韓米関税交渉が直面する“越えられない壁” ——2025年10月、最新動向と現場の声
2025年10月、韓国とアメリカの間で繰り広げられる関税交渉が大きな節目を迎えています。李在明大統領率いる韓国政府は、「国益最優先」を掲げ、米国側と粘り強く協議を続けていますが、両国の主張の溝はなかなか埋まりません。この問題について、朝鮮日報やハンギョレ新聞などの大手メディアがそれぞれの視点で現状を報じており、国民の関心も非常に高まっています。
大統領室で緊急会議——ラトニック氏との会談結果をどう活かす?
10月5日、韓国大統領室は「韓米関税交渉関連緊急通商懸案対策会議」を開催しました。この会議には、金容範政策室長、魏聖洛国家安保室長をはじめ、具允副首相、趙顕外交部長官、呂漢久通商交渉本部長など、政府の主要メンバーが参加しました。主な議題は、産業通商資源部の金正官(キム・ジョングァン)長官が4日(現地時間)に米国のラトニック商務長官と行った会談の結果報告と、今後の対応策についてでした。金長官によると、両国は「外国為替市場に対する互いの懸念が近づいてきている」との認識を示しましたが、具体的な進展があったわけではありません。
現時点で合意されているのは、米国が韓国に賦課する関税率を25%から15%に下げることと、韓国が3500億ドル規模の対米投資パッケージを実行することです。ただし、この関税引き下げは「条件付き」であり、韓国が産業分野への大規模投資を確実に行うことが前提となっています。自動車や自動車部品など、韓国の輸出産業の中核をなす分野の関税が下がることは、国際競争力の維持にとって重要ですが、その実現にはまだ高いハードルが残っています。
3500億ドルの「前払い投資」要求——韓国政府の苦悩
最大の争点は、米国が要求する「対米投資3500億ドル」が事実上の「前払い」となり、韓国の企業や国民に大きな負担を強いる点です。トランプ米大統領(当時)は強硬姿勢で交渉を進めており、韓国が確約した投資を実際に進めなければ関税の下げ幅は認めないという態度を崩していません。このため、韓国国内では「米国の要求が理不尽では」「国の発展に必要な投資資金を国外に流出させて良いのか」といった声も上がっています。
専門家の間では、「米国はAPEC首脳会議の訪韓日程を短縮することで、韓国側に圧力をかけている」との指摘もあります。交渉が膠着したまま期限(10月末のAPEC)が迫る中、米国側の一方的な要求に対して韓国国内の反発が強まっています。
「韓国は信じるな、だまされるな」——ハンギョレ新聞コラムの厳しいメッセージ
連日、交渉の行方を伝える韓国メディアの中で、ハンギョレ新聞は独自の論調で現状を批判しています。同紙のコラムには「韓国は信じるな、だまされるな」という強い表現が使われており、米国政府や一部の国内政治勢力に対して疑念を投げかけています。
このコラムは、米国との交渉で韓国が一方的に不利な条件を受け入れていないか、国民の目を曇らせるようなメディア報道が増えていないか、と警鐘を鳴らしています。交渉の詳細が国民に十分に伝わっていない現状を指摘し、透明性の確保と国民の声を反映した外交を訴えています。
「私たちが知っていた米国ではない」——朝鮮日報コラムが語る“米国像の変化”
一方、朝鮮日報のコラムは「私たちが知っていた米国ではない」という見出しで、日韓米の経済関係の変化に注目しています。従来、米国は同盟国である韓国をある程度配慮して交渉を進めてきたという認識がありましたが、最近は「自国の利益を最優先し、相手国の事情をあまり考慮しない」姿勢が目立つようになったと指摘しています。
具体的には、トランプ政権以降、米国は「America First(アメリカ・ファースト)」を徹底し、従来の同盟国であっても経済的な負担を強いる傾向が強まっているというのです。この変化に戸惑う韓国国民や経済界の声が日増しに大きくなっています。
朝鮮日報のコラムは、「米国の大国としての風格や寛容さが失われつつあるのではないか」と疑問を呈しつつ、それでも韓国が対等な立場で交渉を進める必要性を強調しています。
なぜ交渉は迷走するのか——経済と安全保障の“狭間”に立つ韓国
韓米関税交渉が難航する背景には、両国の「構造的な対立」があります。米国は技術覇権や産業のサプライチェーン強化を目指し、韓国に半導体、原子力、クリティカルミネラルなどへの大規模投資を求めてきました。しかし、その具体的な投資手法や資金調達のあり方をめぐり、両国の溝は埋まっていません。
たとえば、米国は韓国の企業が米国内に工場や研究所を設立することで現地雇用を創出することを期待しています。一方、韓国企業としては投資のリスクやコストが大きすぎるという現実があります。また、韓国側が株式投資や融資などで資金を拠出した場合、経営権や技術流出のリスクを懸念する声も根強くあります。
さらに、米国は自国の産業保護を理由に、韓国車への関税を引き下げるかどうかを「投資実行の進捗」と連動させる姿勢を強めています。韓国が十分な「前払い」をしない限り、関税の引き下げは認めないというスタンスです。このため、韓国政府は国内産業の競争力維持と米国との同盟関係のバランスをどう取るかで苦悩しています。
国民生活への影響と今後の見通し
もしも交渉が不調に終われば、韓国の主力産業である自動車や自動車部品分野の輸出に大きな打撃が出る可能性が高いです。これらは対米輸出の約4割を占めているため、関税率が25%のままでは企業の経営が圧迫され、国内経済の低迷にさらに拍車がかかるとの懸念が高まっています。
また、米国側の強硬姿勢が続くことで、韓国内の反米感情も再燃しかねません。もともと米韓同盟は軍事・安全保障面で非常に重要ですが、経済分野での摩擦が広がると両国関係全体に悪影響が及ぶリスクもあります。
今後の交渉の成否は、10月末に韓国・慶州(キョンジュ)で開催されるAPEC首脳会議が大きなポイントとなりそうです。李在明大統領はこの機を逃すと次のチャンスがなくなるため、強く成果を求められています。一方で、米国側の要求を無条件で受け入れることは国民の反発を招くため、政府としては難しい舵取りが続きそうです。
まとめ——韓国メディアが見る“分断”と“希望”
今回の韓米関税交渉をめぐる動きは、朝鮮日報やハンギョレ新聞など韓国メディアの論調にも大きな違いが見られます。朝鮮日報は「米国の変化」に戸惑いながらも「冷静な対応」を呼びかけ、ハンギョレ新聞は「国民の目を曇らせるな」と警戒感を強めています。
どちらのメディアも、今後の交渉が韓国経済の命運を左右する重大な局面であることは共通です。政府は国民の理解を得つつ、国益を守るための戦略を模索し続けています。APEC首脳会議まで残された時間はわずかですが、韓国社会全体がこの問題に注目し、議論を深めていくことが求められています。
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韓米関税交渉は、単なる経済問題だけでなく、両国の信頼関係や今後の国際秩序にも大きな影響を与える重要な局面です。今後の動向から目が離せません。