隈研吾氏設計・馬頭広重美術館の改修本格化――屋根ルーバーの老朽化とその対応、そして設計の責任を問う声
はじめに
栃木県那珂川町にある馬頭広重美術館は、2025年で開館25周年を迎えます。その記念すべき節目を前に、建物の大規模改修工事が本格化しています。設計は日本を代表する建築家隈研吾氏。特徴的な八溝杉(やみぞすぎ)のルーバー(格子)が生み出す柔らかな外観は、自然との調和を目指した名建築として多くの建築ファンや美術愛好家から高く評価されてきました。しかし現在、美術館は屋根を中心に深刻な老朽化が進み、町全体を巻き込む大きな課題となっています。本記事では、改修の経緯や背景、設計への評価、町民や専門家の声、今後の展望について丁寧に解説します。
馬頭広重美術館の概要
- 所在地:栃木県那珂川町
- 開館:2000年(2025年で25周年)
- 設計:隈研吾建築都市設計事務所
- 展示内容:歌川広重の浮世絵版画ほか日本美術
- 特徴:地元の八溝杉を使った細い格子状のルーバー(外壁・屋根)
- 施工:大林組
美術館はその独自性と美しさにより、県外からの観光客も多く訪れる那珂川町のシンボル的存在です。
美術館が抱える課題:屋根ルーバーの深刻な老朽化
長年にわたり、美術館の外観を彩り守ってきた八溝杉のルーバーですが、近年になり黒ずみや腐食が進み、木材が折れ曲がったり破損したりする状況が各所で確認されるようになりました。元々は黄金色に輝いていた屋根や壁の杉も、風雨や紫外線による劣化で色あせ、ここ数年で特に損傷が激しくなりました。
- ルーバーの一部は崩落が発生
- 雨漏りも館内で報告
- 美術館スタッフや町の担当者は安全と保存・景観維持の両立に頭を悩ませている
この背景には、外部の木材ルーバー部分のメンテナンス費用を十分に確保できなかったという町側の事情もありました。また、当初の設計・施工時点では木材保護塗料の性能が今よりも低く、想定以上に劣化が早まったとの指摘もあります。
改修の内容:屋根材を八溝杉からアルミへ
改修工事では、傷みが顕著な屋根部分のルーバーを見た目が木目調に近いアルミ材へと変更する方針が固まりました。長期的な維持管理とコストダウンを意識した判断です。
- 新しいアルミルーバーは杉の質感を再現
- 将来的な補修の手間やコストを大幅に軽減
- 町の財政力で持続可能な美術館運営を目指す
その一方で、当初の八溝杉による「自然素材との調和」を重視した設計コンセプトとのバランスをどうとるか、今も議論が続いています。美術館スタッフや町民の間では、「オープン当初の輝きを再び取り戻したい」といった期待とともに、「景観や雰囲気は今のままで保ってほしい」という声も多く聞かれます。
高額な改修費用と町議会の議論
今回の改修には約2億5千万円〜3億円という巨額の費用が見込まれており、町民や町議からは驚きや戸惑い、あるいは懸念の声もあがっています。
町は、ふるさと納税やクラウドファンディングなど多様な資金調達手法で費用をまかなう計画ですが、それでも地元財政への影響は小さくありません。
- 町議の一部からは「設計に瑕疵(かし=ミスや欠点)があったなら、一部は設計者も負担すべきでは」との厳しい指摘
- 美術館改修後の利活用をどう増やすか、町ぐるみで知恵を絞っている
設計責任と専門家の見解
このルーバー老朽化問題については、建築家としての隈研吾氏個人、または設計事務所側の責任を問う声と、「当時可能な最良の選択であった」とする評価が対立しています。
- 隈研吾氏は「木材が古くなった最大の要因は、当時の木材保護塗料の性能限界」だと強調
- 建築エコノミスト・森山氏は「ルーバーを屋根の上にデザイン的に並べることで、どうしても木部が傷みやすくなった」と設計意図と実用性のバランスに言及
- 建築業界からは「予算や気候条件を考慮すると仕方なかった」とする見解も
町としては、「開館後の維持管理体制や資金計画も含めて今後検討すべき課題」としています。また、議会の承認を経て2025年度中の工事完了を目指しています。
町民・利用者・観光客の声
今回の大規模改修を巡って、町民や施設利用者の間からはさまざまな声が聞かれます。
- 「維持費は大変だと思うが、町のシンボルなので存続してほしい」
- 「木材ならではの温もりが好きだったので寂しい」
- 「リニューアルを機に、イベントや展示内容も一新してほしい」
- 「全国に誇れる文化財なので、クラウドファンディングにも協力したい」
現地に取材に訪れた記者が屋根を近くで見ると、木材が折れたり黒ずみや腐食でボロボロになっているのが一目瞭然で、「前はあんなに美しかったのに…」と、町民が口々に語っていた様子も伝えられています。
全国に広がる隈研吾建築の再評価と、今後の可能性
隈研吾氏による建築は馬頭広重美術館だけでなく、国立競技場や話題のカフェ「COEDA HOUSE」など、数多くの公共建築・商業空間で高い注目を集めています。最近ではCOEDA HOUSEの8周年を記念し、「丸ごと貸切チケット」が当たるフォトコンテストも開催され、改めてそのデザイン性や空間体験が話題となりました。
今回の美術館改修を契機に、隈研吾氏の建築に対する社会的な目線やメンテナンス計画のあり方、公共施設としての文化的価値の継承方法などが全国規模で再検討される気運も高まっています。
まとめ
馬頭広重美術館の今回の改修問題は、「持続可能なデザインと地域文化の共存」という現代建築の課題そのものです。設計思想やデザインの魅力をどう活かしつつ、時間とともに避けがたい老朽化や予想外の状況にどう向き合うか――建築家、自治体、利用者、地域社会すべてに問いかけられています。
工事は2025年度中の完了を予定、町民・観光客も巻き込んだ新たな美術館として再生できるかどうか、今後の動きに注目が集まります。