地方競馬の現場から考える―毎年7,000頭が引退する競走馬、その行方とセカンドキャリア

華やかさの裏に隠された現実—年間7,000頭もの競走馬が引退へ

地方競馬や中央競馬(JRA)は近年、ゲームやアニメの影響もありファン層が拡大し、売上もV字回復を見せています。しかし、一方で毎年約7,000頭もの競走馬が現役を退き、その後の生活については十分に知られていません。サラブレッドなど競走馬の寿命は一般的に25〜30年と言われますが、ほとんどは5歳前後と驚くほど若い段階で第一線を退く現実があります。

  • 繁殖用や種牡馬として残れるのはごく一部
  • 乗馬クラブなどで第二のキャリアを見つける馬も
  • 受け入れ先のキャパシティが追いつかず「余剰」となる馬が多数

競走馬引退後の現状—地方競馬における“行方不明”の馬たち

地方競馬では、特に引退後のケア体制に大きな課題があります。2021年のデータでは、身元や去就が把握できない「時効抹消」区分の馬が、登録抹消馬の約32%にも上ります。これは、1年以上レースに出走しなかった馬の登録を理由も明記せず自動的に消す制度であり、その後の馬の所在は公式には追跡できません。

  • 抹消後に実際にどこへ行くのか不明なケースが多発
  • 「時効抹消」=事実上の“行方不明”状態
  • 公式で把握できているのは一部のみ

また、引退した馬の中には食肉用として利用される事例も存在します。馬は元々「産業動物」であり、経済的な理由等から家畜として扱われる現実も否定できません。ケガや高齢、性格などの問題で乗馬用にも転用できない引退馬が増えていることも背景といえます。

乗馬クラブなど受け入れ先の限界—全てを救えない現実

日本全国の乗馬クラブや引退馬支援団体の受け入れ可能数は6,000〜7,000頭規模で頭打ちとされており、毎年新たに引退する競走馬の数にはまったく追いついていません。結果として、多くの馬が居場所を失い、管理されないまま“余剰”となってしまう状況が続いています。

  • 引退馬を迎える乗馬クラブの能力には限り
  • 全ての馬に「余生」を約束するのは現状不可能
  • 経済優先で馬の生産が続き、構造的な欠陥を孕む競馬界

引退馬のセカンドキャリア—社会的関心の高まりと支援の拡充

こうした現状を受けて、JRAなど中央競馬では引退競走馬のセカンドキャリア支援を強化しています。2017年には検討会が設置され、2024年には複数の競馬関係者が連携した新団体が設立され、一時休養施設の運営や余生の支援事業などに取り組み始めました。

  • JRA主導による引退馬支援体制の強化
  • 余生を支える事業、施設開設などが進行中
  • 引退馬を追跡・保護する仕組みの透明化が模索されている

幸せな余生を願って—新たな取り組みとプロジェクトの広がり

民間やファンによる支援プロジェクトも着実に広がっています。例えば「ヴェルサイユ新厩舎プロジェクト」では、より多くの引退馬が幸せな余生を過ごせるよう新たな厩舎施設を整備する動きがあります。また、蹄鉄を用いたしめ縄づくりなどを通じて「引退馬と人の想いをつなぐ」活動も注目されています。

  • 地方にも広がる引退馬保護のための新施設・プロジェクト
  • ファンや地域住民との交流を促進し、馬の役割を再認識
  • 「命のバトン」として馬と人が共存する仕組みづくりが広がる

こうした活動の広がりにより、単に「産業動物」として消費されるだけではなく、人と馬が「第二の人生」を共に歩む意識が強まっています。プロジェクトでは馬の命を尊重し、馬が人間社会で再び役割を持てるように、現場レベルの多様な支援策が検討・実施されています。

過去の名馬・話題の馬の引退、その後の余生にも注目

2025年に引退した重賞勝ち馬(例:クリノプレミアムなど)はその引退後の行く先にも注目が集まっています。名馬は種牡馬や繁殖牝馬としての道を歩むこともありますが、すべての馬がそのようなキャリアに進めるわけではありません。

  • 名馬の「その後」はメディアやファンに話題に
  • 引退馬の情報公開と追跡が、課題解決の鍵となる
  • どの馬にも幸せな余生を…という“願い”と現実とのギャップ

人と馬が紡ぐ未来—誰もが参加できる支援の輪

現在では、一般の競馬ファンや地域住民がクラウドファンディングや寄付を通じて引退馬支援に参画する機会も増えています。プロジェクトや団体への参加、SNSでの情報発信など、身近なところから始められる支援が広がりつつあります。

  • 寄付・協賛・ボランティアへの参加が容易に
  • 自分の応援馬が幸せな余生を送る様子を見守れる時代へ
  • 「応援」だけでなく、「命のケア」という新しいファン参加の形

地方競馬の現場で課題となっている「引退馬の行方不明」問題。その根底には、構造的な受け皿不足や管理体制の曖昧さ、経済的合理性が色濃く存在しています。しかし、今まさに多くの関係者やファンがその現実と向き合い、馬の命と心を尊重した“新しい未来”を切り拓こうとしています。「馬と人が新しい絆を紡ぐ社会」づくりは、競馬文化の深化と社会全体の命への意識向上にも繋がる重要なテーマとなっています。

まとめ:地方競馬と引退馬—命の未来をともに考える時代へ

毎年増え続ける引退馬という現実。その一頭一頭が幸せな余生を迎えられるよう、競馬界全体の制度改革と社会的な理解が必要です。命そのものに光を当て、「競馬=馬の人生」と考える感性がこれからの時代の競馬文化に必要になってくるのではないでしょうか。そして、私たち一人ひとりも、競走馬のセカンドキャリアや命の行方にぜひ関心を寄せてほしい――そう願われています。

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