古市憲寿が歩いた「世界遺産ゼロ」の国・ブルネイ――その素顔と静けさを巡る旅

はじめに~ブルネイに心惹かれて

古市憲寿さんが足を運んだ国、ブルネイ。世界遺産が「ゼロ」という現実にちょっとした驚きと興味を抱く人も多いでしょう。東南アジアの豊かさと静けさが同居するこの国で、古市さんが感じたこと、そこから見える日本の地方都市との共通点までを、やさしく丁寧にご紹介します。

ブルネイとはどんな国?

  • 場所:ボルネオ島の北西部、マレーシア領に囲まれた小さな国
  • 人口:約45万人と極めて少人数
  • 経済:石油と天然ガスで潤い、東南アジアで屈指の裕福な国
  • 特色:イスラム教の価値観が社会に深く根付いている
  • 首都:バンダルスリブガワン

ブルネイは「所得税・消費税ゼロ」「医療・教育無償」など、国民への手厚い社会保障で知られています。裕福な一方で規模はとても小さく、日本からは直行便で約6時間とアクセスも良好です。スルターン・オマール・アリ・サイフディーン・モスクなど美しく荘厳な建築物もあり、観光資源は決して乏しくありません

ブルネイに「世界遺産」がない理由

旅の情報誌『地球の歩き方』にも「世界遺産」という文字は見当たりません。その理由は単純明快で、2025年時点でブルネイには一つも世界遺産が登録されていないからです

  • 世界遺産になるには「暫定リスト」への登録が前提
  • ブルネイの暫定リストには現状一件も掲載なし
  • 世界遺産誕生までには、候補地の発見から理由付け、世界遺産委員会による審議など長いプロセスが必要

「世界に誇れる場所はあるはず…」そう思いつつも、登録までの道のりはまだ遠いのが現実です

ブルネイを歩く古市憲寿――彼が見た景色

成田空港からロイヤルブルネイ航空の直行便で、ブルネイの玄関口バンダルスリブガワンに降り立った古市さん。現地で彼が感じたのは、「どこか静かで、人の気配が少ない町」。石油と天然ガスの恩恵で物質的には裕福で文化的にも独自色があれど、観光地化や都市開発からはやや距離を保っている、ごくおだやかな景観だったそうです

  • 町には高層ビルやネオンのきらめきはほとんどなし
  • 地元の人々の生活は素朴で落ち着いている
  • 外国人観光客は少なめで、ゆったりとした雰囲気
  • 建築物や道路は整然としつつも、どこか寂寥感

ブルネイの象徴ともいえるモスクや水上集落カンポン・アイールにも古市さんは足を延ばしました。そこにも、観光名所特有の喧騒ではなく、時間がゆっくり流れるような独特の空気が広がっていたそうです

「山口県宇部市と寂れ具合が似ている」――地方都市の現実と重なるブルネイ

古市さんがブルネイで一番印象的だったのは、「山口県宇部市と寂れ具合が似ている」という点です。これは、ただの揶揄ではなく、都市に共通する「静かな時間」「発展の止まったような佇まい」への共感からくる感想でした

  • 人通りが少なく落ち着いた街並み
  • かつての繁栄の痕跡を残しつつ、今は静寂に包まれている
  • 産業の転換や人口減など、かつての栄華を感じさせると同時に新しさの波が届いていないような空気

ブルネイは都市というより「静謐な暮らし」を守っている場所です。旅人にも住民にもやさしさと慎ましさがにじむこの空気感は、現代日本の地方都市が抱える“課題”ともつながっているともいえます。

ブルネイの魅力――世界遺産がなくても輝くもの

「世界遺産がない」のはマイナスではありません。ブルネイならではの魅力に注目すると、むしろ“素”の魅力がひっそりと輝いています。

  • スルターン・オマール・アリ・サイフディーン・モスク:黄金のドームがまぶしいモスクで、信仰と権威の象徴となっています。美しい公園やラグーンと一体化したその姿は、アジア太平洋でも屈指の建築美といえます。
  • カンポン・アイール:「東洋のベニス」と呼ばれる伝統的な水上集落。木造の家屋が立ち並ぶ姿は独特の風情が漂います。
  • 大自然:マングローブ林や熱帯雨林、豊富な動植物など、自然の息吹を間近に感じることができます。
  • 食文化:マレー料理をベースにした多彩な食卓。庶民的な屋台から高級レストランまで幅広く味わえます。
  • 治安の良さ:外務省も比較的安全な国として紹介。親日の人も多いです。

また、国境近くには世界最大級の洞窟群をもつマレーシアの世界遺産「グヌン・ムル国立公園」もあり、求めれば訪問することもできます

世界遺産に頼らない、静かなる国の存在価値

古市憲寿さんがブルネイで体感した「さびしさ」は、「不足」や「物足りなさ」ではありません。現代都市の喧騒から離れた場所だからこその、豊かな時間。世界遺産や観光名所だけが旅の目的ではなく、今そこにしかない暮らしの空気を五感で感じる旅もまた、現代の贅沢なのかもしれません

日本の地方都市を知る人にこそ、ブルネイの「静かな今」を体験する醍醐味があります。もしかすると、そこで見つけた青空や清流、小さな市場での語らいが、何よりの「宝物」になるかもしれません。

おわりに――「無い」からこそ見えてくるもの

世界にはさまざまな旅の目的地がありますが、「世界遺産ゼロ」のブルネイには、静かに思いを巡らせる時間と空間があります。そこにあるのは、歴史を誇る遺跡でも、観光客が押し寄せる華やかさでもなく、穏やかに息づく人々の日常――そんな「ふつう」のすばらしさです。

そして、古市憲寿さんが感じたように、「日本の故郷の一コマ」に共鳴する場所は、世界中のどこにでもあるのかもしれません。旅の本質を問い直す時間が、ブルネイには静かに流れています。

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