WHOが認定した日本の風疹「排除」―社会的快挙と今後の課題
はじめに
2025年9月、世界保健機関(WHO)が日本の風疹「排除」状態を正式に認定しました。本記事ではこの歴史的快挙の意義、達成までの経緯、社会への影響、そして今後の課題について、わかりやすく丁寧に解説します。風疹の排除認定とは、国内で「土着株」の感染例が3年以上確認されなかったことを指します。日本がどのようにしてこの目標を達成したのか、その背景には長期的な予防接種政策と社会全体の協力がありました。
風疹とは ― 病気の基礎知識
風疹は風疹ウイルスによって起こる感染症で、微熱・発疹・リンパ節の腫れなどの症状が現れます。多くは軽症ですが、妊娠初期の女性が感染した場合、先天性風疹症候群(CRS)といって、赤ちゃんに重い障害を引き起こすことがあるため、社会的な予防の重要性が強調されてきました。
感染拡大の歴史とワクチン接種の推進
日本では過去にも風疹の流行が繰り返されてきました。特に2012年から2013年にかけては成人男性を中心に大規模な流行が発生し、新生児や妊婦への感染拡大が大きな社会問題となりました。この事態を受けて、政府は成人男性への定期接種の推進など新たな対策を強化しました。風疹ワクチンは高い有効性(抗体陽転率95%以上)を持ち、適切に接種されれば15~20年程度免疫が維持されることが知られています。
- ワクチン接種率が90%以上 ⇒ ほぼ流行抑制
- 80%未満 ⇒ 局所的流行のリスク増加
- 70%以下 ⇒ 大規模流行の可能性が上昇
このような予防接種率の維持と行政・医療機関による啓発活動が、流行抑制に欠かせない要素となりました。
排除認定までの道のり
排除状態の認定には「土着株」(国内で持続的に感染している型)の感染が3年以上確認されないという基準が設けられています。日本では、近年のワクチン政策と集団免疫形成により、2022年から2025年までの3年間、土着株による感染例は一切確認されませんでした。この成果を受け、WHOは2025年9月26日、日本を風疹排除国と認定しました(「撲滅」と表現されることもありますが、WHOは「排除」=地域における持続的感染停止という立場です)。
排除認定の社会的意義
この認定は、日本が世界でも類をみない「風疹から安全な国」となったことを意味します。妊婦や子ども、医療従事者など、重症化しやすい弱者を守る社会づくりが実現した証でもあります。これにより、先天性風疹症候群の発生リスクが大幅に減少し、健康な出産と育児の環境が整いました。
ワクチンの有効性と安全性
風疹ワクチンは「乾燥弱毒生風しんワクチン」などが広く用いられており、安全性も高く評価されています。副反応は一過性の発熱や発疹、接種部位の痛みなどが報告されていますが、重篤な事例は極めて稀です。
- 主な副反応:一時的な発熱・発疹・関節痛(成人女性に多い)・リンパ節の腫れ
- 重篤な副反応は非常に稀で、ほとんどが自然回復
このような情報提供と啓発が、ワクチン接種への安心感を高め、接種率向上に重要な役割を果たしました。
厚生労働省と関係機関の取り組み
厚生労働省は、市町村と連携し定期接種や公費助成を実施するとともに、風疹流行情報の迅速な提供を進めました。また未接種者への再勧奨、学校・職場での集団接種の機会拡充、さらには妊婦への無料抗体検査推進など、多様な施策が展開されました。
- 定期的なワクチン接種の実施
- 社会全体の啓発と情報提供
- 多様な接種機会の確保
- 妊婦や未接種者への個別フォローアップ
排除認定後の課題
排除認定はゴールではなく、新たなスタートでもあります。ウイルスの持ち込みや、接種率の低下による再流行のリスクは常に存在するため、油断は禁物です。厚生労働省は今後も継続的な監視・啓発・接種推進を行い、「排除状態の維持」に努める方針を示しています。
- 海外からのウイルス持ち込みに注意
- 接種率維持のため、定期的な啓発と情報更新
- 未接種者や抗体低下者への適切な再接種推奨
また、風疹排除国として、これまでの日本の経験とノウハウを活かし、国際的な感染症対策への貢献も期待されています。
市民一人ひとりにできること
排除認定によって安心できる社会が実現していますが、個人の健康を守るためにもまだできることは多いです。
- 自身や家族のワクチン接種歴の確認
- 定期接種・抗体検査の活用
- 感染症への関心と正しい理解を持つ
- 周囲の未接種者への情報提供や受診の勧奨
共同体としての協力が、「風疹排除状態の維持」を支える最良の力になります。
まとめ
WHOによる日本の風疹「排除」認定は、人々の健康を守るために社会全体が取り組んできた成果です。しかし、感染症対策は長い道のりであり、油断せず、継続的な予防と啓発が必要です。今後も、市民・行政・医療機関が一丸となり、安心して暮らせる社会を目指しましょう。