アフガニスタン全土でインターネットと電話回線が遮断 ― タリバンの「道徳的措置」とは何か
急遽アフガニスタン全域に通信遮断―その概要
2025年9月29日、アフガニスタンで全国規模のインターネットと電話通信の遮断が発生しました。国際的なインターネット監視団体 ネットブロックスによると、同国は完全にインターネット遮断状態に置かれ、「道徳的措置」としてタリバンによる主導的な規制が全国的に断行されたとされています。
また、地域によっては数週間前から光ファイバーインターネットへの接続制限が始まっており、この措置はその集大成とみなされています。
通信停止の経緯と公式説明
これまで、タリバン暫定政権はインターネットや電話サービスへの制限を徐々に強化してきました。今回の遮断について、政権側は正式な理由を公表していませんが、過去にポルノやオンラインでの男女間の親密行動に対する懸念や、「不道徳な行為防止」の必要性を示唆してきました。しかし、こうした根拠はあくまで政権側の説明であり、専門家や宗教学者の中には、これに宗教的な正当性は無いとする声もあります。
社会・経済への甚大な影響
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市民生活の混乱:
今回の遮断により、市民は銀行システムや電子商取引、オンライン授業や遠隔地の仕事など、日々の営みが著しく制限されました。 -
航空便への影響:
フライト追跡サービス「フライトレーダー24」によれば、カブール国際空港発着予定だった少なくとも8便が欠航となるなど、空の交通にも混乱が生じました。 -
メディアや情報流通の阻害:
複数の国際通信社はカブールのオフィスと連絡が取れなくなり、モバイル通信や衛星テレビも全国で深刻な障害を受けています。現地テレビ局もSNSなどで限定的な情報発信に切り替えています。 -
女性や弱者への打撃:
2022年以降、女性の教育や就労機会が厳しく制限されたため、特に女性たちにとってインターネットが「生命線」となっていました。遮断により、そうした人々がさらなる孤立や困窮に追い込まれる懸念も高まっています。 -
経済危機への拍車:
失業率の高止まりや、既存の貧困・飢餓の深刻化が予想されており、民間企業も回線復旧の見通しが立たないなかでビジネス継続に悩まされています。
現地の声と国際社会の反応
多くのアフガニスタン市民は、「インターネットをオフにすることは、人生をオフにするのと同じ」とのコメントを寄せています。また、X(旧Twitter)上では、「アフガニスタンがインターネット遮断国家の“頂点”に達した」として、北朝鮮と並ぶ情報鎖国状態への強い危機感も示されています。
在外アフガニスタン人や元国会議員も、SNSを通じて国内の「沈黙」の深刻さを訴えています。
遮断の背景と政権の意図
タリバン政権は2021年の復権以降、女性やマイノリティの権利制限、メディアの統制など、自由と権利の抑圧を進めてきました。
今回の通信遮断も、批評家からは「情報の自由な流れを阻止するための広範な言論弾圧の一環」と指摘されています。政権はイスラム法(シャリーア)による正当化を図っていますが、宗教学者からは「宗教的な根拠はない」とする反論も出ています。
今後の見通し―市民・ビジネス界の不安
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生活・ビジネス混乱への懸念:
民間ビジネスや一般市民からは、インターネット遮断が続く限り日々の生活や事業継続が不可能になるとの不安が上がっています。特に電子決済やデジタル依存度の高い中小企業は大きな打撃を受けています。 -
情報発信の孤立:
政治・人権活動家や海外在住のアフガニスタン人は、国内発の正確な情報が届かなくなることで、「国民の声」が世界から消えていく状況を懸念しています。 -
メディアの萎縮・自由の危機:
国内テレビやラジオも大幅な制限や停止の影響を受けており、メディア保護団体は、「インターネット禁止は、市民が持つべき知る権利への重大な侵害」と批判しています。 -
政権の見通しは不透明:
タリバン政権の当局者は「追って通知があるまで」としており、通信復旧の具体的な時期や見込みは示されていません。
専門家の意見と社会への呼びかけ
ドイツ在住のアフガニスタン人アナリスト、イシャク・アトマール氏は「インターネットなしでは何もできない」「この決定は国民と経済双方にとって大きな損失」と警告しています。
また、国際人権団体やメディア・IT業界団体などは、アフガニスタンの市民社会に向け、情報アクセスと自由の大切さ、そして外交的な支援の必要性を改めて訴えています。
アフガニスタンの現状を正しく伝えるために
現在、アフガニスタン国内からの直接的な情報発信は著しく制限されています。こうした状況下でも、国際社会や隣国、在外アフガニスタン人ネットワークが最新情報を伝え続けています。
今後も私たち一人ひとりが「情報隔離」下に置かれた同国の人々の現状と声に関心を持ち続け、公正かつ正確な情報・報道を重視することがより一層求められています。
- <情報源:NetBlocks、BBC、Wedge Infinityほか、各種国際通信社報道>