エレクトロニック・アーツ(EA)への機関投資家による投資活動が活発化
2025年10月、複数の機関投資家がElectronic Arts Inc.(以下、EA)の株式に対する投資を行ったことが明らかになりました。MGO One Seven LLCが約31万7,000ドル、Generali Asset Management SPA SGRがポジションを増加、Curbstone Financial Management Corpが2,520株を購入するなど、投資家のEA株への関心が高まっています。
これらの動きは、2025年9月末に発表されたサウジアラビアの政府系ファンドPIFを中心とするコンソーシアムによる約550億ドル(約8兆2,000億円)規模の買収契約を背景としています。この歴史的な買収劇は、ゲーム業界における大きな転換点となっており、投資家たちの注目を集めています。
史上最大規模のゲーム企業買収
EAは2025年9月29日、サウジアラビアの政府系投資ファンド「Public Investment Fund(PIF)」、米国のテクノロジー投資ファンド「Silver Lake」、そしてジャレッド・クシュナー氏が率いる米国ファンド「Affinity Partners」の3社によるコンソーシアムと正式な買収契約を締結しました。買収総額は約550億ドルで、米国における現金を原資とする買収としては過去最高額となりました。
株式の買い取り額は1株当たり210ドルに設定されており、これは買収に関する初報道の前日である9月25日の終値168.32ドルに対して約25%のプレミアムが上乗せされた価格です。買い取りの原資は全て現金で賄われ、規制当局とEAの株主総会による承認を前提として、買収は2027年度第1四半期に完了する見通しとなっています。
レバレッジド・バイアウト方式を採用
今回の買収では、買収資金のうち約360億ドルはコンソーシアム3社が出資しますが、残りの約200億ドルはデットファイナンス(借入金)で賄う、いわゆるレバレッジド・バイアウト方式が採用されました。PIFは既にEA株式の9.9%を保有しており、それと合わせてコンソーシアムで全株式を保有することを目指しています。
堅調な業績を維持していたEA
注目すべき点は、EAが業績不振に陥っていたわけではないという事実です。2023年度の売上は74億2,600万ドルと、前年度の69億9,100万ドルから増収を達成しています。続く2024年度も売上は75億6,200万ドルと前年比で2%増加し、通期の営業キャッシュフローは過去最高を更新しました。
株価も堅調に推移しており、2023年は年初の123.89ドルから年末には136.81ドルへ約10.4%、2024年も年初の135.61ドルから年末には148.1ドルへと約9.2%上昇していました。競合他社と比較すると、Take-Two Interactiveは2023年に約54.6%、2024年に約15%と大幅な株価上昇を見せた一方、Ubisoftは2023年に約8%、2024年には約45.6%もの下落を記録しています。このような市場環境の中で、EAの業績は安定していたといえます。
ライブサービスモデルへの転換
現在のEAは、ゲーム本体の売上だけでなく、追加コンテンツやサブスクリプションといった、ゲーム体験を継続的に拡張・強化する「ライブサービス」に注力しています。その売上は2025年度の総純収益の実に73%を占めるに至っており、事業の根幹を成しています。
特に「Apex Legends」は、2024年度において全体の約7〜10%に相当する5.5億ドルから7.5億ドルを稼ぎ出したと推定されています。リリースされて6年が経つApex Legendsは、安定した収益を生み出す「キャッシュカウ」タイトルとして機能しています。
買収の背景と今後の展望
EAの筆頭独立取締役を務めるルイス・A・ウビニャス氏は、買収契約について「株主に魅力的な価値を提供し、すべての利害関係者の最善の利益になると結論付けた」とコメントしており、既存株主やEA自身にもメリットがあることから買収に合意したことを明らかにしています。
経営体制は継続
本件取引が完了した後もEAの経営体制に変更はなく、アンドリュー・ウィルソン氏が引き続きCEOとして指揮を執り、カリフォルニア州レッドウッドシティの本社も継続する見通しです。この買収によりEAは株式を非公開化し、短期的な市場の評価に左右されることなく、長期的な視点に立ったゲーム体験開発やコミュニティの構築、そして積極的な投資が加速される見込みです。
PIFの投資戦略とゲーム産業への進出
サウジアラビアのPIFは、近年ゲーム産業への投資を積極的に進めています。PIFの運営方向性は、短期的な利益の追求ではなく、長期的な成長を重視する投資方針を採用していることが過去の事例からも明らかになっています。今回のEA買収においても、同様の方針が採られると予想されています。
この巨額買収は、サウジアラビアの経済多角化戦略「ビジョン2030」の一環として位置づけられており、石油依存からの脱却とエンターテインメント産業への投資強化という国家的な目標と合致しています。
投資家の反応と市場への影響
今回報じられたMGO One Seven LLC、Generali Asset Management SPA SGR、Curbstone Financial Management Corpといった機関投資家の動きは、買収発表後のEA株への継続的な関心を示しています。1株210ドルでの買い取りという確実性の高い投資機会が、これらの投資家を惹きつけている可能性があります。
特にMGO One Seven LLCの約31万7,000ドルという投資額や、Curbstone Financial Management Corpの2,520株の購入は、比較的小規模な機関投資家でもこの買収案件に参加しようとする姿勢を表しています。Generali Asset Management SPA SGRのポジション増加も、既存の保有株に対する信頼と、買収完了による確実なリターンへの期待を示唆しています。
ゲーム業界への波及効果
この歴史的な買収劇は、ゲーム業界全体に大きな影響を与える可能性があります。世界最大手のゲームパブリッシャーの一つが株式非公開化されることで、業界の競争環境や投資トレンドに変化が生じる可能性があります。
EAが保有する「FIFA」シリーズ(現在は「EA SPORTS FC」として展開)、「Battlefield」シリーズ、「The Sims」シリーズ、「Apex Legends」といった主要タイトルは、今後も継続的に開発・運営されることが期待されていますが、株式非公開化により、より長期的な視点での投資やリスクテイクが可能になると考えられています。
まとめ
2025年10月に報じられた複数の機関投資家によるEA株への投資は、9月末に発表された550億ドル規模の歴史的買収を背景としています。堅調な業績を維持していたEAが買収を受け入れた背景には、株式非公開化による長期的な成長戦略の実現という狙いがあります。
PIFを中心とするコンソーシアムによる買収は、サウジアラビアの経済多角化戦略の一環として位置づけられており、ゲーム業界における新たな時代の幕開けを告げるものとなっています。2027年度第1四半期に完了予定のこの買収が、今後のゲーム業界にどのような影響を与えるのか、業界関係者や投資家の注目が集まっています。