シャープと中部電力ミライズが開始した画期的な実証実験
2025年10月20日、シャープエネルギーソリューション株式会社と中部電力ミライズ株式会社は、家庭用蓄電池とエコキュートを協調制御するデマンドレスポンス(DR)の実証実験を開始しました。この取り組みは、再生可能エネルギーの普及拡大に伴う電力需給バランスの調整という、現代のエネルギー問題に対する革新的なアプローチとして注目を集めています。
実証期間は2026年9月30日までの約1年間を予定しており、複数の家庭用機器を組み合わせた効果的なDR制御の実現可能性を検証していきます。
デマンドレスポンス(DR)とは何か
デマンドレスポンスとは、需要家側が電力使用量をコントロールすることで、電力需給バランスを調整する仕組みのことです。電力システムでは、電気の供給量と需要量が一致しないと周波数が乱れ、大規模停電につながる恐れが生じます。供給が多すぎても少なすぎても不都合が生じるため、需給バランスの維持は極めて重要な課題となっています。
特に近年、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの導入が急速に進んでいます。これらの発電方法は天候に左右されるため、電力供給が不安定になりやすく、電力需給バランスが乱れて大規模停電を招くリスクが高まっています。こうした背景から、DRの重要性がますます増しているのです。
これまでの取り組みと今回の実証の位置づけ
シャープエネルギーソリューションは、中部電力ミライズが提供する再生可能エネルギーの利用拡大を目的としたDRサービス「NACHARGE Link(ネイチャージリンク)」において、蓄電池のリアルタイム遠隔制御機能を2023年9月より提供してきました。
今回の実証実験は、その取り組みをさらに発展させたものです。これまでは蓄電池単体での制御でしたが、今回はエコキュートを組み合わせることで、より大きな調整力の創出を目指します。複数の機器を組み合わせた効果的なDR制御の実現に向けた、重要なステップとなっています。
実証実験の具体的な内容
参加者と対象機器
この実証実験に参加できるのは、シャープ製蓄電池システムおよび「COCORO ENERGY」と連携可能なエコキュートの遠隔制御に協力いただけるお客さまです。また、中部電力ミライズが実施するモニター募集にご応募、お申込みいただいた方が対象となります。なお、規定数に達し次第、お申込みは終了となります。
役割分担
実証実験における役割は明確に分担されています。シャープエネルギーソリューションは、中部電力ミライズが策定したDR制御計画に基づく蓄電池およびエコキュートの協調遠隔制御を担当します。一方、中部電力ミライズは、DR制御計画の策定と実証参加者の利便性影響調査を行います。
検証項目
今回の実証実験では、3つの主要な項目を検証します。第一に、蓄電池とエコキュートの協調制御による調整力創出量です。これにより、複数機器を組み合わせることで、どの程度の電力需給調整が可能になるかを明らかにします。
第二に、「COCORO ENERGY」の電力予測を活用した制御計画の策定です。家庭ごとの発電量や消費電力量の予測精度が、効果的な制御計画にどのように貢献するかを検証します。
第三に、電力調達コストの削減効果などの経済性です。実証参加者にとっての経済的メリットを明確化することで、サービスの実用化に向けた重要なデータを収集します。
COCORO ENERGYの役割
今回の実証実験において、シャープのクラウドHEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)サービス「COCORO ENERGY(ココロエナジー)」が重要な役割を果たします。このシステムは、家庭内のエネルギーを管理・節約するためのサービスで、各家庭の太陽光による発電量や宅内消費電力量を予測する機能を持っています。
実証実験では、COCORO ENERGYが予測した家庭ごとのデータを中部電力ミライズと共有します。この情報をもとに、シャープは蓄電池とエコキュートを組み合わせた中部電力ミライズのDR制御計画策定を支援します。そして、策定したDR制御計画に基づいて対象機器の制御を行い、調整力の創出効果と機器動作を検証していきます。
なぜ蓄電池とエコキュートの組み合わせなのか
蓄電池とエコキュートを組み合わせることには、大きな意義があります。蓄電池は電力を貯蔵し、必要なときに放電することで電力需給の調整に貢献します。一方、エコキュートは主に夜間の電力を使用してお湯を沸かす給湯システムで、その運転タイミングを調整することで電力消費のピークシフトが可能になります。
この2つの機器を協調制御することで、より柔軟で効果的な電力需給調整が実現できます。例えば、太陽光発電による電力供給が過剰な時間帯には蓄電池に充電しつつエコキュートを稼働させ、逆に電力不足の時間帯には蓄電池から放電するといった、きめ細かな制御が可能になります。
再生可能エネルギー普及への貢献
再生可能エネルギーの一層の普及拡大に向けて、市場では電力需給バランスの調整量のさらなる向上が求められています。太陽光や風力といった再エネは、発電量が天候に左右されるため、従来の火力発電などと比べて供給が不安定になりやすいという課題があります。
今回の実証実験は、この課題に対する実践的な解決策を探るものです。家庭に設置された蓄電池とエコキュートを効果的に制御することで、電力系統全体の安定化に貢献できる可能性を検証します。これは、日本のエネルギー政策における重要な一歩となるでしょう。
実用化に向けた展望
シャープエネルギーソリューションは、本実証を通じて得られた知見をもとに、蓄電池とエコキュートを組み合わせた効率的なDR制御の早期実用化に貢献していくとしています。中部電力ミライズも、蓄電池とエコキュートを組み合わせた制御結果をもとに、最適なDR計画の立案・発動依頼方法、お客さまの経済的効果とサービス受容度を検証していきます。
実証実験で収集されるデータは、今後のサービス設計において極めて重要です。参加者の利便性への影響、経済的メリット、システムの安定性など、多角的な観点から評価が行われます。これらの結果は、全国的なサービス展開に向けた貴重な基礎データとなるでしょう。
エネルギーシステムの未来像
今回の実証実験は、単なる技術検証にとどまらず、未来のエネルギーシステムのあり方を示唆しています。各家庭に分散配置された蓄電池やエコキュートなどの機器を、クラウドサービスを通じて統合的に制御することで、電力系統全体の安定化を図るという考え方は、スマートグリッド実現に向けた重要なステップです。
また、この取り組みは需要家にとってもメリットがあります。電力調達コストの削減という経済的利益を享受しながら、社会全体の再生可能エネルギー普及に貢献できるのです。こうしたウィン・ウィンの関係を構築することが、持続可能なエネルギーシステムの実現には不可欠です。
まとめ
シャープエネルギーソリューションと中部電力ミライズによる今回の実証実験は、日本のエネルギー政策において重要な意味を持つ取り組みです。2025年10月20日から2026年9月30日までの約1年間にわたり、蓄電池とエコキュートの協調制御によるデマンドレスポンスの有効性が検証されます。
再生可能エネルギーの普及拡大という社会的要請に応えながら、需要家の経済的メリットも追求するこのアプローチは、持続可能なエネルギー社会の実現に向けた実践的な試みといえるでしょう。実証実験の成果が、今後の全国展開につながることが期待されます。