キオクシア、NVIDIAと生み出すAI時代の超高速SSD――「100倍速」技術革新の全貌

日本が世界に誇る半導体メモリメーカー、キオクシア。2025年秋、同社はAI業界の巨人・NVIDIAと手を組み「従来SSDの100倍」というかつてないスピードを持つ新時代のSSD開発を進めていることを発表し、国内外で大きな注目を集めています。本記事では、その技術背景や具体的な性能、AI産業との関わり、そして今後のデータセンターとAI基盤の未来に至るまで、優しく丁寧に解説します。

いま何が起きているのか?──100倍速SSD誕生の衝撃

  • SSDとは?

    SSD(ソリッド・ステート・ドライブ)は、HDD(ハードディスクドライブ)の後継として普及した不揮発性メモリを利用したストレージデバイスです。高速なデータアクセスや耐衝撃性、大容量が特徴ですが、AIや生成AIプラットフォームの台頭で「もっと速く」「もっと大きく」というニーズが急増しました。
  • キオクシアが狙う「100倍速」

    従来のSSDは、高速モデルでもIOPS(1秒間の入出力回数)で約300万程度が限界でした。しかしNVIDIAと協働するこの新SSDは、「1億IOPS」さらには「2億IOPS」規模を目標とし、現行SSDの100倍近いスピードアップをもたらします。
  • サンプル出荷は2026年下半期、商用化は2027年へ

    新SSDは2026年下半期にサンプル出荷開始、2027年の商用化を目指して急ピッチで開発が進みます。

なぜ「NVIDIAの要望」なのか?AI時代の新たな課題

生成AI(GenAI)、ディープラーニング、LLM(大規模言語モデル)の発展で、AIチップ(GPU)の性能だけでなく、それを活かしきる“データ転送速度”と“大容量ストレージ”がボトルネックになっています
NVIDIAはAI最先端のユーザーであり、「HBM(高帯域幅メモリ)」のコスト・容量限界への強い課題感から、「メモリの役割も果たす次世代SSD」をキオクシアに要望したのです。

技術の進化とポイント:1億IOPS/500TBの“モンスターSSD”

  • IOPSが1億、2億を超える世界へ

    次世代SSDは、今までのストレージが到達できなかったレベルのIOPSを実現。
    IOPSとは:1秒間にデータの転送(読み出し・書き込み)操作を何回できるかの指標。
    意味:「AIモデルの学習」「推論」時、大量かつ高速な断片データを瞬時に供給し、GPUの演算能力を最大限に引き出せます。
  • 最大500TB級の異次元容量

    従来の数TB規模を大幅に上回る“500TB”、あるいはそれ以上のストレージが実現できる見込みです。
    大容量SSDがもたらすメリット:AIモデルの学習データ、推論用データセットなど、膨大なデータをロスなくストレージに蓄積・提供が可能となります。
  • レイテンシも劇的短縮

    ただ容量やIOPSだけではなく、データ応答の遅延(レイテンシ)も劇的に減少。
    – AIサーバー、データセンターのワークロード全体の高速化・効率化が期待されます。

キオクシア独自のコア技術:「XL-FLASH」と新型コントローラ

キオクシアの新SSDでは、同社独自のストレージクラスメモリ「XL-FLASH」とAI特化の新コントローラを組み合わせ、小規模ランダムデータにも高効率高速アクセスを実現しました。

  • XL-FLASH」:従来NAND型フラッシュの進化型で、きわめて高速・高耐久が特徴。
  • AI SSDコントローラ」:最新のハード/ソフト融合設計で、GPUやPCIe 7.0規格にも完全対応予定。データセンターのストレージレイアウトそのものを見直す変革をもたらします。

「HBM置き換え」で見えてくるAIシステム革新の流れ

通常、GPUの隣接には高速DRAMやHBMが搭載され、AI処理を支えてきました。しかし、「HBM/DRAMのコスト・容量の限界」という壁に直面しています。次世代SSDはその壁を打破する切り札となる可能性を秘めています。

  • HBMのコスト高・容量制限

    AI用GPU搭載サーバが増加し、性能向上にはメモリ拡張が不可欠。しかしHBM・DRAMはコストが膨大になり、拡張も限界に近づいています。
  • AI SSDによる代替/共存戦略

    AI SSDは「高スループット・大容量」分野でHBMを効果的に補完。今後は「ホットデータはHBM・コールドデータやバッチ処理はAI SSD」という階層構造が現実解となります。
  • ストレージとメモリの“融合”時代

    最終的には、「GPUに直結した超高速SSD」が事実上メモリ役割も担い、CPU・メモリ・ストレージの境界が曖昧になる新しいコンピューティングパラダイムが提案されつつあります。

生成AI基盤強化へ、ストレージ戦略の最適解とは?

  • AI学習・推論で決定的なアドバンテージ

    学習時には莫大なデータセットを高速処理し、推論時にも分散・並列アクセスが不可欠。新SSDはまさにその「学習から推論まで」の一連プロセスを高速化します。
  • データセンターの省スペース化・省エネ化

    複数台の従来SSD/DRAM/HDDをまとめて省スペース化。IOPS/容量あたりの消費電力も削減でき、カーボンニュートラルな次世代AIインフラにも直結。
  • PCIe 7.0対応、AIサーバ設計が一新

    次世代I/O(入出力)インタフェースへの完全対応で、周辺機器アーキテクチャも「GPU—SSD直結」や専用ネットワーク接続の再設計が進みます。

市場や業界へのインパクト――今後何が変わる?

  • AI研究開発、解析、ロジスティクス、エンタープライズITなど幅広い分野で「データドリブン」の加速が期待。
  • 各社がストレージ/メモリ開発競争を激化させることで、部材コスト低下も見込まれ、AI関連サービスの裾野が拡大。
  • 日本の半導体産業、AIインフラ技術力向上が、再びグローバル市場で存在感を増す契機にも。

課題と今後の展望――「究極のストレージ」は本当に実現するのか

  • コスト/技術面の課題

    – 部材コストと供給体制の確保

    – 新I/F規格(PCIe7.0等)との最適連携

    – HBM完全置き換えには依然レイテンシ性能等の壁もあり、当面はハイブリッド運用が主流と予測
  • 将来像

    今後数年でSSD、AIサーバー、メモリーハードウェアは指数関数的な進化を続け、数年以内に想像もしなかったAI活用の常識が次々に塗り替えられるでしょう。

まとめ:AIストレージ新時代の到来、その「主役」はキオクシア

AI社会の真の基盤は「情報の記憶・受け渡し」にあり、その急速な進化が期待されます。キオクシアとNVIDIAの協業による100倍速SSDは、技術の壁を突破する“未来のエンジン”として、日本そして世界のAI成長を牽引するでしょう。今後もキオクシアの動向、大容量・高速ストレージの技術革新から目が離せません。

参考元