国内最大規模のグリーン水素製造設備が山梨県で稼働開始

2025年10月12日、山梨県において国内最大規模となるグリーン水素製造設備「やまなしモデルP2Gシステム」が稼働を開始しました。この画期的なプロジェクトは、サントリーホールディングスと山梨県、そして9社の技術参画企業が協力して実現したもので、日本の水素社会実現に向けた大きな一歩として注目を集めています。

やまなしモデルP2Gシステムの概要

今回稼働を開始した「やまなしモデルP2Gシステム」は、16MWという国内最大規模の水素製造能力を持つ設備です。この施設では、年間最大2,200トンものグリーン水素を製造することが可能で、これによりCO2排出削減量は年間約1万6,000トンに達すると見込まれています。

グリーン水素とは、再生可能エネルギーを使って水を電気分解することで製造される水素のことです。製造過程でCO2を排出しないため、環境に優しいクリーンエネルギーとして世界中から注目されています。燃焼時にもCO2を排出せず、質量当たりの熱量は天然ガスの2倍以上という優れた特性を持っています。

水素パイプラインの整備

この施設の特徴的な点として、約2kmにわたる水素パイプラインが敷設されていることが挙げられます。このパイプラインにより、製造された水素を効率的に供給先まで輸送することが可能になりました。水素の「つくる」「はこぶ」「つかう」という一連の流れの中で、特に課題とされていた「はこぶ」という部分を解決する重要な取り組みとなっています。

なぜ山梨県が選ばれたのか

このプロジェクトの立地として山梨県が選ばれた背景には、いくつかの重要な理由があります。

豊富な再生可能エネルギー

山梨県には、未利用の再生可能エネルギー発電の余力が52万キロワット(kW)もあることが大きな要因となりました。この豊富な再エネ電力を活用することで、環境負荷の少ないグリーン水素の製造が実現できるのです。

豊かな水資源

サントリーが管理する「天然水の森 南アルプス」(山梨県北杜市)には、豊富な水資源があります。水素製造には大量の水が必要となるため、この恵まれた水資源が活用できることも山梨県が選ばれた重要な理由の一つです。

地産地消モデルの構築

山梨県は以前からグリーン水素製造に積極的に取り組んできた自治体です。この地域で製造された水素は、既にスーパー耐久レースに参戦している水素カローラにも使用されるなど、実績も積み重ねてきました。今回のプロジェクトでは、内陸地域でのグリーン水素地産地消モデルを新たに構築することを目指しています。

サントリーグリーン水素ビジョン

サントリーホールディングスは2025年6月11日、「サントリーグリーン水素ビジョン」を発表し、水素社会の実現に向けた同グループの中長期計画を明らかにしました。

「水と生きる SUNTORY」の理念

コーポレートメッセージとして「水と生きる SUNTORY」を掲げるサントリーグループにとって、「水から生まれ、水に還る」という特性を持つ水素への取り組みは、まさに企業理念と合致するものです。水素の製造から物流、販売までバリューチェーン全体を担うことで、グリーン水素ならではの価値を創造し、水素社会の実現に貢献していく方針を示しています。

自社拠点での利活用

製造されたグリーン水素は、まずサントリーの自社拠点で利活用が開始されます。具体的には、サントリー南アルプス白州工場とサントリー白州蒸溜所での水素利用が進められます。天然水白州工場では、水素ボイラーを稼働させ、製品の熱殺菌工程に利用する計画となっています。

今後の展開と供給計画

山梨県で製造されたサントリーグリーン水素は、同県内だけでなく東京都の製造業への供給も予定されています。東京都への供給に関しては、「新エネルギーの推進に係る技術開発支援事業」において「水素エネルギー転換のための高圧水素ガス新流通形態・利用拡大実証事業」として既に採択されています。

実証と事業拡大

サントリーホールディングス常務執行役員でサステナビリティ経営推進本部長の藤原正明氏は、まずはP2G(Power to Gas)の実証として、どれくらいの電力からどのくらいの水素が製造できるのか、歩留まりを事実ベースで確認していく方針を示しています。この実証結果を踏まえて、今後の増強の必要性や事業計画が明確になっていくとのことです。

2027年以降の展開

2027年以降は、自社での利活用だけでなく、山梨県内産業への供給・販売まで一気通貫で取り組む計画となっています。これにより、グリーン水素における内陸地域での地産地消モデルを確立し、他地域への展開の可能性も探っていく予定です。

水素がもたらす環境面でのメリット

水素エネルギーには、環境面で多くのメリットがあります。まず、燃焼時にCO2を排出しないことが最大の特徴です。さらに、地球上のあらゆる化合物から調達できる汎用性の高さも持ち合わせています。

また、エネルギーと水さえあれば水素製造システムから生産可能なため、地産地消に適しているという特性もあります。化石燃料と比較してサプライチェーンが短いため、エネルギー安全保障の観点からも有効であり、物流網や利用過程で生じるCO2も削減できるのです。

サントリーグループの取り組みの意義

サントリーホールディングスは、これまでの歴史の中で製品の提供を通じた豊かな生活文化の創造とともに、利益三分主義に基づいた社会・環境活動を行ってきました。今回のグリーン水素事業は、こうした事業活動とサステナビリティ活動のエッセンスをブレンドし、さらなる新しい価値の創造を目指すものとなっています。

藤原氏は「やってみなはれ」という創業者精神のもと、このチャレンジングな取り組みを進めていく姿勢を示しています。国内最大規模の水素製造設備の稼働は、日本における水素社会実現に向けた重要なマイルストーンとなることが期待されています。

日本の水素社会実現への貢献

今回の「やまなしモデルP2Gシステム」の稼働開始は、日本における水素社会実現に向けた大きな前進です。国内最大規模の設備であることから、技術面での実証データの蓄積や、ビジネスモデルの確立において、今後の日本の水素産業全体に大きな影響を与えることが予想されます。

山梨県とサントリー、そして参画企業各社の協力による this地産地消型のグリーン水素製造・供給モデルが成功すれば、他の地域でも同様の取り組みが広がっていく可能性があります。再生可能エネルギーと水資源を活用したクリーンな水素製造は、カーボンニュートラル社会の実現に向けた重要な選択肢の一つとして、今後ますます注目を集めていくでしょう。

参考元