AI時代に求められる「リテラシー」とは?――数理・データサイエンス・AI教育の最前線

近年、AIやIT人材不足が深刻化し、社会全体のデジタル化に対応する「リテラシー=基礎知識・活用力」が強く求められています。こうした流れの中で、大学入試や学部編成にも大きな変化が生まれています。本記事では、AI・データサイエンス時代の大学教育の最新動向と、特に注目される「リテラシーレベル」認定校である酪農学園大学摂南大学の取り組みをわかりやすく紹介します。

社会全体で高まる「数理・データサイエンス・AIリテラシー」への期待

政府はデジタル人材の育成を急務と位置付け、文部科学省「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度(リテラシーレベル)」を通じ、全国の大学で基礎的なAI・データリテラシー教育の普及を推進しています。このリテラシーレベルは、全学生が将来どの分野・職種に就くとしても、データやAIとの関わりから切り離せない社会に不可欠な「共通言語」とも言えます。

  • 導入:データと社会との関係性、データサイエンスの役割を学ぶ
  • 基礎:データの収集・加工・可視化・分析手法など、扱うための知識や技能の習得
  • 心得:AI活用時の倫理的・法的・社会的配慮(たとえば著作権や個人情報、差別や偏見問題など)

2025年度には、リテラシーレベル認定校は98校となり、データやAIに弱い“文系・理系の壁”を越えた全学的な基礎教育が全国で拡大しています。認定プログラムの拡充により、学部にかかわらず全学年でAI・データリテラシーを修得できる機会が増えています

酪農学園大学――すべての学生がAI人材の「第一歩」を学ぶ

北海道江別市にある酪農学園大学は、2024年度より全学群生を対象としたリテラシーレベル・プログラムを開始し、その内容が文部科学省から正式に認定されました。この取り組みは、農食環境学、畜産学、環境科学、獣医学といった幅広い分野の学生全員が、将来どのような進路を選んでもAI・データサイエンス知識を生かせるように設計されています。

  • 1年次・2年次の基盤教育のカリキュラムに「情報科学の基礎」「情報処理基礎演習」「統計学IまたはII」などリテラシー科目を配置
  • データの分析を通じて「現場での意外な事実」や「興味深い相関関係」の発見を重視
  • 分析結果をグラフや図を使いわかりやすく表現・発表することで、相互に刺激し成長できる学びの場を作る
  • 社会・実生活・農業分野との関わりや活用例も具体的に学ぶ
  • データの倫理や社会的意義についても議論

また、学修成果の可視化や外部公表、プログラム運営の自己点検・評価システムも整備されており、学生一人ひとりの「AI時代の基礎力育成」に大学全体で取り組んでいます。
専門的な分野ごとの垣根を越え、すべての学生が「社会で使える」数理・データサイエンス・AIスキルの素地を築くことが狙いです

摂南大学も「リテラシーレベル」認定――文理融合型で課題解決力育成

同様に、大阪府にある摂南大学も、文部科学省「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)」に認定されました。
摂南大学は理学・工学のみならず、幅広い学部でデータサイエンス教育を通じて「課題解決力」「創造力」「コミュニケーション力」など汎用的なスキルを身につけることを目指しています。AIやデータ活用は工学・ITだけでなく、経済・経営や社会福祉など多様な分野で求められる時代です。

両校ともに、リテラシーレベル認定プログラムを通じて、単なるITリテラシーではなく、データの捉え方や応用、倫理観、そして他者との協働を含めた「21世紀型基礎力」育成を推進しています。

大学受験・学部再編にも広がる「AI・データサイエンス」強化の波

少子化と産業構造の変化により、大学入試改革や学部再編も急ピッチで進んでいます。大学受験生や高校生にも、今や「数理・データサイエンス入試」や「AIリテラシー教育」が重視され、志望理由書や面接でも「データをどう読み解くか?」といった視点を問われることが増えています。高校での「情報I」必修化、高等教育でのAI基礎教育の重視など、教育の裾野が広がっています。

  • DX(デジタルトランスフォーメーション)推進企業からのAI・IT人材の需要増大
  • 既存の学部に「データサイエンス学部・コース」「情報学部」「AIエンジニア養成コース」新設や再編の動きが広がる
  • 文理融合や他学問分野横断型のカリキュラムによる幅広い分野でのリテラシー教育の実現

こうした背景には、単にAIやITの知識だけでなく、「多様な価値観を持つ他者と協力できる力」「未知の課題を自ら発見し、データに基づき解決策を導き出す力」を各大学が重視し始めていることも挙げられます。それこそがAI・データサイエンス時代を生き抜くための強い武器となります。

リテラシー教育がもたらすもの――すべての学生に開かれた未来

AI・データサイエンスというと、理数系学生や一部のエンジニアだけが必要な知識だと思われがちですが、現代社会では医療、福祉、農業、教育、行政、サービス業など、すべての分野でAIやデータ活用の機会が急増しています。文系・理系を問わず、また職種や地域にかかわらず、
すべての若者がAI時代の「リテラシー」を身につける意味は計り知れません。

  • 将来的なキャリアパスの選択肢が広がる
  • 専門分野の課題をより正確に分析・解決できるようになる
  • 職場や地域社会で「データを使って説明・提案する力」が高まる
  • データリテラシー不足による誤解やトラブルの抑止
  • 自らAIやIT活用の善し悪しを判断できるようになる

これらの素養は、今の高校生や大学生だけでなく、生涯にわたり学び続ける全ての市民にも不可欠です。リテラシー教育は、今まさに「誰ひとり取り残さない」持続可能な社会への第一歩なのです。

まとめ――「リテラシー」が紡ぐ新しい学びと未来

AI・データサイエンス人材の不足が叫ばれる今、「リテラシーレベル」認定プログラムは、単に知識を学ぶだけでなく、社会や実生活で本当に活用できる力を身につける新しい学びの土台です。酪農学園大学、摂南大学をはじめとする先進的な大学の取り組みは、日本全体の教育変革をリードしています。

教育や社会の現場で、「わかりやすく、実践的で、すべての人が取り組めるAI・データ教育」が今こそ求められています。学生時代に養われた「リテラシー」が、複雑化する社会を解きほぐす唯一の鍵となりつつあるのです。これから進学を考える皆さん、そしてすべての学び手にとって、新時代を切り開く力――それが「リテラシー」教育の真価と言えるでしょう。

参考元