デフリンピック100周年記念――東京2025大会が開く新たな「つながり」

デフリンピックとは――きこえない人のためのもう一つのオリンピック

デフリンピックは、「耳がきこえない」「きこえにくい」など、聴覚障害のあるアスリートのための国際総合スポーツ大会です。「デフ(Deaf)」は英語で「聞こえない」という意味で、「オリンピック」に並ぶスケールと意義をもちます。1924年にパリで第1回大会が開催され、2025年の東京大会で100周年を迎えます。日本では初めての開催となり、スポーツ界にとって歴史的な瞬間となります。

デフリンピックでは、補聴器や人工内耳などを外して、全員が公平に「聞こえない状態」になり、視覚的な情報で競技が進みます。スターターピストルの代わりにランプや旗を使うなど、ユニークなルールが最大の特長です。

  • 4年に1度開催(夏季デフリンピック/冬季デフリンピックで2年ごとに交互)
  • 国際ろう者スポーツ委員会(ICSD)が主催
  • 耳が一番小さい音(55dB)でも聞こえないレベルの聴力が基準
  • 参加は各国のろう者スポーツ協会による推薦・登録制

東京2025デフリンピック――世界が注目する日本初開催

東京2025デフリンピックは、2025年11月15日から11月26日まで開催されます。約70~80か国・地域およそ6,000人の選手や役員、スタッフたちが一堂に会します。21競技が行われ、東京体育館、駒沢オリンピック公園、日本サイクルスポーツセンター(静岡県)、Jヴィレッジ(福島県)などが主な会場となります。

  • 正式名称:第25回夏季デフリンピック競技大会 東京2025
  • 主な競技:陸上、バドミントン、サッカー、バスケットボール、水泳、卓球、柔道、レスリングなど

この大会は多様性と共生社会を推進する象徴と位置付けられています。エンブレムは「手」と「花びら」をモチーフにし、つながり・交流・未来への希望を表現しています。

コミュニケーションの「壁」を超えるデフリンピックの取り組み

デフリンピック開催が注目される最大の理由は、コミュニケーションの壁の越え方にあります。日常生活やスポーツの現場で、聴覚障害のある人とない人の間にはしばしば「聞こえにくさ」「意思疎通の難しさ」という壁が存在します。この課題にデフリンピックは大会運営そのものを通じて挑みます。

  • 競技中の合図や情報伝達は、スタートランプ、フラッグ、国際手話など「視覚的手段」を最大活用
  • コミュニケーション支援スタッフの配置や会話の可視化
  • 一般観客への理解促進や体験コーナーを設置
  • 「みんなで応援できるスタジアム」を目指し、以外の表現で会場が一体になる演出・工夫

推進にあたっては、「聞こえる・聞こえない」の境界そのものを尊重し合い、誰もが楽しめるスポーツ文化の可能性が伝えられています。この動きは共生社会にも直結し、多様な個性を理解し合う社会づくりへのモデルケースとなっています。

地域に広がる応援――静岡・阿部選手、茨城県聴覚障害者協会のPR活動

各地で「地域代表」の活躍への期待も高まります。たとえば静岡県磐田市の阿部選手は、デフ東京大会への抱負を語るため、磐田市長を表敬訪問しました。地元からの応援を力に変え、サッカー女子日本代表の一員として大舞台へ挑みます。

また、茨城県聴覚障害者協会は、地元ゆかりの選手たちが全国・世界に羽ばたく姿をより多くの人に知ってもらおうと積極的にPR活動を展開しています。「同じ境遇の子どもたちが憧れられるように」「社会の理解が進むきっかけに」と思いを込め、県内での広報イベントや出場選手の紹介をおこなっています。

デフリンピックが社会にもたらすもの——共生と多様性の推進

デフリンピックの目的は、単に勝敗を競うことではなく、「スポーツを通じた共生社会の実現」にあります。歴史的にも、「聞こえない・聞こえにくい」というバックグラウンドを持つ人々が、スポーツを軸に世界とつながること――それ自体が、新しい価値観や社会のあり方を創造する契機となっています。

さらに、日本初開催の意義としては

  • 日本国内外に聴覚障がい者スポーツの存在や価値を発信
  • 教育現場や地域社会で「きこえないこと」をテーマとした学びや交流の広がり
  • バリアフリー・情報保障などインフラ面の発展
  • 「静かで一体感のある応援」など、多様なスポーツ文化の誕生

競技プログラムと参加資格

東京2025デフリンピックで実施される競技は以下の21競技です。

  • 陸上
  • バドミントン
  • バスケットボール
  • ビーチバレーボール
  • ボウリング
  • 自転車(ロード)
  • 自転車(マウンテンバイク)
  • サッカー
  • ゴルフ
  • ハンドボール
  • 柔道
  • 空手
  • オリエンテーリング
  • 射撃
  • 水泳
  • 卓球
  • テコンドー
  • テニス
  • バレーボール
  • レスリング(フリースタイル、グレコローマン)

参加資格は、「補聴器等を外した状態で聴力が55dBより大きい」人、その国のろう者スポーツ協会に登録し出場条件・記録を満たす必要があります。

大会ビジョンとこれから

東京デフリンピックのビジョンは、以下の3つです。

  • 多様性と共生の推進――障害のあるなしに関わらず、互いを認め合い共に生きる社会を体現すること
  • スポーツを通じて学ぶ・感じる場を提供し次世代育成に寄与すること
  • 世界中のデフコミュニティや支援者と日本が強くつながること

競技会場のバリアフリー化や国際手話による案内、デフスポーツの体験イベントなど、観戦以外の楽しみも広がります。大会を支える多くのボランティアや情報保障者、その家族や地域住民らが一体となり、「ともに挑戦し、ともに創るデフリンピック」という新しいモデルが生まれています。

誰もが参加できるスポーツの祭典へ――未来を見据えて

デフリンピックの盛り上がりは、聞こえない・聞こえにくい人たちが主役となる舞台を世界に示し、多くの人々に「違いを認め合うこと」「共に応援する歓び」を伝えています。地域、社会、そしてひとりひとりの意識変革につながるこの大会を通して、日本社会全体が新しい一歩を踏み出すことを期待したいところです。

各地で始まった応援の輪はこれからさらに広がり、デフリンピックをきっかけに社会の「壁」を一つずつ乗り越えていく原動力となるでしょう。

参考元