ステーブルコインが日本でいよいよ本格始動
2025年秋、日本の金融市場に大きな変化が訪れようとしています。「ステーブルコイン」と呼ばれる新しい電子決済手段が、いよいよ国内で本格的に導入される見込みとなりました。ステーブルコインという言葉を初めて聞く方も多いかもしれませんが、この新しい決済手段は、私たちの日常生活やビジネスシーンに大きな影響を与える可能性を秘めています。
「ステーブル」とは英語で「安定した」という意味を持ち、その名の通り、法定通貨などの資産を担保として、価値を安定させるように設計された電子決済手段です。ビットコインなどの暗号資産とは異なり、価格の乱高下が少なく、実用的な決済手段として世界中で注目を集めています。
日本初の円建てステーブルコイン「JPYC」の登場
2025年8月18日、JPYC株式会社は資金決済法に基づく「資金移動業者」として金融庁に正式登録されました。登録番号は関東財務局長第00099号で、これにより同社は国内で初めて、日本円と1:1で連動する電子決済手段(ステーブルコイン)を発行できる資金移動業者となったのです。
JPYCの最大の特徴は、日本円との完全な価値連動性にあります。1JPYC=1円で交換でき、その価値は日本円の預貯金および国債によって保全されています。つまり、JPYCを保有していれば、いつでも同額の日本円に交換できる安心感があるということです。
2025年秋からの発行開始が計画されており、Ethereumなどのブロックチェーン上で展開される予定となっています。世界のステーブルコイン市場は2025年現在で2,500億ドル(約37兆円)を超える規模に成長しており、米ドル連動のUSDTやUSDCが先行して広く普及していますが、日本でも独自の動きが加速しています。
すでに始まっているUSDCの取引サービス
円建てのステーブルコインに先駆けて、米ドル連動型のステーブルコイン取引もすでに日本で開始されています。2025年3月26日より、SBI VCトレード株式会社は、米ドル連動型ステーブルコイン「USDC」の一般向け取引サービスを開始しました。
これにより、国内で初めて一般顧客が日本円でUSDCの取引を行うことが可能となっています。USDCは高い流動性を持つ現金および現金同等資産によって裏付けられたデジタル資産で、これらの裏付け資産は信頼性の高い金融機関に保管されています。さらに、第三者機関による月次の証明報告が実施されることで、高い透明性が確保されているのが特徴です。
SBI VCトレード株式会社は、米ドルの定期預金を上回る運用収益が期待できるUSDCのレンディングサービスの早期提供開始も目指しており、USDCの普及を通じて、デジタル経済の発展に対応した効率的でコストパフォーマンスに優れた電子決済手段の拡大が期待されています。
法整備が進む日本のステーブルコイン市場
日本でステーブルコインの発行・流通が可能になった背景には、2023年6月の改正資金決済法施行があります。この法改正により、法定通貨を裏付けとする「法定通貨担保型」のステーブルコインの発行・流通が可能となりました。
ステーブルコインはブロックチェーンを用いて発行されますが、暗号資産(仮想通貨)ではなく、新たに「電子決済手段」として定義されています。電子決済手段とは、通貨建資産が電子的に記録・移転され、不特定多数との売買や支払いに使える仕組みを指します。
暗号資産(仮想通貨)とは異なり、価格が法定通貨と連動し、電子マネーのように特定のシステム内に限定されることもありません。この明確な法的位置づけにより、企業や個人が安心してステーブルコインを利用できる環境が整いつつあるのです。
ステーブルコインの実用的なメリット
ステーブルコインには、従来の決済手段と比較して、いくつかの大きなメリットがあります。
即時決済と低コスト
ブロックチェーン技術を活用することで、24時間365日いつでも即時決済が可能となります。銀行の営業時間や休日を気にする必要がなく、国内外を問わず迅速な資金移動が実現できます。また、従来の銀行送金と比較して手数料が大幅に抑えられるため、特に少額決済や頻繁な取引において大きなコスト削減効果が期待できます。
企業間決済の効率化
企業間の支払いや送金においても、ステーブルコインは大きな威力を発揮します。従来の銀行振込では、営業時間内に手続きを行う必要があり、場合によっては着金まで数日かかることもありました。しかし、ステーブルコインを利用すれば、時間を問わず即座に決済が完了し、キャッシュフローの改善につながります。
国際送金の簡素化
国際送金においても、ステーブルコインは従来の方法と比べて圧倒的に便利です。複数の金融機関を経由する必要がなく、高額な手数料や長い処理時間といった問題を解決できる可能性があります。特にグローバルにビジネスを展開する企業にとっては、大きなメリットとなるでしょう。
企業の動きと今後の展開
ステーブルコインの実用化に向けて、すでに複数の企業が連携を発表しています。アステリア株式会社や北国銀行などがJPYCとの連携を表明しており、今後さらに利用範囲が拡大していくことが期待されています。
JPYCの特徴として注目されているのが、加盟店という概念がないという点です。従来の電子マネーやクレジットカードでは、加盟店契約が必要で、審査段階での制限を受けることがありました。しかし、JPYCではそうした制約がなく、経済活動の自由や表現の自由を守る上で重要な意味を持つとされています。
地域経済活性化への貢献も期待
ステーブルコインは、地域経済の活性化にも役立つ可能性を秘めています。地域通貨としての活用や、地域内での経済循環を促進するツールとして、自治体や地域企業からも注目を集めています。デジタル技術を活用した新しい形の地域振興策として、今後の展開が期待されます。
安全性と透明性の確保
ステーブルコインの普及において重要なのが、安全性と透明性です。JPYCは日本円の預貯金および国債によって価値が保全されており、法的な裏付けも明確です。また、USDCのように第三者機関による定期的な監査を受けることで、利用者の信頼を確保する取り組みが進められています。
金融庁への登録や資金移動業者としての規制を受けることで、利用者保護の仕組みも整備されています。こうした法的・制度的な基盤があることで、企業や個人が安心してステーブルコインを利用できる環境が構築されつつあるのです。
世界で広がるステーブルコインの波
日本でのステーブルコイン導入は、世界的な潮流の一部でもあります。米ドル連動のUSDTやUSDCはすでに世界中で広く利用されており、決済手段として定着しつつあります。各国でも独自のステーブルコイン発行に向けた動きが活発化しており、デジタル決済のグローバルスタンダードとなる可能性が高まっています。
日本においても、2025年秋のJPYC発行開始を皮切りに、ステーブルコインがより身近な存在となっていくことが予想されます。企業間決済、個人間送金、国際送金など、様々な場面でステーブルコインが活用され、私たちの経済活動に新たな選択肢を提供してくれることでしょう。
まとめ
2025年は、日本のステーブルコイン元年と言えるかもしれません。法整備が進み、実際にサービスが開始され、今後さらなる普及が見込まれる重要な転換点を迎えています。従来の金融システムとデジタル技術が融合した新しい決済手段として、ステーブルコインは私たちの生活やビジネスに大きな変革をもたらす可能性を秘めています。
安定した価値、即時決済、低コスト、高い透明性といった特徴を持つステーブルコインは、デジタル経済の発展を支える重要なインフラとなることが期待されています。今後の展開から目が離せません。