吉田類が歩いた9月―「酒場放浪記」からはじまる夜
2025年9月22日、テレビの前に集まった多くの視聴者が、BS-TBSの人気番組「吉田類の酒場放浪記」を再び楽しみました。この日の舞台は神奈川県横須賀市。港町の情緒と歴史が色濃く残る安浦町、県立大学駅近くの「居酒屋 初音」が紹介されました。「酒場詩人」とも呼ばれる吉田類さんが飄々と暖簾をくぐり、酒と人との交差点で心温まるエピソードが紡がれた一夜となりました。
歴史が沁みる町、横須賀安浦の「初音」
「居酒屋 初音」は、かつて遊郭として栄えた安浦の町に店を構えてから60年以上続く老舗です。昭和30年代、賑やかだった時代を知る二代目ご夫婦と息子さんが営む家族経営の温かい空間。店内のメニューは和洋中を問わず約90種類、どれもマスター自慢の手作りです。ピザの生地やソースも自家製で、寿司屋として始まった歴史を今に伝える「おまかせ寿司」も名物。吉田さんは、心を込めて作られる料理や、変わらない町並みにひかれ、地元の常連客と杯を交わしました。
変わらぬ空間と人のあたたかさ
この日のもう一つの立ち寄り先は、惜しいことに2022年に閉業した銭湯「日の出湯」。昭和や令和の面影を残す九谷焼のタイル絵が、いまも地域の記憶として残されています。居酒屋とともに風景として町に溶け込み、酒場放浪記らしい「人の営み」が静かに描かれていました。吉田類さんは、その空間の温度や人々の表情を丁寧に言葉にし、視聴者にそっと伝えます。
人生の交差点としての酒場
「酒場は人と人とを結ぶ場所」。吉田類さんは番組内で度々そう語ります。酒場では、世代や立場を超えて人が集い、昔からの常連も新しい出会いも同じ空間で時を過ごします。初音でも、常連客たちが昔話に花を咲かせ、そこに吉田さんも自然に溶け込んでいきました。これは、日本のどの町にも共通する「居酒屋文化」の魅力です。
兵庫県加東市「山田錦」まつり――酒と米の物語
9月下旬、兵庫県加東市では日本一の酒米「山田錦」をテーマとした酒蔵まつりが開催され、全国からおよそ5,000人が集まりました。全国20蔵の銘酒が勢ぞろいし、来場者は北播磨自慢の日本酒の飲み比べを通して、豊かな米と酒の文化を肌で感じるイベントとなりました。ここでも吉田類さんは熱い酒愛を語り、「山田錦」が織りなす日本酒の世界に誘います。
「山田錦」生産地としての誇り
兵庫県は日本最大の酒米産地であり、とりわけ「山田錦」はその象徴です。コメのタンパク含有量が低く、心白が大きいという特性が、発酵に適し旨い酒になるとして高く評価されています。加東市には、その山田錦の田園が広がり、毎年秋になると新米を使った新酒が各地の酒蔵から誕生します。酒造家や農家を招き、蔵ごとの個性を生かした酒を味わうこの催しは、地元誇りの祭りといえるでしょう。
吉田類さんのコメント――酒と故郷を語る
イベントには吉田類さんも登壇。「日本酒は酒米、蔵人、そしてその土地が生み出す奇跡」と語りかけました。「特に山田錦の酒はふくよかで丸みがあり、季節や食事に寄り添う奥深さが魅力です」とのコメントは、来場者に大きな共感を呼び、地元の皆さんも再認識するきっかけとなりました。
農家と酒造家が歩んだ100年の歴史
加東市をはじめとする播磨地方は、江戸時代から続く灌漑技術や正確な水管理のおかげで、良質な酒米生産地に発展してきました。また、農家と酒造家が情報やノウハウを共有しながら互いに支え合い、品質向上を目指してきた歴史もあります。2025年には「兵庫の酒米『山田錦』生産システム」が日本農業遺産にも認定されており、自然環境と人の知恵の結晶として、次世代に繋いでいくべき財産となっています。
吉田類の視点と日本酒文化のこれから
吉田類さんは番組やイベントを通じて、単なる飲酒の楽しさだけでなく、土地の文化や歴史、食との融合、人と人との繋がりを丹念に伝え続けています。それは、「酒は人生の潤滑油」という彼自身の哲学に他なりません。放送の中で見せた「居酒屋 初音」での一コマも、加東市の祭り会場での熱気も、「日本の酒場文化」がいかに多様で深いかを証明しています。
地元に根ざした食と酒の豊かさ
吉田類さんが歩む町には、それぞれのストーリーがあります。歴史が刻まれた建築、代々受け継がれる味、そして、地元ならではの人情。こうした場所でこそ日本酒や居酒屋文化は生き続け、老若男女が集い、語り合うことができます。番組やイベントを通じて、多くの視聴者に「酒場で流れる時間の尊さ」や「地元再発見」のきっかけが生まれているのです。
新しい世代とこれからの酒場
近年、酒場文化や日本酒造りの担い手にも変化が見られています。新しい世代の酒蔵が挑戦する新種や、地元農家とのコラボ商品、海外からの観光客の増加――。そのような中、吉田類さんのように日本各地の酒場を訪ね歩く姿勢は、改めて伝統へのリスペクトを呼び起こし、新しい流れを自然体で受け入れています。
まとめ ― 酒が紡ぐ人と土地の物語
- 吉田類さんは、酒場や酒蔵で出会う人々、土地の歴史や文化を優しく鋭い視点で伝え、日本の食文化の奥深さや人の温かみを浮き彫りにしています。
- 横須賀「居酒屋 初音」では、昭和の面影と手作り料理、家族と常連客が織り成す穏やかな日常が描かれました。
- 加東市の「山田錦まつり」では、酒蔵と農家、そして消費者が一体となった賑わいと、時代を超える日本酒の魅力が再確認されました。
- 酒場文化が今も息づく日本の各地。世代を超えた交流と、これまでの歩みを未来へつなげていく意義が広がっています。
これからも各地の酒場や祭りに注目し、「人と酒、そして土地」が織り成す物語を多くの人に伝えていきたい。吉田類さんの放浪は、終わることのない「日本再発見」の旅なのかもしれません。