楽天グループが発行する円建て永久劣後債とは?その特徴と市場の動向
はじめに
楽天グループ株式会社が2025年10月、新たに「利払繰延条項・任意償還条項付無担保永久社債(清算型倒産手続時劣後特約付)」の発行条件を決定しました。これは一般に「永久劣後債」と呼ばれる債券であり、企業の資本政策や金融戦略の観点から近年大きな注目を集めています。本記事では、楽天グループが発行した永久劣後債の仕組み、発行条件、市場の反応などを分かりやすく解説します。
永久劣後債の概要
- 永久劣後債とは、企業が発行する社債の一種で、償還期限が定められていないことが特徴です。つまり、債券には満期がなく、発行体である企業が倒産や清算に至った場合の元利金の支払順位が一般の債務よりも低い、いわゆる「劣後」する債券です。
- 楽天の今回の債券は、さらに「利払繰延条項」と「任意償還条項」が付加されており、債券の利息支払いを楽天グループ側の裁量で延期できる機能や、発行者が決められた時点から任意に償還(返済)できる機能が含まれています。
発行条件の詳細
- 発行額は820億円と、巨大な規模での発行となりました。
- 利率は2025年〜2030年10月23日まで年4.691%で、これは2025年の国内社債の中で 最高利率 となっています(大手企業による社債発行としては非常に高い水準)。
- 2030年以降は、1年国債金利に3.75%(2045年以降は4.5%)を加算した利率となります。
- 償還期限の定めはなく、初回任意償還日は2030年10月23日と設定されています。この日以降は各利払日に楽天側の判断で全額償還することが可能です(一部のみの償還は不可)。
- 利払日は毎年4月23日と10月23日、払い込み期日は2025年10月23日です。
- 利払の任意停止も認められており、楽天の裁量により利息の支払いを延期することができます。
この債券の資本性認定について
- 本永久劣後債は、信用格付機関(R&I、日本格付研究所、S&P)から「50%の資本性認定」を受ける商品設計となっています。これは、負債と資本の中間的な性質を持つ「ハイブリッド債」として評価され、企業の財務健全性の向上につながります。
- 発行によって得た資金は、2021年に発行した米ドル建ノンコール5年永久劣後特約付社債(750百万米ドル)のリプレイスメント(借り換え)に充てる予定です。これによってキャッシュフローの安定化などの財務効果が期待されます。
実際の投資家需要と市場反応
- 楽天グループの円建て永久劣後債は、国内外の投資家から高い関心を集めており、総需要の約3割を海外勢が占めたと報じられています。日本国内では年金、金融機関、機関投資家などが中心ですが、グローバルな資本市場でも注目されています。
- 高利率とハイブリッド債としての性格から、リスクとリターンのバランスを重視する投資家にとって魅力的な選択肢となっています。
永久劣後債のメリットとリスク
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メリット
- 株式のように資本として認定されるため、企業の財務体質強化に資する。
- 利率が通常の社債より高く、投資家には高収益が期待できる。
- 任意償還条項により、企業側の資本戦略に柔軟性を持たせることができる。
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リスク
- 倒産時や清算時には、普通社債よりも弁済順位が低く、元本・利息が支払われない可能性が高い。
- 償還期限がないため投資元本の返済時期が確定しない。
- 利払繰延条項の行使により、利息の受け取りが遅れる場合がある。
- 再投資リスクや流動性リスクも考慮する必要がある。
楽天グループの資金調達戦略との関係
楽天グループは過去にも複数回の永久劣後債を国内外で発行してきました。今回の円建て永久劣後債は、既発行ドル建て債のリプレイスメントを主目的とし、企業存続のための安定的な資本調達・財務基盤強化を目指しています。
日本企業による永久劣後債の発行は、資本市場のグローバル化や財務健全性への意識向上を背景に、今後も拡大が見込まれています。楽天グループの本件は、その象徴的事例として、投資家や企業関係者、金融業界から大きな注目を浴びています。
まとめ
- 楽天グループが発行した円建て永久劣後債は、無期限・高利率・劣後特約・資本性認定など、多くの特徴が複合した金融商品です。
- 国内外の幅広い投資家から支持を集め、日本の資本市場の進化を象徴しています。
- 投資家は債券のリスクや資本性を十分に理解し、自身のリスク許容度と投資戦略に照らし合わせて検討することが重要です。