生活保護――誰もが支え合う社会のために

現在の生活保護の状況と課題

2025年7月時点で、日本の生活保護受給世帯数は164万7618世帯となり、前月よりも2416世帯増加しています。経済不安や雇用情勢、健康問題など様々な背景から生活保護へのニーズが高まり続けている状況が浮かび上がっています。生活保護制度は、最低限の生活を保障し、市民の命や尊厳を守るための「いのちのとりで」とも言える存在です。

生活保護バッシングと社会の偏見

近年、「生活保護バッシング」と呼ばれる風潮が社会に広がっています。「自分だけで生きている人はいない」という言葉に象徴されるように、実際には誰もが他者や社会資源によって支えられて生きています。それにも関わらず、一部では生活保護受給者を怠惰とみなしたり、不正受給者と同一視したりする偏見がメディアやSNSなどを通して蔓延しています。

生活保護は憲法第25条に基づいた最低限度の生活保障制度であり、本来、困窮状態にある人なら誰でも申請する権利を持っています。不当なバッシングや偏見は、利用をためらわせ、必要な支援が届かなくなるリスクを生みます。そのため、正しい理解と共感が広がる社会の実現が求められています。

障害者加算を巡る自治体の独自運用とその問題点

生活保護制度の運用現場では、障害者加算(月額約1万5000円前後)が障害を抱える受給者にとって命綱となる重要な支援となっています。しかし、加算の支給を自治体が独自の裁量で拒否するケースが報告され、その運用の不合理さが社会問題となっています。

  • 加算の支給拒否:実際に精神障害者保健福祉手帳2級を所持しているにもかかわらず、「取得時期が早すぎたから」という理由で加算が認められない事例が存在します。
  • 申請方法の不透明さ:受給者が事前に申請方法を尋ねても、対応が曖昧で説明責任が果たされない自治体もあります。
  • 運用ルールの格差:自治体の独自運用による「説明の欠如」や「不可解な理由による支援打ち切り」が、制度の本来の趣旨を損ねる要因となっています。

障害ゆえに生じる追加の出費――冷暖房費など――を補うための加算は、少しでも豊かな生活を維持するために不可欠です。制度の運用が硬直化している現状では、必要な支援が適切に行き渡らない人が多数存在します。特に精神疾患を抱える人は、行政と交渉したり声を上げたりすること自体が困難なケースが多く、理不尽な対応に泣き寝入りすることも珍しくありません。

最高裁判決と生活保護基準引き下げ、今後の議論

厚生労働省は、最近の最高裁判決を受けて生活保護基準の再改定を議論する方針を明らかにしています。背景には「生活保護基準引き下げ」に関する違法性を巡る裁判が相次いでいることが挙げられます。名古屋高裁をはじめとした複数の裁判所は、「引き下げは違法」である旨の判断を示しており、受給者は国の運用に対して不信感を強めています。

今後の議論では、専門家・市民・関係者による意見が活発に交わされることが予想されます。基準の見直しは、単なる財政的観点だけでなく、受給者の生活実態や人権、社会的公正という多角的な視点から進められる必要があります。生活保護は、社会の最も弱い立場にある人々の生存権を守るための防波堤です。制度の改定が彼らの権利や尊厳を損なわないよう慎重に議論されることが求められます。

「いのちのとりで」としての生活保護の意義

生活保護は「いのちのとりで」として、無資力、病気、障害、高齢、失業などのさまざまな困難に直面した人々の命を守り、再び社会とつながるための基盤となります。支援を受けることは決して恥ずかしいことではなく、社会がひとりひとりを大切にする証なのです。

  • 誰もがいつ、どんな理由で困窮に陥るかは分かりません。
  • 困った時に公的なセーフティネットがあることは、安心して暮らせる社会の土台です。
  • 利用者に対する差別や偏見をなくし、正しい情報と理解が広がることが重要です。

現在、自治体の対応格差や制度運用の不透明さが大きな課題となっています。孤独や不安、社会的孤立に苦しむ受給者が「声を上げる」こと自体が難しい現状では、社会と行政が連携し、制度改善に向けた取り組みを強化していく必要があります。

支える社会を目指して――私たちにできること

生活保護制度の持続的な改善には、社会全体の理解と支援が不可欠です。市民一人ひとりが偏見を乗り越え、「支える側・支えられる側」の垣根を越えて助け合える社会を作ることが目標です。

  • 報道や啓発活動を通じて、正しい知識や受給者の声を社会に届ける。
  • 自治体や国への政策提言を活発に行い、制度の透明性と公正性を高める。
  • 生活保護に関する相談窓口や「いのちのとりで」基金など民間の支援活動への協力も大切です。

「誰もが支え合える社会は、一人ひとりによって作られる」ということを忘れず、困難な状況でも安心して助けを求められる社会の実現を目指しましょう。

まとめ:生きることに寄り添う生活保護のこれから

生活保護バッシングや自治体の運用格差、基準引き下げ問題など、多くの課題に直面している生活保護制度。しかし、「いのちのとりで」としての意義は失われていません。支える社会の構築に向けて、制度の改善、偏見の除去、受給者の声を尊重する取り組みを続けていくことが、私たちの責任であり、希望でもあります。

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