岡本太郎の言葉が響く――「大長編 タローマン 万博大爆発」公開にみる時代と芸術の接点
はじめに
岡本太郎――その名を聞いたことがある人も多いでしょう。今、彼の思想や作品、そしてその言葉が改めて大きな注目を集めています。2025年8月22日に全国公開された映画「大長編 タローマン 万博大爆発」は、まさにその岡本太郎の魂を現代に呼び覚ます作品です。今年は大阪・関西万博を控え、1970年の万博以来、再び「万博」という舞台が世間に熱気をもたらしています。そんななか、ネット全盛の社会に投げかけられた岡本太郎の言葉、「流行なんて、文字通り流れていく」は、私たちに何を問いかけているのでしょうか。
岡本太郎――時代を超える芸術家の思想
岡本太郎は1911年生まれ、日本を代表する芸術家・思想家です。彼の言葉は、戦後日本の混沌を生き、自ら新しい価値観を模索した時代を象徴しています。その代表作「太陽の塔」は、1970年の大阪万博にて設置され、「人類の進歩と調和」という万博理念のもと、モダニズムの空気が支配するなかに異彩を放ちました。岡本は「技術の進歩が社会を豊かにし、人を幸せにする」といった楽観的な未来志向に対し、安易な賛美を拒み、「ベラボーな挑み」と称した独自の思想を作品に込めました。
「流行なんて、文字通り流れていく」――ネット全盛時代への警鐘
今、SNSや動画サイトを通じて流行が瞬く間に生まれては消えていく――そんな現代人の日常に、岡本太郎の「流行なんて、文字通り流れていく」は、鋭く切り込んできます。彼は「人と違うことこそ、価値がある」と語り、「何だこれは!」と驚かせるものを作るべきだと主張してきました。流行の波に飲み込まれず、「常識」や「秩序」に縛られない生き方や創造こそが、自分らしさを保つ手段であると岡本は言い続けています。そしてこの考えは、情報があふれ個性が埋没しやすい現代社会に、強い意味を持って立ち現れています。
特撮作品「タローマン」――岡本太郎の思想を宿すヒーロー
- 2022年、「TAROMAN 岡本太郎式特撮活劇」としてテレビシリーズが放送され、岡本太郎の言葉と精神をモチーフにしたユニークなヒーロー像が話題となりました。
- この「タローマン」は、岡本太郎の思想「でたらめをやれ!」を体現し、常識や秩序を打ち破る象徴として登場します。
- 各話わずか5分という短編シリーズでしたが、芸術・特撮・哲学が絡み合う独自の世界観で注目を集めました。
そして2025年、ファン待望の劇場版「大長編 タローマン 万博大爆発」が満を持して全国公開されました。本作は1970年万博の熱狂と、2025年の未来万博を舞台に、時代を超えた「挑戦」と「創造」のメッセージを伝えます。
映画『大長編 タローマン 万博大爆発』――あらすじと世界観
- 舞台は1970年、大阪万博開催に湧く日本。
- 2025年、未来からやって来た奇獣が万博を消滅させるために襲撃。
- 奇獣の「でたらめな力」に対抗するため、主人公・タローマンとCBG(地球防衛軍)が立ち上がる。
- しかし未来社会は秩序と常識が支配し、「でたらめな力」は絶滅寸前となっていた。
- タローマンは岡本太郎の思想を胸に、人類の「挑み」と「創造」を体現して奇獣に挑む。
監督・脚本は映像作家藤井亮。アニメーション、キャラクターデザイン、背景すべてを自ら手がけ、岡本太郎が万博に託した思い、そして「太陽の塔」が生まれた背景を強く描写します。出演はサカナクション・山口一郎。彼は「タローマンマニア」として、作品中で岡本太郎とタローマンについて熱く語ります。
「特撮作品の原点回帰、到達点」――映画レビューから
本作について、専門家や映画ファンの間からは「特撮作品の原点回帰であり、到達点」との評価が続々と寄せられています。1970年代の特撮にみられる「自由」と「でたらめな創造」といったエネルギーを、現代的な映像表現と融合。岡本太郎が万博に突き付けた「ベラボー(荒唐無稽)」をテーマとし、観客は映像と音楽の両面で「何だこれは!」という驚きを体感できます。
- 「過去・現在・未来が一つにつながる体験。昭和百年の万博という設定がとてもユニーク。」
- 「太陽の塔が持つメッセージ、違和感や異物感の美しさに改めて気づかされた。」
- 「タローマンというヒーローが、自分自身の『違い』や『個性』を大切にすることの大切さを教えてくれる。」
岡本太郎の万博への想い――「なんだこれは!」と湧き上がる精神
岡本太郎が1970年の万博へ抱いた想いは、単なるモニュメント制作以上のものでした。「太陽の塔」は、合理主義や常識を打ち破る「精神の爆発」を至上命題とし、見る者に「なんだこれは!」という新鮮な驚き――つまり「生きる力」を呼び覚ますための挑戦でした。映画の中でも、「タローマン」の活躍を通して、観る人が「自分らしさ」や「創造性」について深く問われる瞬間が随所にあります。
現代の万博でも、技術や進歩に埋没せず、“ベラボーなもの”を創造する重要性が再認識されています。岡本太郎の思想は、「世界の常識や秩序に安住するな」「もっと自分だけの生き方を」と私たちに新しい視点を授けてくれているのです。
ネット社会と個性――タローマンが現代にもたらすメッセージ
SNS や動画サービスの発展は、誰もが簡単に情報を発信し、共有できる時代を生みました。しかしその反面、流行や口コミに影響されやすく、埋没する個性を持て余す人も少なくありません。岡本太郎の「流行なんて、文字通り流れていく」という言葉は、自分自身の「でたらめ」や「違い」を恐れずに表現する勇気を与えてくれます。
- 「でたらめをやってごらん」という岡本の言葉は、模倣や同調ではなく、自己表現の重要性を強調。
- 「常識」を超えて、本当の自分を探す冒険――それが岡本太郎とタローマンからのメッセージです。
おわりに――岡本太郎とタローマンがつなぐ未来
映画「大長編 タローマン 万博大爆発」は、岡本太郎の「挑戦する精神」「違和感の美しさ」を通して、私たちが流行や常識に流されず、個性を発揮して未来へ進むためのヒントを与えてくれます。「流行なんて、文字通り流れていく」――この言葉は、ただ流れるだけでなく、「自分だけの爆発」を起こすことのできる力を秘めているのです。万博という大きな舞台で、人類の個性と創造性がどこまで高められるのか。ぜひ映画館で、タローマンとともに“でたらめな力”を体感してみてください。