前立腺がん治療最前線――CAN-2409の臨床試験成功と著名人の闘病が投げかける課題

はじめに

前立腺がんは、男性にとって最も一般的ながんの一つであり、加齢とともに罹患リスクが高まる疾患です。2025年9月、前立腺がん治療に関して二つの大きなニュースが相次いで報じられました。一つは、キャンデル・セラピューティクス(Candel Therapeutics)が開発する新しい治療法CAN-2409の臨床試験で生存率向上という有意な成果が示されたこと、もう一つはテニス界の伝説ビョルン・ボルグ氏およびNFLペイトリオッツのディフェンシブコーディネーター、ウィリアムス氏が前立腺がんとの闘病を公表したことです。ここでは、これら最新の動向と前立腺がんを巡る社会的・医療的課題についてやさしく解説します。

前立腺がんとは何か?

前立腺がんは前立腺の細胞が異常増殖し、悪性腫瘍となる疾患です。初期には自覚症状が乏しいため、健康診断で発見されることが多く、患者数は年々増加しています。一般的な症状には頻尿、排尿障害、腰痛などがありますが、進行するまで無症状の場合も少なくありません。

CAN-2409:前立腺がん治療における新たな希望

  • キャンデル・セラピューティクス社が開発したCAN-2409は、多施設共同無作為化第3相臨床試験で高い有効性と安全性が示されました。
  • 慢性・中~高リスクの限局性前立腺がん患者を対象に、CAN-2409+プロドラッグ(バラシクロビル)+標準放射線療法と、偽薬+放射線療法の比較が行われました。
  • CAN-2409群では、がん再発または死亡のリスクが30%減少(HR 0.7)し、無病生存期間(DFS)が統計学的に有意に改善しました(p=0.0155)。
  • 本治療は米国FDAから「ファスト・トラック」指定を受けるなど、今後の標準治療を刷新する可能性が高まっています。

CAN-2409とはどのような治療法か?

CAN-2409は遺伝子導入型の免疫療法で、体内で直接ウイルスベクターを使ってヘルペスウイルス由来のチミジンキナーゼ(HSV-tk)遺伝子を前立腺腫瘍細胞に送達します。この細胞にバラシクロビルを投与すると、腫瘍細胞内で毒性物質が発生し、がん細胞のみを死滅させます。そのため、正常細胞への影響が比較的少なく、副作用が抑えられる点が特徴です。

また、CAN-2409+プロドラッグは患者固有の免疫応答も誘導するため、がん細胞の再発防止や他の治療との併用効果が期待されています。これまでに1,000人以上の患者に投与され、安全性も確認されています。

治験の詳細と臨床的意義

本試験では、745名の中~高リスク限局性前立腺がん患者が2:1の割合でCAN-2409群(496名)とプラセボ群(249名)に割り当てられました。主評価項目は無病生存期間(DFS)で、副次評価項目には前立腺特異抗原(PSA)レベルによる生化学的再発率、がん特異的生存率、全生存率などが含まれました。

CAN-2409の追加投与は、アンドロゲン除去療法(ADT)の有無にかかわらず効果が認められ、とくにADT非併用群での再発・死亡リスク低減(HR 0.56)が顕著でした。この結果は、患者にとって治療選択肢が広がるのみならず、これまで長らく標準治療が大きく進歩しなかった前立腺がん医療に変革をもたらすと期待されています。

世界の著名人が明かす前立腺がんとの闘い

  • 2025年、テニス界のレジェンドであるビョルン・ボルグ氏が前立腺がんであることを公表しました。彼の公表は多くの人々に病気の「早期発見・治療の重要性」を訴えるきっかけとなっています。
  • また、米プロフットボール(NFL)ペイトリオッツのディフェンスコーディネーター、ウィリアムス氏も同様に前立腺がんの診断を受けました。スポーツ界の著名人が公表することで一般社会への啓発効果が生まれ、多くの患者や家族が前向きに「情報を得て行動する」きっかけとなっています。

前立腺がん治療・課題と展望

前立腺がんの治療には、手術・放射線療法・ホルモン療法・化学療法などさまざまな選択肢がありますが、近年は副作用の軽減やQOL(生活の質)の向上が重視されています。CAN-2409のような革新的な治療法は、がん再発の防止・生存率向上のみならず、患者負担の軽減や他治療との併用可能性から「個別化医療」の新たな地平を切り開きつつあります。

  • 本邦でもPSA検診が普及しつつあるものの、検診の受診率や治療へのアクセス格差など社会的課題も残っています。
  • 著名人の闘病公表は、一般市民の健康意識向上や、医療現場での患者支援体制強化に結びつくことが期待されます。

患者さんやご家族へのメッセージ

前立腺がんは決して一人で悩む病気ではありません。近年の研究進歩・新薬開発は目覚ましく、早期発見・治療の選択肢も拡大しています。健康診断で気になる数値がある場合は、まず専門医に相談しましょう。また日々の生活で、バランスのとれた食生活・適度な運動・ストレス管理を心がけることも大切です。著名人の方々も同じく闘っているという事実に勇気づけられ、前向きに治療と向き合える社会の実現を目指しましょう。

まとめ

2025年、前立腺がん医療は大きな転換期を迎えつつあります。CAN-2409という新しい治療法は、科学的根拠に基づく有用性を持ち、今後の標準治療の柱となる可能性を秘めています。一方で、著名人による公表は、病気に対する理解と予防意識の向上、そして偏見のない社会づくりに貢献しています。前立腺がんと診断された方やご家族が、希望と安心を持って歩めるよう、今後も科学と社会の連携が求められます。

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