ローム、パワー半導体分野で世界をリードする協業と技術革新

ローム株式会社は、近年、パワー半導体市場における先端技術と、業界大手メーカーとのグローバルな協業により、持続可能な社会を支える中核的な存在となっています。2025年9月25日、ロームとInfineon Technologies(以下、Infineon)は、最先端の炭化ケイ素(SiC)パワー半導体のパッケージ標準化に関する協力体制を構築する覚書を締結し、世界のパワー半導体業界に大きな影響を与えました。この協業がもたらす新しい価値、実際の産業応用事例、そして今後の展望について、技術動向を中心にわかりやすく解説します。

1. ロームとInfineon、SiCパワー半導体パッケージ共通化で協業

2025年秋、ロームとドイツ大手半導体メーカーのInfineonは、炭化ケイ素(SiC)パワー半導体パッケージの設計を共通化するという戦略的パートナーシップを発表しました。これにより、車載充電器、太陽光発電、エネルギー貯蔵システム、AIデータセンターといった先進アプリケーションにおいて、両社のSiCパワーデバイスが相互に供給できる「セカンドソース体制」の構築を目指します。

  • パッケージ共通化の具体策:ロームは、Infineonが開発したトップサイド冷却プラットフォーム(TOLT、DDPAK、Q-DPAK、Q-DPAK Dual、H-DPAKなど、全パッケージ高さ2.3mm)を採用。これにより、設計の柔軟性や互換性が高まり、冷却システムや部品の最適化、コスト低減、スペース効率化、電力密度向上(最大2倍)が期待されています。
  • 顧客への提供価値:「ユーザーニーズに応じて両社の製品を柔軟に併用でき、設計や調達の選択肢・柔軟性が飛躍的に向上する」と両社は説明しています。サプライチェーンの強靭化と迅速な技術導入を支え、カーボンニュートラル社会の実現や次世代車両の開発を後押しします。
  • 今後の展望:協業の範囲は将来的にシリコンや窒化ガリウム(GaN)など、他種パワー半導体にも拡大する計画です。多様なエネルギー・産業インフラに対応した包括的プラットフォームの構築を目指しています。

Infineonのグリーンインダストリアルパワー事業部幹部も「この協業でお客様により広い選択肢と柔軟性を提供でき、高効率応用の開発が加速される」と述べています

2. ロームSiCチップ搭載、中国新型車向けインバーターの性能革新

ロームの高性能SiCパワーデバイスは、世界の自動車産業においても大きな注目を集めています。特に2025年後半、中国大手自動車メーカーの新型EVに、ロームの第4世代SiC MOSFET(ベアチップ)が搭載されたインバーターサブモジュールの量産が始まりました。

  • 高効率・高信頼性:SiCデバイスはSi(シリコン)に比べて、オン抵抗が低く、高温動作や高耐圧・高周波動作に優れるため、電力損失の大幅低減と高い電力変換効率の実現に寄与します。その結果、EVの航続距離拡大や充電時間短縮に直結します。
  • インバーターの革新:ドイツ部品大手シェフラー社(Schaeffler)の新型インバーターにロームのSiCベアチップが採用され、EV駆動系の省エネ性能・小型・軽量化に寄与しています。中国市場をターゲットにした最新クロスオーバーBEV「bZ5」にもローム製SiC MOSFETパワーモジュールが導入され、業界標準となりつつあります。

さらにロームはDOT-247パッケージを採用した2in1型SiCパワーモジュールもPV(太陽光発電)インバーターやUPS(無停電電源装置)、半導体リレーなど産業機器用途向けに量産化。サプライチェーンの安定化に貢献しています

3. シェフラー、高電圧インバーターブリックの量産開始とロームの貢献

ドイツを代表する自動車部品大手であるシェフラー(Schaeffler)は、2025年に 高電圧インバーターブリックの量産開始を公表しました。この製品に搭載されているロームのSiCパワーチップが、性能革新のカギを握っています。

  • 高電圧化と大電流対応:高電圧インバーターブリックはエネルギー変換効率を一層高め、EV向け大出力モーターの要求にも応える性能を備えています。冷却性能の向上により連続大電流駆動も可能です。
  • 産業用途への拡張性:この高電圧ブリックは車載以外にも産業用ロボットや再エネ設備など幅広いシーンで活用可能とされており、実証~量産導入でロームのSiCデバイスがエネルギー産業インフラの発展を支えていることが確認できます。

4. 日本国内連携と今後の生産体制強化

ロームはパワー半導体分野の安定供給を目的に、東芝デバイス&ストレージとも共同で国の支援を受けながら、競争力強化とサプライチェーン強靭化を加速しています

  • 国内生産拠点の拡充:2023年11月にはソーラーフロンティアの旧国富工場を取得し、宮崎第二工場として再整備。ここに8インチSiCウエハーラインを整備、生産の主力拠点へ進化させています。
  • 生産能力:2025年から26年にかけてSiCパワー半導体 年間72万枚、ウエハー70.8万枚(いずれも8インチ換算)、シリコンパワー半導体 年間42万枚(12インチ換算)など拡大計画を進行中です。
  • 多層防御型サプライチェーン:日本政府からの1300億円規模の助成金も追い風に、ロームと東芝は協力しながら、国内サプライチェーンの耐障害性向上を実現しています。ロームは国内外協業を合わせた二本柱で、先進パワー半導体市場に最適な供給体制を構築しています。

5. ロームのパワー半導体が社会に与える影響

ロームがリードする
SiCパワー半導体や次世代パワーモジュールは、カーボンニュートラルやIoT化、AI時代の電力需要を支える基盤技術として、社会の持続可能な発展と利便性向上に大きく寄与しています。

  • EV・再生可能エネルギー分野の拡大:ロームのデバイスはEVメーカーやエネルギー管理システム、産業用新エネルギープラント、インフラ設備等で急速に採用されています。効率化・長寿命・省エネ・コスト低減の面からも世界のトップメーカーの信頼を勝ち取っています。
  • 設計から調達の柔軟性:今回のパッケージ標準化や複数社セカンドソース体制は、お客様企業の設計負荷や部品選定・調達リスクを軽減し、トータルコストや開発期間の短縮に貢献します。
  • 業界・社会変革の中心へ:多様なグローバルパートナーシップと日本政府の支援を土台に、ロームは単なる製造企業を超えて先進社会基盤の設計・運用にも関与し続けています。

6. 今後への期待とパワー半導体業界の行方

ロームとInfineonのSiCパワー半導体協業は、パワーデバイス分野において先端産業の持続的発展、ユーザーニーズの多様化、人と環境に優しい社会実現へ向けた画期的な第一歩といえます。EV・再エネ・産業IoT分野の本格的なシフトを下支えする新しい技術標準とパートナーシップ構築は、ものづくり大国日本と欧州産業界の競争力を一層高めるものです。

今後もロームは、グローバル協業、国内安定供給体制の強化、次世代パワー半導体の技術革新を続けながら、「人と社会をつなぐエネルギーの架け橋」として、産業・社会インフラの変革に貢献し続けていくでしょう。

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