EPAによる「温室効果ガス危険性認定」撤回が米国社会に投げかける波紋

はじめに ― 米環境政策の転換がもたらすインパクト

2025年8月、アメリカ環境保護庁(EPA)が、温室効果ガス(GHG)が「公衆衛生にとって危険」とした2009年の危険性認定(エンデンジャーメント・ファインディング)を撤回する方針を発表しました。この認定は、同国のCO₂などGHG排出規制の法的根拠でしたが、新政権下での突然の方針転換により、アメリカ国内外で大きな議論と懸念が広がっています

危険性認定とは何か ― 規制の根幹をなす法的基盤

「危険性認定」とは、温室効果ガスが人の健康や福祉を脅かすことを政府が公式に認める判断です。2007年、アメリカ連邦最高裁はEPAに気候汚染物質の規制権限があると判断しました。その基となったのが、2009年の「GHG危険性認定」でした。これにより、自動車や発電所、石油・ガス田等さまざまな分野での排出規制が義務付けられ、GHG削減がアメリカの環境政策の柱となってきました

撤回の経緯と理由 ― 共和党政権の政策転換

このたびの撤回提案は、トランプ大統領時代から予想されていたもので、共和党政権による気候政策の大幅な見直しの一環です。政府側は「以前の規制は現実的でなく、米国の自動車産業の競争力維持や車の選択肢確保のため、見直しが必要」と主張。撤回案はパブリックコメントを経て、早ければ2025年12月に最終決定される見通しです

撤回案の影響 ― 各方面への波及効果

  • 規制撤廃によるコスト削減:

    EPAは、もし危険性認定の撤回が確定すれば、2012年モデル以降の自動車等の排出基準が無効となり、年間540億ドル規模の規制コスト削減を見込んでいると発表しました

  • 自動車産業やエネルギー業界の反応:

    米国自動車イノベーション協会(AAI)のCEOは「現行規制の達成は困難」と評価し、一部メーカーや業界は歓迎する立場を見せています

  • 環境団体・州政府の反発:

    一方、環境保護団体や民主党が主導する州政府は「科学的事実の否定であり、気候変動対策の後退」と強く反発。訴訟提起がすでに示唆されており、連邦最高裁まで争われる事態も予想されています。そのため、最終的に規則の撤廃が確定するのは2028年頃まで長期化する可能性が指摘されています

  • 気候変動問題への国際的懸念:

    米国の温室効果ガス政策の根幹が揺らぐことにより、世界的な気候変動対策の流れに逆行し国際協調への影響も懸念されています。特に「パリ協定」の目標達成にも悪影響を与えうると、各国の専門家やメディアから警鐘が鳴らされています

最新の科学的知見と政策の乖離

気候学者や科学界からは、最新の研究により温室効果ガスの脅威が一層明確になっているとする声が高まっています。さまざまな統計や実地調査も、GHGの増加による平均気温上昇、極端気象の頻発、健康被害など、多くのリスクを指摘しています。にもかかわらず、規制根拠となる「危険性認定」の撤回は「科学に反する動きだ」と批判されています

今後の展開 ― 社会、経済、環境への影響

  • 裁判闘争の行方:

    オレゴン州など環境意識の高い州政府は直ちに撤回反対を表明し、法廷闘争に発展しています。司法判断次第で、同認定の復活や追加的な州独自の規制導入の可能性もあります。

  • 自動車・産業界:

    規制撤廃は一時的に事業者の負担軽減となり得ますが、長期的には技術開発や国際競争力の低下、環境意識の高まりとの齟齬が懸念されています

  • 市民生活への影響:

    排出増加による大気汚染悪化、健康被害のリスク増大など、国民の安全や未来世代にとって望ましくない影響が指摘されています。

  • 国際社会との調和:

    米国の動向は世界に強いメッセージを送り、他国の環境政策や世界的イニシアティブにも影響を及ぼしています。パリ協定遵守やSDGs推進の潮流と乖離する懸念も表面化しています

まとめ ― 持続可能な地球に向けた対話と行動が求められる

この「危険性認定」撤回は、アメリカ社会のみならず、全世界の脱炭素・気候危機対策の流れに大きな波紋を広げています。技術革新や産業競争力の維持と環境保護とのバランス、短期的経済効果と長期的な地球環境保全という複雑な利害が複雑に絡み合います。いま求められるのは、科学的知見に基づく冷静な議論と社会全体の合意形成です。

今後も、本件に関する訴訟や規則制定プロセス、各州および国際社会の対応など、一つ一つを丁寧に見つめていくことが、持続可能な地球の実現のカギと言えるでしょう。

引き続き最新情報に注目していきましょう。

参考元