イケア親会社インカ・グループ、米AI物流スタートアップ「ローカス」を買収 ~物流効率化と関税コスト増への対応を強化~

スウェーデンの家具販売大手イケアを展開する親会社、インカ・グループ(Ingka Group、本社オランダ)は、2025年10月上旬、米国のAI活用物流テクノロジー企業「ローカス(Locus)」を買収したと発表しました。この買収は、イケアが直面している「関税コスト増への対応」と「オンライン販売拡大に伴う配送負担増」という二つの大きな課題を、最新技術で解決しようとする戦略的な動きです。

買収の背景と狙い

イケアは従来、郊外の大型店舗で迷路のような回遊型のショールームを特徴とし、来店客に家具を直接購入してもらうビジネスモデルで成長してきました。しかしここ数年、オンライン販売の割合が急速に拡大。2019年度には全体売上の11%だったオンライン販売が、2024年度には28%にまで伸びています。特に新型コロナウイルス感染症の流行以降、自宅で快適に買い物をしたいと考える消費者が増え、都心の小型店舗展開とオンライン販売の強化を両輪で進めてきました。

一方で、米国市場では輸入家具への関税引き上げといった政策的な課題もあり、物流コストの抑制は大きな経営課題となっていました。こうした中で、イケアは「配送のデジタル化と最適化」によるコストダウンと「顧客体験の向上」を実現するため、AIを活用した配送効率化技術を持つローカスの買収に踏み切りました。

ローカス(Locus)の技術とは

ローカスは米国で設立された物流テクノロジー企業で、AI(人工知能)を活用して配送ルートの最適化、配送車両のリアルタイム追跡、配送計画の自動化などを一体的に提供しています。たとえば、多数の注文をAIが自動でグループ化し、配送車両が最も効率的に動けるルートを予測。渋滞を考慮して配送時間を最小化し、ドライバーの負担を軽減しながら、顧客への到着時間を正確に示すことができます。

インカ・グループのチーフ・デジタル・オフィサー、パラグ・パレク氏は、「ローカスの技術導入で、配送のスピードアップだけでなく、より多くの配送時間帯の選択肢や荷物のリアルタイム追跡が可能になる」と語っています。また、これらの配送計画はこれまで従業員が手作業で行っていた部分が多く、AIによる自動化で業務負担を大幅に軽減できると期待されています。

イケアの物流DX(デジタルトランスフォーメーション)戦略

今回の買収は、イケアの親会社であるインカ・グループが進める大規模なデジタル化投資の一環です。すでに同社は、倉庫管理システム(WMS)「Made4net」や家具の組み立て支援サービス「TaskRabbit」など、さまざまなデジタルサービスへの投資を進めてきました。ローカス買収により、サプライチェーン全体——倉庫から配送、顧客の自宅への「ラストワンマイル」まで——の効率化がさらに加速します。

インカ・グループは、これら一連の投資を通じて「世界全体で年間約1億ユーロ(約117億円)の配送コスト削減」を目指しています。米国や英国では早期にパイロット導入を進め、成功を確認したうえでグローバル展開を目指す方針です。

買収の条件と今後の展開

買収に際しては、ローカスの独立性が維持され、イケア以外の顧客とも引き続き取引を続けることが条件となっています。ローカスはこれまで、シンガポール政府系ファンドGICやクアルコム・ベンチャーズなど複数の投資家から資金調達を実施してきましたが、今回の買収はインカ・インベストメンツ(インカ・グループの投資部門)による全株式交換で行われたとされています。買収金額は公表されていませんが、ローカスは直近(2021年)の資金調達で3億ドル(約455億円)の評価を受けていました。

イケアは以前から、「顧客の利便性」と「持続可能なビジネスの両立」を重視してきました。今回の買収によって、配送効率化を通じたコスト削減を実現しつつ、より柔軟で追跡しやすい配送サービスを提供することで、顧客満足度のさらなる向上を目指します。

米国市場での競争環境と今後の展望

米国市場では、ウェイフェア(Wayfair)やウォルマート(Walmart)といった競合企業との競争が激化しています。加えて、トランプ政権時代に導入された木材製品への追加関税は今後も継続する見通しで、輸入コストの増加は避けられません。そんな中、イケアは「物流のデジタル化」と「配送コスト削減」という切り口で競争力を高めようとしています。

今後は、米国や英国でのパイロット導入の成果を踏まえ、世界中のイケア拠点へローカスの技術を展開していく計画です。これにより、イケアのオンライン販売比率はさらに上昇することが予想されます。

まとめ

今回の買収は、イケアの「デジタルトランスフォーメーション」と「顧客中心経営」を象徴する出来事です。AIを活用した配送の自動化・効率化を通じて、関税増によるコスト増を吸収しつつ、より多くの消費者にスピーディで快適な家具購入体験を提供する——。イケアの新しい挑戦は、これからの小売業界の在り方にも大きな影響を与えるかもしれません。

これからもイケアは、従来の「大型郊外型店舗」による体験型販売と、「オンライン+都心型小型店舗」による利便性重視の両立を進めながら、最新テクノロジーを積極的に活用した顧客サービスの進化に全力を注いでいきます。

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