時代とともに変わる行政書士の役割――池田玲菜さんと馬目慎一郎さんが導く「思考のアップデート」
はじめに:変化のただなかにある行政書士の仕事
行政書士は、社会の変化や法制度の改正の中で、その役割や位置付けが日々更新されつつあります。行政手続きを円滑に進める専門家である行政書士は、時代の要請に応じて思考や価値観、その行動もまたアップデートが不可欠となっています。
池田玲菜さんが語る「思考のアップデート」
北海道の行政書士・池田玲菜さんは、コラム「行政書士池田玲菜の見た世界」第58回で、古い時代の慣習との決別、そして新しい時代の価値観を受け入れる難しさについて自身の体験を基に語っています。池田さんは、江戸時代の狂歌「白河の清きに魚も棲みかねて もとの濁りの田沼恋しき」に言及し、どんなに社会にとって理想的な変化であっても、人は過去を懐かしみ、変化の渦中で迷うものだと説きます。
ハラスメントやセクハラなどの不適切なコミュニケーションを排除しつつも、まだ新しい時代の会話様式に慣れない、「考え方のアップデート」の難しさが語られます。
池田さん自身、最近の会合で「自分が相談された側だったら、果たして正しく判断し、適切に対処できるだろうか」と不安を覚えた体験を紹介しています。時代が変わった後も、かつての常識が無意識に判断に影響を及ぼすことが、人間の自然な反応であることにも触れています。
- 社会全体でコンプライアンス体制の整備が進み、セクハラやパワハラの相談窓口や対応マニュアルが用意されるようになった
- 一方で、「自分が被害者から相談された立場だったとき」行動できるかどうかという不安が拭えぬ現実
- 慣れ親しんできた過去のパターンが、新たな倫理観によって否定され、思考や行動の更新が求められる葛藤
池田さんは「時代は後戻りできず、懐古主義に浸る暇はない。だからこそ、思考のアップデートを意識的に進める時代になった」とまとめています。これこそが現代の行政書士、ひいては全ての社会人に求められる意識の転換です。
地域社会とともに歩む馬目慎一郎さんの実践
神奈川県の行政書士会海老名・座間支部長を務める馬目慎一郎さんは、市民や事業者を対象に無料相談会を開催しています。「行政書士は誰よりも親身に、地域のみなさんの声に耳を傾け、課題を共に解決する存在でありたい」という思いで、日々活動を続けています。
海老名・座間・綾瀬地域では、生活の悩みや小さな疑問を気軽に相談できる窓口として、行政書士会の無料相談会が根づいてきました。この相談会では、相続、遺言、建設業や飲食店の各種許認可、外国人の在留資格、助成金の手続き、会社設立、各種契約書作成など、多岐に渡る課題解決が行われています。
- 市民の立場からすると「何をどう相談すればいいかわからない」ことも多いが、馬目さんらは丁寧なヒアリングと説明でサポート
- 相談をきっかけに、地域のネットワーク作りや、新たな社会的課題の可視化につながることもある
- 行政書士会では、時代の変化に合わせて相談内容や支援分野も広がってきている
馬目支部長自身も、「法律や制度は頻繁に変わる。知識や考え方は常に新しく保たなければ、真に役立つアドバイザーとはいえなくなる」と話します。池田さんの指摘と響き合う「思考のアップデート」がここにも体現されています。
行政書士はなぜ「思考のアップデート」が必要なのか?
行政書士の現場では、昔からの慣習や慣れた手順に従い続けていると、時代の要請から取り残される危険があります。社会は多様化し、法律や手続きも複雑化している今、行政書士が柔軟な発想を持ち、常に最新知識を取り入れる姿勢がこれまで以上に重要です。
例えば、
- 男女雇用機会均等法やハラスメント防止法制の強化により、企業のコンプライアンス対応支援が新たな業務分野として拡大
- 外国人在留資格の大幅改正やデジタル化の推進に伴い、新しい分野の手続き支援が求められる
- 高齢化社会の到来とともに、相続や遺言作成ニーズが急増
これらの変化に対応できるかどうかが、「地域と社会から信頼される行政書士」か否かの分かれ道となります。
地域の未来を支える――相談会の実践と広がる連携の輪
馬目さんが中心となる無料相談会は、「街をより暮らしやすくする」仕組みの一部として、多様な関係機関や団体、地域ボランティアとも連携しながら運営されています。
例えば、就労支援や福祉サービスと行政書士の連携で、生活困窮者の自立支援や外国人住民の生活相談など、従来は行政書士の守備範囲外と思われていた領域にも活動が広がっています。同時に、相談者一人ひとりの「困った」に寄り添いながら、職場や家庭、地域の現場で生じる新しい課題にも向き合い続けているのです。
- 複数の相談機関と連携し、業務の分担や相談体制の拡充を図る
- 行政だけでなく、民間企業やNPO、ボランティア団体とも協働し、地域の福祉や活力向上に貢献
- 相談会で蓄積された事例や市民の声を分析し、今後の制度設計や自治体行政にもフィードバック
それぞれの現場で――行政書士の「アップデート」実践例
- 新しい業務領域の開拓: 外国人支援、デジタル手続き、コンプライアンス研修講師など、社会のニーズに合わせて活動内容を柔軟に広げている行政書士が増えています。
- 各種勉強会や研修の活性化: 知識や手続きのアップデートに向けて、行政書士会や有志グループが主催する実践型研修・ワークショップが定期的に実施されています。
- 相談者とのコミュニケーションの工夫: 丁寧な聞き取りや平易な説明を重視し、「法律は難しい」と感じている市民にも安心して利用してもらえる窓口となる努力が続けられています。
おわりに――変わりゆく時代を生きる行政書士たちへ
行政書士は、法務だけでなく広範な地域課題に寄り添う時代の担い手として新たな道を歩み始めています。
池田玲菜さんの「時代は変化し、後戻りできない。懐古主義に浸らず、思考をアップデートするしかない」という言葉、そして馬目慎一郎さんによる現場での地道な相談活動。それぞれが、現代社会で行政書士が果たすべき役割のヒントを与えてくれます。
社会の構造が目まぐるしく変わる今、行政書士はときに制度の最前線で、ときに地域課題の解決現場で、「アップデートされた思考」とアクションで時代の要請に応えています。これからの行政書士は、「頼れる専門家」としてだけではなく、「共感し、伴走する社会のパートナー」として、ますます多様な場面で活躍が期待されているのです。