麗澤大学で開催「精神障害を抱える人の視点から考えるインクルーシブな防災」――誰も取り残さない、新しい共生社会へ
はじめに――変化する防災の価値観とインクルーシブな視点
近年、災害対応の現場では「誰も取り残さない防災」が大きく注目されるようになっています。その中でも、精神障害を抱える人々の視点を深く理解し、社会全体で支え合う仕組みづくりが重要なテーマとなっています。
2025年11月6日、千葉県柏市にある麗澤大学で「精神障害を抱える人の視点から考えるインクルーシブな防災」をテーマにした防災イベントが開催されました。本記事では、このイベントの内容や背景、登壇者の思い、そして現場で語られた「インクルーシブな防災」の実際について、できる限りわかりやすくご紹介します。
開催の背景――災害時に現れる精神障害者の課題
- 災害時、精神障害を持つ人たちは避難所での人間関係や音・光・環境の変化、心理的なストレス、支援の途切れなど、独特の困難や課題に直面します。
- 従来の防災対策は身体障害や高齢者への配慮が中心でしたが、精神障害に焦点を当てた取り組みはまだ充分に発展していません。
- 日本国内でも、東日本大震災や熊本地震など、精神障害のある人の避難の様子や困難が明らかになってきたことで、支援のあり方が見直されています。
イベント概要――「現場の声」から始まる防災の再定義
- 日時:2025年11月6日(木) 15:00~16:30
- 会場:麗澤大学校舎「さつき」iArena(千葉県柏市光ヶ丘2-1-1)
- 主催:麗澤大学自主企画ゼミナール「障害とコミュニケーション」(担当教員:国際学部 合﨑京子 准教授)
- 協力:一般社団法人精神障害当事者会ポルケ、千葉県白井市障害福祉課
- 対象:関心のある方なら誰でも参加可能
登壇者紹介――「当事者・支援者の視点」がイベントの柱
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山田 悠平 氏(一般社団法人精神障害当事者会ポルケ 代表理事)
統合失調症の当事者として自身の入院経験をもとに当事者活動を開始し、現在は「精神障害×防災」の当事者主導型研究に取り組んでいます。 -
相良 真央 氏(一般社団法人精神障害当事者会ポルケ 理事)
拒食症、発達障害、線維筋痛症などの経験を持ち、熊本地震時は被災者支援や居場所の運営などを担当。現在は当事者活動の中心として活躍中。 -
鈴木 高宏 氏(麗澤大学 工学部 教授)
工学的な観点から防災・共生社会のあり方を発信。 -
鈴木 一基 氏(有限会社Nikko レ・アーリ相談支援事業所)
地域福祉の現場で長年経験をもち、実践的な支援の知見を共有。 - 麗澤大学 学生代表ほか、実際の当事者・学生もクロストークに参加。
イベント内容――災害時の「現場の声」と包摂の工夫
イベントでは、実際の災害を経験した精神障害当事者へのインタビュー調査の報告が行われました。東日本大震災や熊本地震で浮き彫りとなった避難の難しさ、支援の途切れなどの課題が語られました。
- 避難所での苦労:大勢が集まる避難所での騒音やプライバシーの欠如、説明不足などが精神的な負担となる。
- 支援体制の脆弱性:精神障害を抱える人は福祉サービスが途切れるだけでなく、支援自体に気づきにくい状況に陥る。
- 地域の工夫:安心して過ごせる居場所づくりや、情報伝達の工夫など、地域が一体となってインクルーシブな防災を目指す重要性。
また、啓発のために映像資料の上映や、各分野の登壇者によるクロストークが実施され、それぞれの立場・経験からの提案がありました。
- 避難所運営者が抱える「配慮の難しさ」と連携の重要性
- 精神障害者の家族や地域住民が感じる「共有できる不安・支援への戸惑い」
- 行政や社会福祉機関からの具体的な提案――情報のわかりやすさ、事前のネットワークづくり、地域で受け止める体制の強化
麗澤大学の防災教育・インクルーシブ社会への挑戦
麗澤大学は、昭和10年の創立以来「知徳一体」の教育理念のもと、心豊かな人間力を育むことを目指しています。地域との連携や自主企画ゼミナールを通じて、学生が主体的に学び、社会の多様な困難に向き合う場として本校が中心的役割を果たしています。
- 自主企画ゼミナール「障害とコミュニケーション」:学生自身がテーマを選び、実地研修やヒアリングを通して防災や福祉分野での新たな知見を獲得。
- 防災教育だけでなく、地域共生社会づくりを意識した包括的なアプローチが進められている。
「誰も取り残さない防災」――これからの展望と希望
災害は、誰もが直面しうる社会の課題ですが、精神障害を抱える人たちの声を取り入れることで、より多様で柔軟な支援体制が可能になることが、このイベントでは繰り返し強調されました。
- 参加者からは「知識だけでなく、実際の体験や声を聞けたことで、支援や配慮の現実がよくわかった」「自分たちにできることを地域で考えなおしたい」などの意見が寄せられました。
- 改めて、「災害は誰の身にも起こりうるもの。その時に、誰も取り残さないために何ができるか」、社会全体で考え続けていくことの必要性が認識されました。
まとめ――共生社会への一歩を麗澤大学から
今回の麗澤大学防災イベントは、精神障害を抱える方々の視点から災害時の課題を見つめ直し、包摂的=インクルーシブな防災のあり方を社会に提案する重要な機会となりました。
発信した声が地域や社会に広がることで、誰も取り残さない社会づくりの実践が進んでいきます。今後も麗澤大学が中心となり、こうした動きを教育・地域連携の両面から支えていくことが期待されます。
防災対策は単なる「災害への備え」にとどまらず、人の命と尊厳を守る社会的な知恵であり、その先頭に立つ両者の一歩を、私たちも共に見つめていきたいですね。