなく、国際社会全体において「法の支配」を推進する立場を取り続けており、その姿勢が国際的に認識されていることが確認されました。

今後の協力継続を表明

ヘイダー所長は、引き続き日本と協力していく意向を表明しました。この発言は、ITLOSと日本との関係が単なる形式的なものではなく、実質的な協力関係として今後も発展していくことを示唆しています。

日本の海洋政策における意義

海洋国家としての立場

日本は四方を海に囲まれた海洋国家であり、海洋の平和と安全は国家の存立に直接関わる重要な問題です。排他的経済水域の面積では世界第6位を誇り、海洋資源や海上交通路の確保は日本の経済と安全保障にとって不可欠です。

このような地理的・戦略的な立場から、日本は海洋における「法の支配」を一貫して重視してきました。今回の会談は、その姿勢を改めて国際社会に示す機会となりました。

地域情勢との関連

東アジア・太平洋地域では、海洋をめぐる様々な課題が存在します。領土や海洋権益をめぐる緊張、海洋資源の開発競争、航行の自由をめぐる問題など、「法の支配」に基づく秩序の維持が求められる状況が続いています。

日本がITLOSとの関係を重視し、国際海洋法に基づく紛争解決の枠組みを支持することは、こうした地域情勢においても重要な意味を持ちます。力による一方的な現状変更ではなく、国際法に基づく平和的な問題解決を推進する姿勢の表明でもあるのです。

今後の展望

ITLOSの役割の重要性

気候変動、海洋環境の保護、深海底資源の開発など、海洋をめぐる新たな課題が次々と生まれています。こうした課題に対応するため、ITLOSの役割はますます重要になっていくと考えられます。

日本は、ITLOSの活動を今後も支援し続ける方針を示しており、岩屋大臣も「我が国は今後とも海洋における『法の支配』を重視し、同裁判所の活動を支えてまいります」と表明しています。

国際協力の推進

海洋の課題は一国だけで解決できるものではありません。国際社会全体が協力し、共通のルールに基づいて対応していく必要があります。今回の会談は、そうした国際協力の重要性を再確認する機会となりました。

日本とITLOSとの協力関係は、単に二者間の関係にとどまらず、国際社会全体における「法の支配」の推進に貢献するものです。ヘイダー所長との会談を通じて、この関係がさらに強化されることが期待されます。

まとめ

2025年10月20日に行われた岩屋外務大臣とヘイダー国際海洋法裁判所所長との会談は、日本の海洋政策における重要な一場面となりました。外務大臣として最後の海外要人との面会となったこの機会に、日本が一貫して重視してきた「法の支配」の原則が改めて確認されました。

海洋をめぐる課題が複雑化し、多様化する中で、国際法に基づく秩序の維持はますます重要になっています。日本とITLOSとの協力関係は、そうした秩序の維持に貢献する重要な要素であり、今後もこの関係が発展していくことが期待されます。

岩屋大臣が述べたように、ITLOSが海洋秩序の「番人」としての役割を高めていくことは、国際社会全体の利益につながります。日本は今後も、海洋における「法の支配」の推進と、ITLOSの活動支援を継続していく方針です。

参考元